サウジアラビアのリヤドでこのほど開催されたユネスコの第45回世界遺産大会で、「プーアル景邁山古茶林文化景観」が世界遺産リストに登録された。現地は中国最南部の雲南省のミャンマーやラオスとの国境も近い場所だ。この地の茶文化とはどのようなものなのか。地元出身の蘇国文さんはプーラン族で77歳だ。小学校の教員を定年退職してからは地元の茶文化の研究と保存、普及に取り組んでおり、「プーアル茶茶祭茶祖習俗伝承人」の肩書も持つ。蘇さんはこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、プーアル景邁山古茶林の歴史や現状を説明した。以下は蘇さんの話の主要部分に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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「茶葉を採れない木」も植えることでよい茶を得る

プーアル景邁山古茶林（以下「古茶林」）は中国南西部の国境地帯である雲南省プーアル市瀾滄県に位置する。景観分野で世界遺産に認められた地域の面積は1万9095ヘクタールで、プーラン族、タイ族、ハニ族、ワ族、漢族の5民族が住んでいる。現地には古茶林が5カ所、伝統的な村落が9カ所、他には防護林もある。

「古茶林」は山間部にあり、歴史が極めて長いだけでなく、伝統的栽培方式や森林生態系の安定性を利用した維持方法に鮮明な特色がある。例えば茶の木だけを栽培するのではなく、元からあったモクセイやクスノキを残したり、他の場所から移殖する。すると茶の木にとって理想的な日当たりが得られ、しかも特有の香りが茶葉に伝わる。病虫害の防止にも役立つ。植生の生態系の多様性を利用した茶づくりだ。

集落に近い山は水源地であり、神山とみなされて厳重に保護されている。古茶林や集落は海抜1200メートルから1600メートルの間に分布する。穀類や野菜を栽培する耕作地はもっと低い土地が適しているので、両者は共存しやすい。

次々にやってきた民族が共存する茶の里

この地に最初に住み着いたのはプーラン族だ。元は雲南省南西部からミャンマーにかけて移動生活をしていたが、景邁山で定住した。10世紀ごろのこととされている。人々はまだ狩猟で生計を立てていたが、野生の茶との出会いがプーラン族の生き残りを助けた。茶の薬効に気付いたのだ。

茶には熱冷ましや解毒、消化を助ける、意識をはっきりとさせるなどの効能がある。プーラン族の首領のパーアイランは皆を率いて大森林に入り、茶の苗や種を採取し、集落を囲む柵のそばや家の周辺に植えさせた。茶は化膿や皮膚疾患、下痢などの薬として重宝された。

プーラン族は茶の栽培を主たる生業にするようになった。そして茶を食するようにもなった。プーラン族は茶摘みなどの農作業の際に、冷たい米飯と少量の塩と唐辛子だけを持って行く。昼食の際には周囲にある茶葉を摘んで塩と唐辛子と共に米飯に味をつけて食べる。現地の地元料理としては冷たい茶づけ飯や卵茶などが盛んだが、いずれも伝統的な食べ方だ。

14世紀になるとタイ族がやってきて、飲み物にするための製茶技術がもたらされた。茶葉を発酵させて円盤状にする「餅茶」の技術も取り入れられ、保存と長距離輸送が楽になった。景邁山で茶葉は人々の間の贈答品にもなり、次第に商品に発展した。明清時代に景邁山古茶が「宮廷御用達」の茶に指定されると、古茶林の栽培面積は拡大した。古茶林は景邁山に住む各民族の重要な経済源になった。景邁山にはハニ族、ワ族、漢族も住むようになり、一帯は調和のとれた各民族の「ふるさと」になった。

中華人民共和国の成立後、景邁山古茶林は政府の指導の下でより効果的に保護された。また景邁山の各民族は数年前から共同で、村の計画や環境保護などの規則を制定している。古茶林はさらに良好に保たれようになった。人々の主要な経済源はやはり茶であり、2022年の住民1人当たりの純収入は約2万元（約40万円）で、うち90%が茶に関連する収入だった。

先祖崇拝と自然崇拝が環境と社会を良好に保った

景邁山の茶祖信仰は先祖崇拝と自然崇拝が結合したものだ。プーラン族の首領のパーアイランは死にひんした際に遺言として、「牛馬を残しても自然災害で死んでしまうかもしれない。金銀財宝を残しても使い切ってしまう。この肥沃（ひよく）な茶林を残せば、子孫のために無尽蔵の財宝になる」と言い残したとされる。そのこともあり、プーラン族はパーアイランを茶祖として敬う。毎年4月の特別祭では、1年の中でも最も良い春の茶をパーアイランに捧げ、加護をお願いする。プーラン族の各家庭は、茶林の中の茶の木の1本を家族の茶神として祭る。タイ族の住民も彼らの茶の神木を祭り、タイ族をこの地に導いてきた部族の首領を茶祖として崇めている。

茶祖を祭る儀式は景邁山の各民族民衆の過去、現在、未来をつなぎ、景邁山の社会秩序維持と茶農家の道徳規範を強める伝統だ。私たちは祭祀の儀式で茶祖への約束を実行し、先祖神と自然神に対して道徳的規範を守ることを誓わねばならない。このことで、古茶林の生態環境を保護し、個人の信用が汚点を被らないことが保たれている。

パーアイランの祭祀には景邁山の各民族の人々がすべて参加する。集落によって役割りが決まっている。牛をつなぐくいを設置するプーラン族の集落、牛をつなぐ縄をなうタイ族の集落、パーアイランが妻と恋をした時に飲んだ山の泉の水を提供するワ族の集落などだ。全ての民族が祭祀（さいし）に参加し、集落ごとに役割を分担する習慣は、集落間の交流を活性化し、人々の団結を促進する上で、重要な役割を果たしている。

景邁山の茶林は、まさにわれわれの美しい家だ。人とは自分の体、例えば目を傷つけるようなことは忌避するだろう。われわれは自分の目と同じように、古茶林と茶文化を大切にせねばならない。

プーアル景邁山古茶林文化景観の世界文化遺産登録の運動は13年前の2010年6月に始まった。運動を通して、古茶林とその文化がさらに効果的に保護されるようになった。特筆すべきは法による保護体系の確立だ。雲南省とプーアル市はここ数年、相次いで特別法3本と規則7件を発表し施行した。

今回の世界遺産登録により、「プーアル景邁山古茶林文化景観」の保護と継承がより一層促進されることになる。居住する各民族は主体性を持って役割を担い、景邁山の文化伝承、生態保護、持続可能な発展を推進していく。ただし過度な商業化は避け、遺産の真実性と完全性を確保する。さらに景邁山という文化ブランドを確立し、文化的価値を引き続き掘り起こし、人と自然の調和と共生を成立さえる知恵を絶えず練り上げ、伝承し、景邁山の知名度と評価を絶えず高めねばならない。（構成 / 如月隼人）