北朝鮮経済をV字回復させる3本の矢

北岡 裕    2023年10月16日(月) 18時0分

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北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国は今年の9月9日に建国75周年を迎えたが、朝露首脳会談は十分な成果だったのではないか。少なくとも2回の人工衛星発射失敗の汚名返上はできたと感じている。写真は平壌。

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北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国は今年の9月9日に建国75周年を迎えたが、朝露首脳会談は十分な成果だったのではないか。少なくとも2回の人工衛星発射失敗の汚名返上はできたと感じている。

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金正恩総書記がロシア滞在中にユーリ・ガガーリン航空機工場を視察したのが興味深い。現在、北朝鮮の通常兵器の中で特に航空兵力が大きく米韓に劣っている。今後新しい機体や技術の提供があるのかが興味深い。

巷間で伝えられている通り、ウクライナ情勢での弾薬不足がささやかれるロシアは北朝鮮から弾薬を手に入れ、代わりに潜水艦や核、人工衛星技術などと取り引きする構図が見える。

効果はそれだけにとどまらない。北朝鮮の対外貿易に占める中国の割合は9割に達するともされ、ロシアとの貿易が増せばリスク分散も期待できる。朝露首脳会談に注目が集まっただが、同時期に興味深い動きがさらに2つあったことを紹介したい。

建国75周年に当たり、中露の高官が北朝鮮を訪問している。中国国営の新華社通信によると、中国の劉国中副首相が訪朝した際、金正恩総書記に「農業と医療衛生は重要な民生事業であり、中国はこれらの分野で北朝鮮と交流や協力を深めたい」と述べたとされる。(※1)

食糧支援ではなく農業支援という表現に注目したい。本コラムに掲載した写真を見ていただきたいのだが、実は北朝鮮でなかなか写真を撮れないのが地方都市、特に農村だ。朝鮮総連に近い在日コリアンの友人に見せたところ、「こういう写真は私たちでもあまり撮れない。私的な研究会で使わせてほしい」と頼まれ渡したこともある。

黄海南道の河川の風景。山に生える木がまばらなのが目立つ(2015年筆者撮影)

この写真は平壌と軍事国境線近くの街、開城の間の農村を撮った風景だ。朝鮮半島のちょうど中央部の黄海南道。北朝鮮の穀倉地帯だ。

山の木がまばらなことに気づくだろうか。当然、木が少なくしっかり根が張っていなければその山の保水力は弱くなり、大雨が降れば土と共に川に多くの水が流れる。真ん中の川を見ると、川底が浅く、堤防が低い。川原にも畑がある。短期間でもまとまった雨が降ると洪水が起こりやすい環境にあるのがわかる。さらに北朝鮮では肥料の不足、種苗の問題、灌漑や揚水など農業用水の問題なども深刻とされる。ロシアの駐北朝鮮大使は9月17日、タス通信を通じ、北朝鮮がロシアの食糧支援提案に対し「もうすべて大丈夫だ」と丁重に断ったとし、「今年、彼らは非常に豊作だった」と述べた(※2)。しかし、今年が良いから来年も良いとは保証できない。問題は1年限りの天候不順ではなく、北朝鮮の農業基盤が構造的な弱さを抱えていることだ。そこに中国が支援の手を挙げた。農業の構造的課題が解決することで、食糧問題にも明るい未来が見えてくる。どのような援助をどこまでやるのか。注目したい。

さらに「観光法」の成立にも注目したい。コロナの直前、北朝鮮は観光に大きく力を入れていた。東海岸の元山葛麻観光地区の大規模開発を行っていたが、コロナで止まった。葛麻飛行場はその玄関口として、軍民共用化を経て2015年9月に旅客ターミナルが開港している。

別の媒体にも書いたことがあるのだが、2010年に訪朝した際に朝鮮国際旅行社の案内員と平壌で最後の夕食を食べた際の話を書いておきたい。

平壌滞在最後の夜、実に仕事熱心で好感の持てる案内員の尹氏(仮名)は、日本人観光客の減少にほとほと弱り果てていた様子で「リピーターの北岡さんが考える魅力的なプランは何かありますか」と聞いてきた。平壌名物のアヒルの焼肉をつつきながら「高麗航空の古い飛行機を中心にしたプランはどうですか」と提案してみた。北朝鮮のフラッグシップ、高麗航空は旧ソ連製の飛行機を多数所有しており、イリューシン62やツポレフ154といった機体が当時まだ現役だった。

高麗航空のツポレフ204。新しいが日本ではまず見られない機体(2013年筆者撮影)

アエロフロート・ロシア航空でさえすでに使っていない機体。世界的に見て貴重なミュージアム・ピースの機体がそろっている。これを並べて展示するだけでも貴重だ。機内やコクピットの見学まで許可すれば世界中からマニアが集まるよと熱心に説いたのだが、尹氏は「古い飛行機」という言葉がかんに障ったらしく、「貴重なご意見ありがとうございます。検討しましょう」という社会主義国の言葉と笑顔で最後の夜をしめくくった。

しかしその6年後、葛麻飛行場で「元山国際友好航空祝典」が開かれた。高麗航空所有の貴重な機体展示に加え、戦闘機も飛んだ航空ショーは世界の航空ファンをうならせた。

わずか6年の間に北朝鮮の価値観は変わったといえる。古いものは決して悪くない。レトロなものとしてそれを愛でる愛好者、つまりオタクが世界中にいて、彼らは趣味にたくさんのお金を落とすことをいとわないことに気づいたのだ。

コロナによる国境封鎖直前には実に魅力的なツアーが並んでいた。平壌上空を軽飛行機で飛ぶ(確か出発地は美林飛行場。軍事パレードを行う際に、車列や兵士の列が衛星写真で確認されたと報道されることが多い。よど号事件でボーイング727型機が強行着陸した空港でもある)、自転車で平壌市内を走る、古いトロリーバスに乗るなど今までにないプランとそのやる気に驚かされた。よし、行こうと思っている寸前にコロナで行けなくなってしまったことを心から悔やんだ。

まとめると、北朝鮮は今、ウクライナ特需、中国からの農業支援、そしてインバウンドという長年の経済難と構造的な食糧難から脱却する3本の矢をそろえた。大きな発展、変化が予想される。

私も早期の訪朝計画を立てている。もし平壌で尹氏と再会できたら面白い。その時は「あの時話したプランを横取りしたな。おごれよ」とノンアルコールカクテルを1杯ごちそうになるつもりだ。

(※1)朝日新聞デジタル9月10日付記事

(※2)ハンギョレ新聞10月3日付記事

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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