酷暑・地球温暖化は常態化するのか=昆虫食など「第4の農業革命」が必要?―ポスト岸田政権はグローバル視点で対応を

長田浩一    2024年9月26日(木) 6時30分

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温暖化で大きな影響を受けるのが農業だ。専門家は昆虫食の普及など「第4の農業革命」と呼ぶべき発想の転換が必要と説く。

最高気温が35度以上となる猛暑日の日数が横浜市はじめ各地で過去最高を更新するなど、昨年に続いて今年も酷暑の夏となった。近年の世界的な気温の上昇は、短期的にはエルニーニョ現象(ペルー沖の海水温上昇)の影響が大きいとされるが、長期的には人為的な温室効果ガスの排出増が主因だろう。温暖化で大きな影響を受けるのが農業。専門家は、昆虫食の普及など「第4の農業革命」と呼ぶべき発想の転換が必要と説く。ただ、気候の歴史をひも解くと、今よりはるかに暖かい時代もあれば、極端な寒冷化が進んで地球が凍結した時代もあった。温暖化が半永久的に続くのか、誰も分からない。

世界の平均気温、過去最高を更新

報道によると、今年7月22日の世界の平均気温は17.16度で、過去最高を記録したと欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が発表した。実は、2番目に暑かったのは前日の21日なので、2日連続して過去最高を塗り替えたことになる。温暖化が日本だけではなく、世界全体で進んでいることを改めて浮き彫りにした。

2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」は、世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べ1.5度に抑える努力を追求するとの長期目標で合意した(パリ協定)。しかし、先進国の二酸化炭素(CO2)排出量は頭打ちから減少に転じているものの、中国やインドをはじめ地球全体では増加に歯止めがかからない状態が続いている。このため、温暖化は予想を上回るペースで進んでおり、目標の達成は困難との見方が広がっている。

仮にCO2排出を大きく減らしたとしても、すぐに温暖化が収まるわけではない。先に都内で講演した気象予報士の田家(たんげ)康氏は、「排出と吸収を差し引きゼロとするネットゼロを達成したとしても、大気中のCO2は数十年から数百年残る」として、過去に排出された温室効果ガスの影響が長期的に作用すると指摘。そのうえで、「温暖化対策として『適応』の重要性が増す」として、気温の上昇を前提にして対応を考える必要があると説く。

農業適地は減少へ、穀物生産ピンチ

適応が必要な分野として、田家氏が特に注目しているのが農業だ。地球の人口は、2005年の65億人から2050年には95億人に増加するが、人口増に加え肉食志向の強まりに伴う飼料需要の増加などがあり、穀物生産量はこの間に2倍に増やす必要がある。しかし気候変動の影響で21世紀後半には全世界の農業適地が現在に比べ7.11%減少する見通しで、需要に見合う生産量を確保できるか、危うい状況だ。

将来、世界的な食料不足が顕在化するのではないかと心配になるが、田家氏は「第4の農業革命」で乗り切るべきだと主張する。人類はこれまで、約1万2000年前の農耕の開始、約5000年前の灌漑農業のスタート、大航海時代以降の新大陸に由来する農作物(ジャガイモ、トウモロコシ)の大量生産など、農業革命と呼ぶべき新たな取り組みで食料を増産し、生き延びてきた。気候変動に伴う農業適地の縮小に対応するには、そうした新たな発想が必要というわけだ。

具体例の一つとして田家氏は、コオロギなどの昆虫食の普及を挙げる。昆虫を食べることに抵抗感を持つ人は多いが、同氏は「ジャガイモだって、欧州では最初、奇妙な形でうつ病を起こす植物とうわさされ、『悪魔のリンゴ』と言われた」として、発想の転換を訴える。確かに、昆虫はたんぱく源として牛肉に比べコストが安く、環境への負荷も少ないなど、いいことづくめ。粉状またはペースト状にして提供すれば、見た目の抵抗感も薄れる。将来予想される食料不足を乗り切るには最良の選択肢かもしれない。もっとも私個人としては、可能ならコオロギを食べることなく生涯を閉じたいと希望するが…。

「暴れる気候」の時代が到来か

それにしても、温暖化はこれからも続くのだろうか。東京大学大学院の杉田精司教授によると、地球は22億年前、7億年前、6億年前の少なくとも3回、表面が全面的に凍り付く全球凍結(スノーボールアース)に陥ったという。赤道部分を含め地球全体が氷に覆われている状態というのは私の貧弱な想像力の範囲を超えているが、過去3度あったということは、これからも起きる可能性はあるのだろう。

古気候学者の中川毅氏が著した「人類と気候の10万年史」(講談社ブルーバックス)によると、500万年前の地球は今よりかなり気温が高く、南極、北極を含め地球上のどこにも氷河は存在していなかった。それが300万年前ごろから寒冷化が進行。最近80万年をとってみると、「氷期」の時代が基本で、10万年に一度ずつ1万年程度の温暖な時期が現れるサイクルが続いている。つまり、現在のような温暖な時代は1割ほどしかなく、例外的存在なのだという。そして、人類は約1万2000年前からの直近の温暖な時代を活用して文明を育んだ。

このサイクルは太陽を回る地球の公転軌道の変化に基づくと考えられているが、これが続いているとすれば、そろそろ氷期に入ってもいい時期だ。しかし、現在の地球は温暖化が進んでいる。人類が温室効果ガスを垂れ流していることで新たな氷期の到来が先延ばしされているとする説もあるが、果たしてそうなのか。

中川氏は、7月17日付朝日新聞のインタビューで、太陽と地球の位置関係に温室効果などの影響が加わることで、気温が極端な上下動を繰り返す「暴れる気候」の時代が到来するかもしれないと警鐘を鳴らす。「過去の地球の姿を見る限り、気候が暴れる時代は必ず来ると考えるしかない」。気温が激しく上下する時代は、少しずつ温暖化が進む現状以上に、農業はじめ人類文明にダメージを与える可能性が大きい。

地球の気候は今後どうなるのだろう。このまま温暖化が進むのか。中川氏が懸念する暴れる気候の時代に入るのか。それとも10万年のサイクルの通り、氷期に向かうのか。いずれになろうとも、世界の経済・社会、とりわけ全人口の過半数を占めるアジア地域は大きな影響を受けるだろう。自民党の総裁選挙、立憲民主党の代表選挙で気候変動についてほとんど議論されないなど、日本ではこの問題への危機感は薄いが、ポスト岸田の新政権にはぜひグローバルな視点で対応を検討するよう望みたい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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