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中国で競売物件が急増、不動産市場の活性化に必要なことは?

吉田陽介    2024年9月16日(月) 21時30分

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一時は中国経済の3割のウェイトを占めたと言われる不動産市場は、経済の減速や規制政策の影響を受けて、かつてのような勢いはなくなった。写真は河南省鄭州市。

中国で競売物件が急増している。不動産市場の活性化に必要なことは何だろうか?

需給のアンバランス解消に努める中国の不動産市場

一時は中国経済の3割のウェイトを占めたと言われる不動産市場は、経済の減速や規制政策の影響を受けて、かつてのような勢いはなくなった。

だが、投資が大きな役割を果たす現在の中国経済の構造では、不動産は「最大の内需」であり、同業界の活性化は中国経済の回復に大きく貢献できる。中国は不動産産業の発展を促す方針に転換し、さまざまな措置を講じている。

3月22日に開かれた国務院常務会議では、「不動産産業はチェーンが長く、波及範囲が広く、人民大衆の切実な利益に関わり、経済・社会発展の大局に関わるものだ」とし、「保交楼(分譲住宅物件の引き渡しを保障する)」、住宅ローン引き下げなど一連の措置を実施し、不動産市場の安定的で健全な発展を促すとした。

5月には、中国人民銀行(中央銀行)は住宅購入の環境を整えるため、1軒目と2軒目の住宅購入の商業個人住宅ローン政策金利の全国レベルの下限を撤廃する、各省支店は管内各都市の商業個人住宅ローン金利の下限やその水準を設定するか否かを自主的に決めるといった不動産購入を促すための金融サポート策を打ち出した。

地方レベルでも、浙江省杭州市による住宅購入制限の全面的撤廃、上海市による住宅購入制限政策の一層の改善、複数子女世帯の合理的な住宅需要の支援、住宅融資政策の改善などの措置の策定など、人々が住宅を購入しやすくする環境を整えた。

不動産問題の核心は需給のアンバランスにある。不動産市場が好調だった時は、需要が大きく、供給が少なかった。そのため、価格が高騰し、自分の家を持つことは「夢のまた夢」となった。

現在は、不動産不況で「住宅ストックの消化」が言われているように、一部では需要に比べて供給が大きくなっている。大都市の便利な場所の住宅は、庶民にとって手が届かないことは変わっていない。だが、需給のアンバランス解消への努力は続けられている。

中国の不動産市場に起きた新たな変化

現在、中国の不動産市場には新たな動きがある。それは競売物件の増加だ。

中国房産信息集団(CRIC=克而瑞)の調査によると、2024年上半期、全国の競売住宅の落札は前年同期比12%以上増の20万2000戸に達した。中国の経済メディアは、競売住宅全体の取引規模は全国の中古住宅取引総量の1%に満たないが、一部都市の新築住宅市場に影響を与えていると指摘する。

競売物件の増加はローンと直接的な関係がある。中国人民銀行のデータによると、2023年の個人住宅ローンのデフォルトは2022年に比べて2.3ポイント増加し、それに合わせるように競売物件も増加した。

住宅ローンのデフォルトが増えたのは、住宅購入者が住宅価格高騰の段階でローンを組んで住宅を購入したが、その後住宅価格が大幅に下落したため、銀行が出した評価額も数年前に比べて大幅に低下し、継続融資額に影響したことが大きい。

さらに、米中貿易摩擦やコロナ禍などによる経済悪化により、収入が減少した、または失業によって収入源を断たれた労働者が少なくなかった。そのため、住宅購入者は返済圧力にさらされ、最終的に返済できなくなり、裁判所の裁定を経て住宅を競売にかけられた。

CRICによると、競売住宅の増加は二線都市で最も際立っている。そのうち、河南省鄭州市の2024年上半期の落札件数は前年同期比43%増の5138件に達した。福建省アモイ市や江蘇省蘇州市などの都市の競売住宅の落札件数も前年同期比40%を超えた。

3線都市、4線都市でも増えている。広東省恵州市、河北省秦皇島市、四川省資陽市などの都市は上半期の落札件数が急増し、恵州市の増加率は43%に達した。

ただ、一部都市では落札件数が減っている。上海市では2024年上半期の競売住宅の落札件数は前年同期比63%減の1111件で、減少が顕著だ。

この原因は、大都市と地方都市の経済発展の基盤の差によるものだとみられる。8月22日の中国メディアの記事は「1線都市と比べ、2線都市は依存性が高い。例えば、蘇州の貿易への依存度が高く、この比較的顕著な単一的依存は、マクロ経済の周期的変化に直面すると、受けるショックもより大きくなる」と指摘している。中国経済の減速によって、ある地方の依存する産業が不振に陥ると、そこで働く人々が収入減などに直面しやすくなり、結果として競売住宅が増えるということになる。

