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<コラム>麻生副総理の「ヒトラー発言」…思慮足りない言葉は攻撃材料にされる、まして外交の場面では

如月隼人    2017年9月1日(金) 17時20分

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麻生副総理兼財務相が再び、ヒトラー絡みの問題発言をした。中国外交部の華春瑩報道官は8月31日の定例記者会見で、麻生副総理個人だけではなく日本の政界に存在する大きな問題として批判した。資料写真。

麻生副総理の発言も、ヒトラーについて「一万歩譲って、仮に動機が正しかったとしても駄目だ」といった表現だったら、反応はやや違ったのではないか。あるいは「すべての人民が平等であるユートピアを実現させようとする毛沢東の動機は正しかったとしても、大躍進や文化大革命で千万人規模の人を死なせた結果はだめだ」とでも表現すれば、もっとよかったのかもしれない。

「問題あり」と解釈される発言をすれば、反対勢力から「集中砲火」を浴びることになる。まして、日本と対立点を持つ国にとっては、国際社会に対して自国の正当性をアピールする「恰好の材料」になりかねない。

中国外交部の華春瑩報道官は8月31日の定例記者会見で、「日本国内には依然として、歴史問題について間違った認識を頑固に堅持する一部の政治勢力が存在する」と批判。さらに「われわれは改めて、日本国内の一切の勢力に対し、妥当で正しい歴史観を持ち、歴史から深刻に教訓を汲み取り、実際の行動をもって自国、アジアの隣国、国際社会の信用を得るよう求める」と述べた。

華報道官は麻生副総理の発言を、日本の政界に存在する問題として拡大した。さらに「国際社会の信用を得るよう求める」と論じたことで逆に、「日本は国際的に信用を得ていない」との主張を込めたことになる。

もうひとつ興味深い点がある。華報道官に質問した記者は麻生副総理の発言について「ヒトラーはユダヤ人数百万人を虐殺した。動機がどんなに正確であれ、これはだめだ」と紹介した上で、華報道官に考えを求めた。

麻生副総理の発言と比べて、「ユダヤ人」との言葉が追加されている。ナチス・ドイツの行った行為のうちでも、一般的に「最も許されない」とされているホロコーストを印象づける言い方になっていることが分かる。

質問した記者の所属は明らかでないが、中国外交部の記者会見で中国系記者が質問した場合には時おり、質問部分をも含めて、自国政府の立場を印象づける質疑応答が発生する場合がある。8月31日の質問についての真相は不明だが、メディアの独立性が存在しない中国では、政府側が事前にメディアに対して質問内容についての働きかけを行った上で、自らに都合のよい演出をする可能性があると考えておかねばならない。

外交的に利用される結果になったことを踏まえれば、麻生副総理の「ヒトラー発言」はやはり、思慮に欠いたと評せざるをえない。麻生副総理は研修会で、「国民に確たる結果を残して初めて名政治家だったと言われる」とも発言した。つまり、「政治家は結果を出さねばならない」と強調することが真意だったという。

自派閥の「同志」に対して、結果を出す存在になることを求めるという麻生副総理の「動機」は正しかったかもしれない。しかし中国政府の反応だけを見ても、「日本は歴史認識について極めて大きな問題のある国」とアピールする機会を中国に与える「結果」を招いてしまったことになる。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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