中国が外交攻勢、拡大BRICSと「一帯一路」テコに自由貿易体制の旗手目指す=ASEAN・中南米などグローバルサウス取り込む

八牧浩行    2025年5月20日(火) 18時30分

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中国は拡大の一途をたどるBRICSや巨大経済圏「一帯一路」をテコに東南アジア、中南米、アフリカなどグローバルサウスを取り込み、自由貿易体制の旗手の地位を狙っている。

中国の外交攻勢が続いている。拡大の一途をたどるBRICSや巨大経済圏「一帯一路」(海と陸のシルクロード)をテコに東南アジア、中南米、アフリカなどグローバルサウスを取り込み、自由貿易体制の旗手の地位を狙っている。

中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ共和国で構成されるBRICSに、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)が加盟した。世界でBRICSの占める割合は人口の45%、国内総生産(GDP、購買力平価ベース)で37%を占め、主要7カ国(G7)のそれぞれ10%、30%をいずれも大きく上回る。

さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の経済大国インドネシアが1月に加盟を表明した。BRICSの拡大に向けて創設された「パートナー国」にグローバルサウスを中心とした13カ国が加入。多くの国が同国に続く動きを見せており、グローバルサウスとの連携がさらに強まることになる。

一方で、G7は影響力の源である経済力が相対的に低下している。購買力平価で国内総生産をみると、1980年代に世界の過半を占めたG7のシェアは冷戦終結後に経済がグローバル化した90年代に50%を下回り、21世紀には30%台へと縮小した。

中国は経済支援で世界の多くの地域に浸透し、米欧への対抗軸としてBRICSの拡大を後押ししてきた。トランプ米政権の「アメリカ第一」政策のあおりを受けて米欧と距離を置く多くの国を取り込みつつある。

ペルー中部に巨大港湾が完成、「一帯一路」構想の一環

ペルー中部の太平洋岸チャンカイに中国資本主導で建設された巨大港湾が完成し、24年11月に開港式典が開かれた。中国の巨大経済圏「一帯一路」構想の一環で、南米とアジアとの海上輸送が直接連結した。中国海運最大手の中国遠洋海運集団が権益の6割を保有している。ペルーだけでなく、中国との貿易関係を強める周辺国の利用も想定され、「南米のハブ港」となると期待されている。

習主席は「(港が)ペルーや中南米、カリブ海諸国の繁栄と幸福への道」になると表明。ペルーのボルアルテ大統領も「ペルーにとって歴史的な瞬間だ。世界クラスの物流、技術、産業の中心として国が強化される」とアピールした。総事業費は約34億ドル(約4900億円)。港の水深は17.8メートルと世界最大級のコンテナ船も寄港が可能だ。ペルー太平洋岸とアジアを結ぶ海上輸送は平均25日となり、従来に比べ約10日間短縮される。ペルーや隣国チリは銅の主要産出国。周辺ではリチウムも埋蔵量が豊富で、電気自動車(EV)に欠かせない戦略物資の運搬に寄与すると期待されている。

中国と中南米諸国が北京で閣僚級会議、コロンビアが「一帯一路」に参加

中国と中南米・カリブ海諸国は13日、北京で閣僚級会議を開催した。習主席が演説し、中南米からの輸入拡大を表明した。中国・中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)フォーラムの枠組みで開かれ、33カ国が加盟しており、ブラジルのルラ大統領やコロンビアのペトロ大統領、チリのボリッチ大統領ら首脳が参加した。

習氏は「関税戦争に勝者はいない」と述べ、多国間貿易体制を断固として守ると掲げた。中南米諸国と「一帯一路」に基づくインフラ建設や農業、エネルギー、鉱物資源を巡る協力強化を唱え、中南米・カリブ海地域への660億元(約1兆3200億円)の融資枠を設けると表明した。中南米側の出席者も貿易・投資やインフラ、農業、科学技術、エネルギーに関する中国との連携に期待した。

こうした中、中国とコロンビア両政府は14日、コロンビアが「一帯一路」に参加するための文書に署名。両国は貿易や投資、インフラ整備で連携を強める。習主席とペトロ大統領が北京で立ち会った。習氏は会談で「コロンビアの『一帯一路』参加を契機として、両国協力の質と水準を高めるべきだ」と呼び掛けた。ペトロ氏は中国と貿易やインフラ、新エネルギー、人工知能(AI)の分野での協力拡大に意欲を示した。

ブラジル、アルゼンチンと農産物輸入契約

中国は2017年に発足した第1次トランプ政権との米中貿易戦争を経て、大豆輸入などの対米比率を下げてきた。

米国に代わる調達先が南米で、中国は5月上旬にブラジルと大豆240万トンの輸入契約を締結。さらにアルゼンチンと大豆、トウモロコシ、植物油の調達契約を交わした。

習氏は13日、北京の人民大会堂でブラジルのルラ大統領と会談し、中国とブラジルの関係強化に向けた共同声明をまとめた。農産物貿易や食料安全保障を巡る協力を発展させると約束した。