一般的な中古住宅に比べて、競売住宅の価格は通常安く、取引開始価格は評価額の30%ほどを割り引いた価格で、住宅の購入を目指す人にとっては「手が届きやすく」なっている。

住宅の供給量が大幅に増えているが、取引は活発さを欠いている。不動産市場が冷え込んでいることを物語っている。

中指研究院のレポートによると、2024年上半期の競売住宅の成約率は18.4%で、2023年同期の27.2%より8.8ポイント低下した。2024年上半期の競売住宅の成約平均価格は1平方メートル当たり9084元(約18万1600円)で、前年同期比6.7%減だった。

競売住宅の急増は、中国の不動産市場が一段と悪化していることを示している。中国の公式データを見ても、中国の不動産産業は不振から脱却していないことが分かる。

中国国家統計局が8月15日に発表した全国の不動産販売と70の大中都市の住宅価格変動状況によると、多くの都市の住宅価格は前月比で下落し、分譲住宅の販売面積、不動産開発投資額など多くの指標は昨年の同じ月に比べて下落した。

7月における70の大中都市の新築分譲住宅の販売価格は前月比0.6%減、前年同月比5.3%減で、中古住宅の販売価格は前月比0.8%減、前年同月比8.2%減だった。新築分譲住宅価格が下落した都市は64都市から66都市に、中古住宅価格が下落した都市は66都市から67都市に増加した。2線都市、3線都市の下落幅は1線都市を上回った。

分譲住宅の販売は依然として減少が続いている。国家統計局のデータによると、1〜7月、全国の新築分譲住宅の販売面積は前年同期比18.6%減少し、うち住宅の販売面積は21.1%減少した。新築分譲住宅の売上高は前年同期比24.3%減で、うち住宅売上高は25.9%減となった。

不動産開発産業は全体的に見て、依然元気がない。1~7月、全国の不動産開発投資は前年同期比10.2%減少した。家屋の新規着工面積は4億3700万平方メートルで、前年同期比23.2%減だった。住宅企業の今年度入ってくる資金は前年同期比21.3%減だった。

以上のように、不動産関連の指標は軒並み2桁のマイナスとなっている。それは土地市場の不振、住宅企業の資金逼迫、既存在庫の高止まりなどの要因によるもので、短期的には改善せず、不動産産業の停滞は続くとみられている。

不動産市場の活性化には「個人の消費能力向上」がカギ

ただ、中国政府はこのような状況を看過してはいない。前述のような活性化政策を取り、不動産の購入環境を整えているが、購入促進策は5月に出されたものであるため、本格的に効果が見られるまでには一定のタイムラグがある。

また、7月30日に開かれた中央政治局会議では、「不動産市場の安定した健全な発展を促進する新たな政策を実行に移し、既存物件の消化と新規物件の最適化を組み合わせ、既存分譲住宅を買い取り、低所得者向け住宅にする取り組みを積極的に支援し、住宅物件の引き渡しを保障する取り組みに一段と力を入れ、不動産発展の新たなモデル構築を加速しなければならない」としている。

今後一時期の取り組みで重要なのは、既存住宅の低所得者向け住宅化だろう。それは、これまで掲げられてきた「住宅は住むためのものであって、投機の対象ではない」という原則に合致するものだ。

だが、前述のように、経済減速によってローンの支払いが滞る購入者も出て、結果的に住宅を手放すということもあるため、必要なのは個人消費の活性化を呼び水とした経済回復だ。

政治局会議は「消費喚起を重点として国内需要を拡大し、経済政策の力点をよりいっそう民生優遇、消費促進へと転換し、さまざまなチャンネルで個人所得を増やし、中低所得層の消費能力と消費意欲を高め、サービス消費を消費拡大・高度化の重要な取っ掛かりとし、文化・観光、高齢者介護、育児、家事代行などの消費を支援しなければならない」とし、消費拡大も引き続き重要な取り組みだと指摘した。

以前もコラムで述べたように、2010年代中盤からは「供給側構造改革」を掲げ、過剰生産能力の解消に努めたが、現在は需要サイドの活性化も重要となっており、供給サイドと需要サイドを両輪にした改革を行う必要がある。ゆえに、ここで挙げられている「経済政策の力点をより一層民生優遇、消費促進へと転換」というくだりは、「消費主導型経済」への転換を促す点で重要で、中国共産党の「人民を中心とする」考え方にもかなっている。

不動産市場の活性化は長期的スパンで見る必要がある。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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