EVの生存領域は超小型車とスポーツカーのみ?異彩を放つ上汽通用五菱はGM系

高野悠介    2024年9月7日(土) 7時0分

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中国で7月の新エネルギー車の販売シェアが50%を超えた。写真は上汽通用五菱の銀標シリーズ。

中国で7月の新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)の販売シェアが50%を超えた。ただし、その45%はPHEVで、比率が上昇し続けている。中国メディアは、純EVの前途は険しく、シャオミSU7のような高性能スポーツカー、または宏光MINI、BYD海鷗のような短距離通勤用途しか残らないとまで論じている。その通勤用途車市場には中国独自の光景が広がる。以下に考察してみよう。

上汽通用五菱、新型の宏光MINI青春版を発売

上汽通用五菱は8月下旬に宏光MINI青春版4万800元~(約82万円)を発売した。宏光MINIシリーズは2021年の発売以来、累計販売台数130万台を突破し、超小型車の代名詞となった。コンセプトは便利な短距離移動ツール「国民のスクーター」。4シーターだが、4人乗車すると荷室はなく、後席を倒すと容積734Lのスペースが現れる。全長3064mm、全幅1493mm、全高1614mm、ホイールベース2010mmで、日本の軽自動車規格3400mm、1480mm、2000mmより一回り小さい。航続距離は215kmで、急速充電機能を標準装備し、容量30%から80%まで35分で充電できる。100Km当たりの電力消費量は9kmhで、走行コストはクラス最安。最大トルク92Nmの強力モーターにより0~50km加速が5秒で、走行性能は十分だ。

この上汽通用五菱の通用とは通用汽車、米ゼネラルモーターズ(以下GM)のことだ。

GMの合弁企業

中国では米国系自動車メーカーの存在感は薄い。フォードと長安汽車の合弁「長安福特」は業績下降によりリストラ中で、ステランティスは22年7月に広州汽車との合弁を解消した。GMの合弁企業は比較的発展を遂げた方だ。上海汽車との合弁「上汽通用」と第一汽車との合弁「一汽通用」に加え、上海汽車、GM、広西汽車(柳州五菱汽車から改称)の三者合弁企業「上汽通用五菱」がある。

上汽通用は1997年6月に設立され、ビュイック、シボレー、キャデラックの3大乗用車ブランドを生産している。上汽通用五菱は2002年11月に設立され、超小型自動車に特化している。一汽通用は2009年8月に設立され、大型トラックや商用車を生産している。カテゴリーの重複はない。

中国側株主

上汽通用五菱を詳しく見ていく。株主3社のうちの1社、柳州五菱は1958年に設立され、トラクターや軽トラ、バンなどを生産していた。1990年に広西汽車集団に改組され、現在も国有大型企業の一角にあり、商用車、特殊車、自動車部品を生産している。五菱は柳州五菱汽車の登録商標だが、現在は上汽通用五菱の専用となっている。

上海汽車は同じ1958年に国産セダン「鳳凰」の生産を開始した。しかし、その後1975年に至っても年産5000台と伸び悩んだ。運命を変えたのは1985年のフォルクスワーゲンとの合弁、上汽大衆の設立だ。同社生産のフォルクスワーゲン・サンタナが大ヒットして国民車的存在となり、上海汽車に莫大な富をもたらした。続いてGMとの合弁に成功し、国有系最大の自動車企業となった。

上汽通用五菱は株主3社の「優勢資源」を統合し、先進的な経営理念とGM流の管理システムを導入した。これは思いの外うまくいき、競争力のあるバリューチェーン形成に成功した。そしてGMのイメージとは真逆の超小型車で大成功を収めた。

上汽通用五菱のラインナップ

上汽通用五菱は2003年にシボレーSPARKを発売した。2005年に先進的超小型エンジン工場の建設に取り掛かる。年間50万基のエンジンを生産し、後の自主開発車の成功につながった。2010年に海外展開を見据えた自主ブランドを発表し、「五菱」と二本立てとなった。

これまでに超小型商用車、超小型バン、超小型2座トラック、超小型4座トラック、超小型乗用車の5系統、200を超える車種を生産してきた。公式サイトによると、現在は「紅標」「銀標」「宝駿」の3系統39車種を生産している。

「紅標」は商用車シリーズで、純EVのバン軽トラが「揚光」「栄光」「栄光小卡」「E10」の4車種、ガソリン車のバン軽トラが「宏光V」「宏光S」「新宏光S」「宏光S3」「宏光PLUS」「栄光S」「栄光新卡」「栄光小卡」「五菱之光」「五菱征程」「五菱龍卡」「五菱征途」の12車種の計16車種。

「銀標」は乗用車シリーズで、PHEVが「星光」「星光S」「星光共創版」「星辰混動版」「凱捷混動[金白]金版」の5車種、純EVが「繽果」「繽果SUV」「第三代宏光MINIEV」「宏光MINIEV馬卡龍」「宏光MINIEV経典款」「宏光MINIEV GAMEBOY」「宏光MINIEV敞篷版」「Air ev 晴空」「NanoEV」の9車種、ガソリン車が「星馳」「星辰」「佳辰」「星雲」「凱捷」の5車種の計19車種。

「宝駿」はスマートカーで、「悦也」「悦也Plus」「雲朶」「KiWi EV」の4車種。

これらの中で、最安グレードが10万元(200万円)以上というのは4車種のみ。ほとんどの車を4万~8万元(約80万~160万円)の低価格帯に収めている。

生き残る上汽通用五菱

2024年上半期、上汽通用の営業収入は320億171万元(約6400億340万円)で22億7457万元(約454億9100万円)の赤字だったのに対し、上汽通用五菱の営業収入は329億6295万元(約6592億5900万円)で9728万元(約19億4500万円)の黒字だった。今さらシボレー、ビュイック、キャデラックでもなく、上汽通用のリストラは避けられない。超小型車市場を開拓し自社ブランドに磨きをかけた上汽通用五菱が営業収入で上汽通用を上回ったのも時代の流れだ。

直近8月の上汽通用五菱の販売台数は13万2000台で、うち紅標が4万9702台、銀標が6万3435台(うち宏光MINIEVが2万6466台)、宝駿が4772台だった。商用車と乗用車のバランスが取れている。輸出も好調で、前月比15.6%増の1万8970台だった。

上汽通用五菱は新エネルギー車を100万台生産するのに2017年から2022年まで5年かかったが、次の100万台は2022年から2024年までの2年で達成できる見込みだという。上汽通用五菱の2024年上半期の新エネルギー車生産台数は前年同期比89%増の22万台だった。パワートレーンの更新も順調だ。宏光MINIEVはシティーコミューターのエース的存在となっている。GMの遺伝子は意外な形となって中国で生き残りそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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