国際通貨基金(IMF)によると、中国とラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)に加盟する中南米33カ国の対中貿易額は2000年から2022年の22年間で40倍近く増えた。ブラジルとは23年までに68倍へ急拡大した。中国は銅やリチウムといった重要鉱物の調達も南米に頼る。EVなどの輸出先としても南米は重要だ。

「中国アフリカ協力フォーラム」で植民地主義の歴史に言及

中国は人口が急増しているアフリカ諸国との関係強化にも注力している。中国が主催し、アフリカの50カ国以上の首脳らが参加する「中国アフリカ協力フォーラム」が2024年9月に北京で開かれ、習主席が今後3年間で総額3600億元(約7兆2000億円)規模の資金を拠出することを表明した。開発途上国33カ国の製品の関税をゼロにする優遇措置を打ち出したほか、10億元(約200億円)の食糧援助を提供すると約束した。

習主席は中国とアフリカの関係は「歴史上最良の時期にある」とし、協力深化に向け巨額の資金拠出と安全保障協力拡大を約束した。「西側諸国の現代化プロセスはかつて、広範な発展途上国に甚大な苦難をもたらした」と欧米諸国を中心とした植民地主義の歴史に言及。中国とアフリカに代表される途上国は「歴史的不公平を絶えず正してきた」と指摘し、今後も緊密に連帯していくことを呼び掛けた。

習主席がベトナム・マレーシア・カンボジアを訪問、貿易・投資拡大を約束

習氏は4月中旬にベトナム、マレーシア、カンボジアのASEAN3カ国を訪問した。マレーシアのアンワル首相との会談では「団結と協力で共に対抗する」と語り、トランプ関税への共闘を呼び掛けた。アンワル氏も「ASEANはいかなる一方的な関税措置にも賛同しない」と述べ、両国の貿易を拡大すると約束した。

ベトナムの首都ハノイでは最高指導者のトー・ラム共産党書記長とサプライチェーンの連結強化で合意した。ベトナム北部と中国南部をつなぐ複数の鉄道開発を推進し、物流の一層の増大を目指す。

この後、習氏はカンボジアの首都プノンペンに入り、フン・マネット首相と会談。カンボジアの経済を支えるため、同国の農産物の輸入や中国企業による投資を拡大すると約束した。

中国政府は北京で8~9日に「中央周辺工作会議」を開催した。2013年10月に開いた周辺外交工作座談会を格上げし、ASEAN、日本、韓国、ロシア、北朝鮮、中央アジア諸国など周辺国との相互信頼を強固にする方針を打ち出した。

習氏は5月に訪ロし、モスクワで開かれた対ドイツ戦争勝利80年の記念式典に出席した。習主席はプーチン大統領と会談し、合同軍事演習の規模・範囲の拡大や定期的な海空の合同パトロール、経済協力などを盛り込んだ共同声明を発表した。

日中間の人的交流が活発化

日本に対しては、王毅共産党政治局員兼外相が3月に4年半ぶりに訪日し、日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉の早期再開を求めた。

一方、超党派の日中友好議員連盟が訪中し、4月29日に北京の人民大会堂で中国共産党序列3位の趙楽際政治局常務委員と会談した。同連盟会長の森山裕自民党幹事長は中国によるレアアース(希土類)の輸出管理に懸念を示し、緩和を求めた。

中国と中央アジア5カ国は4月26日、カザフスタンのアルマトイで外相会合を開き、貿易規模の拡大で合意した。トランプ米政権による関税引き上げを念頭に「一方的な保護主義反対」で一致した。王毅外相のほか、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの各外相が出席した。中央アジアから農産物輸入を増やし、「一帯一路」に基づくインフラ投資を拡大すると表明。中央アジア各国は中国との貿易の円滑化やサプライチェーンの連結に意欲を示した。中国はキルギスやウズベキスタンを経由し、欧州とつなぐ鉄道網「中央回廊」などの建設を進めている。

中ロ首脳会議で20件以上の協力文書を交換

習主席は9日、モスクワで開催された対ドイツ戦勝記念日を祝う式典に出席。プーチン大統領はじめ多くの首脳と会談した。習氏はプーチン大統領との会談で「一帯一路」に基づき、中ロのインフラの連結強化に意欲を示した。両首脳は貿易・投資やエネルギー、農業、航空宇宙、AIの協力拡大で合意した。会談後、中ロの全面的戦略協力パートナーシップの深化に向けた共同声明に署名し、20件以上の2国間協力文書の交換に立ち会った。

米中両政府は12日、互いに課した追加関税の大幅引き下げで合意し、激しい米中対立はひとまず緩和された。習主席は関税政策を巡るトランプ政権と各国の対立を機に外交攻勢を強め、自由貿易体制の旗手の地位の確立を目指している。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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