明代に制作されたとされ、現在は福建省莆田市博物館が所蔵する「設色星図」は、「明代のGPS」などと呼ばれている。いったいどういうことなのか。そしてこの「設色星図」は、ユネスコの無形文化遺産にも登録された媽祖信仰とも深いつながりがあるという。福建省莆田市博物館の元館長で、現在も研究員として活動する柯鳳梅氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、「設色星図」や莆田という土地の歴史的役割、さらに媽祖文化について説明した。以下は元館長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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「設色星図」は航海に欠かせない「明代のGPS」だった

福建省の莆田市博物館に所蔵されている「設色星図」は明朝末期の大型巻物式の紙本画で、縦148センチ、横90.4センチだ。1989年に国家一級文化財（日本の「国宝」に相当）に指定された。

全体は画像部分、文字による説明部分、コンパス部分の3つの部分に分かれている。画像部分の中央部は写実的な天球上の星の図で、明確に確認できるものだけで1400余りの星が描かれている。現在ではギリシャ由来の星座が世界で広く使われているが、古代中国でも星を「星官」と呼ばれるグループに分けた。それぞれの「星官」には神の側面があった。「設色星図」には288の星官が描かれている。

写実的な星の図の周囲には、星と星が属する「星官」の彩色画が描かれている。北斗七星と季節に移り変わりに関係する二十八宿主座の星は赤色で描かれており、残りの星は白黒の点で描かれている。そして明るい星ほど大きく描かれている。

文字の部分は、唐代かそれ以前に書かれた「歩天歌」という詩だ。この詩は計1464の星と、その星が属する283の星官が詠み込まれている。星は季節でも分類されている。この詩を朗詠しながら星図を見ると、星のイメージが非常に生き生きをして、まるで自分が星空の中にいるような気分になる。

コンパス部分は星を描いた丸い部分の周囲の円環だ。このコンパス部分には、24方位が記されている。中国で古い時代に制作された星の図で、このようなコンパスが添えられているものは「設色星図」だけだ。

船乗りは古い時代から、天の星を観測して船の位置を知った。「設色星図」も何らかの形で航海に関係していたに違いない。「設色星図」は明代の船乗りが、星を見て船の位置を知った物的証拠と言える。これが、「明代のGPS」と呼ばれる理由だ。

「設色星図」と媽祖信仰の密接なつながり

「設色星図」はかつて、莆田市内の港の近くの天后宮にあった。天后宮とは伝統的な宗教施設で、「設色星図」があった天后宮を含め、媽祖（マーズー）と呼ばれる道教の女神が祭られていることが一般的だ。媽祖は航海の守り神とされる。かつての航海は、巨万の富を得られるチャンスであると同時に危険も大きかった。そのため、福建以南の海岸地帯では媽祖信仰が昔から極めて盛んだ。そして「設色星図」の存在は、かつての航海関係者が「神頼み」によってのみ安全を手に入れようとしたのだけではなく、科学知識を蓄積させることで、順調な航海を成立させようと努力していた証拠でもある。

天后宮に「設色星図」があったのは偶然ではない。莆田では古くから海運を利用した交易が盛んだった。莆田には三大天然湾があり、海岸線が長い。つまり良好な港を作ることができた土地だ。地元の産品は船で運ばれて行き、外からの品物も船で到着した。莆田は陸のシルクロードと海のシルクロードの中継地でもあり、中国沿岸を北上または南下する船の重要な寄港地でもあった。

遠くの海に乗り出すには、星図が必要だった。莆田の海運関係者は、さまざまな星図を集めたり、自ら作ったに違いない。「設色星図」は商人か船主が航海の安全を祈願するために媽祖に捧げたものである可能性が高い。

「設色星図」があった天后宮は1953年ごろに、運輸関連の事務所として使われることになった。そのため、内部にあった祭器や書画は地元の涵江文化館に引き渡された。涵江文化館が1976年8月に所蔵する書画を整理したところ、「設色星図」が見つかった。文化的価値が高いとみられたために、福建省博物館に送って鑑定を受けることになった。ベテラン画家数人が鑑定したところ、星図に描かれている手の込んだ絵は明代末期から清代初期の作風を反映しており、流派としては揚州派の特色があると見なされた。

「設色星図」は1977年に北京に送られ、文化財を管理する国家文物局と考古研究所が手配した考古学や天文学の専門家が共同で鑑定した。その結果、「設色星図」は歴史的価値が極めて高いと認定された。

中国には、歴史的な星図がかなり多く残っている。始皇帝が中国を統一する前に描かれた図も残っているほどだ。しかし宋代から清代にかけては星図の「空白期」だった。「設色星図」は中国の星図史を補完する極めて重大きな価値を認められた。

「設色星図」は、中国人が星の観測をずっと続けていた証拠でもある。例えば、1572年11月に、天空に突如として出現したティコ新星も「設色星図」に描かれている。

媽祖文化は「21世紀・海のシルクロード」の共同建設を後押しする

天后宮は今も、海外に渡った多くの華僑・華人の重要な交流場所だ。そして、各地域の特色を持つ広大な媽祖文化圏が形成された。例えばシンガポールの興安会館やマレーシアの海南会館は拠点の代表格だ。

媽祖文化は全世界の49の国と地域に伝播し、蒲田の媽祖廟から分祀された媽祖廟は1万カ所以上もある。3億人以上が媽祖を信仰し、「海水あるところには華人あり、華人あるところに媽祖あり」という状況が形成された。媽祖信仰は2009年にユネスコの人類無形文化遺産リストに登録された。媽祖は中国としての初めての、信仰として登録されたユネスコの人類無形文化遺産だ。

人類の文明は交流と相互参照によって多彩になり、民族文化は記憶と伝承によって受け継がれていく。蒲田はまさに、長い歴史を通じて文明の交流の玄関口だった。そして、媽祖は宋代に実在した官吏の娘、黙娘が神となったものであるとされる。黙娘は当時の莆田県の一部だった湄州島の出身だ。すなわち、莆田は媽祖信仰の発祥の地と言える。

莆田から始まって広範囲に伝播した媽祖文化を懸け橋として、それぞれの国や地域の民衆とのつながりを強めることで、「21世紀・海のシルクロード」を共同建設するための、人々の心の融和を後押しすることができる。（構成 / 如月隼人）