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西側諸国による中国へのハイテク製品の輸出規制や米国による高率関税に対する中国の報復措置としては、レアアースの輸出規制が注目されてきたが、中国にはそれ以外の「反撃の切り札」があるという。
トランプ米大統領は4月2日、世界の多くの国を対象に、高率の「相互関税」を発表した。日本を含めた多くの国が交渉による税率の引き下げなどを試みたり、「報復措置」を打ち出した国もある。そして米国側と交渉しつつも最も本格的な「措置」を打ち出したのが中国だ。中国は関税問題以前から、米国が主導する中国へのハイテク製品の輸出規制の影響も受けていた。中国の報復措置としてはレアアースの輸出規制が注目されてきたが、台湾メディアの聯合新聞網はこのほど、中国にはそれ以外の「反撃の切り札」があると紹介する記事を発表した。
中国の「切り札」とはガリウム、ゲルマニウム、アンチモンでだ。非日本では「レアメタル」と呼ばれる一連の金属類の一部で、その名の通り極めて希少だ。この3種は、半導体その他の各種電子機器の製造に不可欠だったり、高性能を得るためにも欠かせない重要な物質だ。中国はこれらの物質に関連する輸出規制を2023年に初めていた。さらに米国が中国への半導体の輸出規制を強化すると、24年にはこれら物質3種とその関連製品の米国への輸出を原則として禁止した。
ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンは軍民両用物資だ。米国の国防情報会社のゴビニは24年12月に発表したリポートで、中国によるガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの輸出規制が米国に与える影響を指摘した。リポートは、米国防総省および米国沿岸警備隊が使用する2万点以上の独立部品が中国の輸出規制の影響を受けており、すべての軍種にわたる1000以上の兵器システムに影響が及んでいると指摘した。兵器部品の中では、6335点がアンチモンを必要とし、1万1351点がガリウム、1万2777点がゲルマニウムを必要とするという。。
ゴヴィニはさらに分析を進め、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモンを使用する米国の1000以上の兵器システムには合計1万2486の供給チェーンが存在し、うち全体の86.7%に相当する1万829の供給チェーンは何らかの形で中国の供給業者に依存していることを明らかにした。アンチモンの2768の供給チェーンうち、2427が少なくとも1社の中国企業に依存しており、ガリウムの5583の供給チェーンのうち、4733が少なくとも1社の中国企業に依存している。ゲルマニウムの4135び供給チェーンのうち、3669が少なくとも1社の中国メ企業に依存している。
英国紙のフィナンシャル・タイムズによると、カナダの鉱物関連会社のストラテジック・メタル・インヴェストメンツのテレンス・ベル会長は、これらの鉱物関連について、中国からの出荷量は「完全に枯渇している」と述べた。同社は少なくとも半年間、ゲルマニウムを全く購入できておらず、「夏の間ずっと、毎日2、3社からゲルマニウムの価格について問い合わせの電話があった。今の市場はまさに供給不足だ」と説明した。
フィナンシャル・タイムズはさらに、ドイツに本社を置く、先端技術に必要な金属やレアアースなどの供給企業であるトラディウムの説明を紹介した。同社関係者よると、ゲルマニウムの需要が非常に旺盛であり、米国や欧州を中心に市場は「パニック状態」に陥っているという。そのため、「ほとんど誰もがわれわれを探しているが、顧客の質問に答えることすらできない」との状況という。
米国のシンクタンクであるシルベラド政策アクセラレーターによると、25年1-7月間に米国が中国から輸入したゲルマニウムは前年同期比で約4割減少した。世界のコモディティー市場の分析を手掛けるファストマーケッツは、9月10日時点でゲルマニウムの価格が2011年以来の高値となり、1キロ当たり5000ドル(約74万円)に迫っていると指摘した。23年初頭の中国がまだ輸出規制を実施していなかったころと比べれば、ゲルマニウムの価格は5倍程度になったという。
英国の金属関連商社のでトレーダーを務めるアーロン・ジェローム氏はフィナンシャル・タイムズに対して「以前は中国から100キロのゲルマニウムを輸入できたが、今では10キロでも手に入れば神に感謝するほどだ」と語った。
中国のガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの生産量はレアアースほどの絶対的優位性はないものの、ガリウムの生産量(未精製の粗ガリウム)は世界の9割以上を占め、ゲルマニウムの生産量(同)は約83%、アンチモンの精製品の生産量は71%を占めている。世界で高純度ガリウムを製造する企業は主に米国、日本、カナダなどに集中している。したがって、中国がガリウムやゲルマニウムの粗鉱物の輸出を規制すると、原材料の供給だけでなく、世界の精製重要金属市場にも衝撃を与えることになる。
ここでガリウムやゲルマニウムは粗鉱物について語られている理由は、これら二つの金属は岩石中に非常に分散して存在し、集中的な採掘が困難なためにほとんどが他の金属の副産物として産出されるからだ。例えばガリウムはボーキサイト鉱床に、ゲルマニウムは鉛亜鉛鉱床に伴って存在している。中国ではガリウムやゲルマニウムの原鉱をだけを求めて採掘することはなく、石炭灰、ボーキサイト、閃亜鉛鉱などの他の鉱物の副産物から抽出している。そのため、比較的安価で輸出でき、他国は競争しにくく、完全な供給チェーンを構築するのも困難だ。
台湾稀土および希少資源応用産業連盟の呼び掛け人である海中雄氏は、中国がガリウムとゲルマニウムを「武器化」した当時は、米国、欧州連合(EU)、さらに日本もその深刻さを軽視していたと指摘した。海氏は「今になってようやく気づいた、今後さらに苦痛と圧力が増すだろう」との見方を示した。(翻訳・編集/如月隼人)
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