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外来医学の「百家争鳴」の中で生まれたチベット医学の特徴とは―専門家が紹介

中国新聞社    2023年8月27日(日) 23時10分

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チベット医学はよく、「インド医学の系統」と言われる。しかしそう言い切ってしまうのは問題があるという。写真は青海省西寧市にある「チベット医薬文化博物館」。

日本では「元は中国から伝わって来た医学。だから漢方と言う」などと、よく言われる。しかし中国には本来「漢方」という言葉がなかった。日本の伝統医学は中国から伝わったが、江戸時代にオランダ医学が伝わると「蘭方」と呼ばれるようになり、日本で伝えられてきた医学は中国から伝来したということで「漢方」という言葉が発生したという経緯だ。中国では「中医」などと言う。「中医」とは一般に、漢族の祖先が生み出し、発展させながら伝えてきた医学体系だ。しかし中国にはチベット医学、モンゴル医学、ウイグル医学などの異なる伝統医学の体系がある。よく「チベット医学はインドから伝わった医学体系だ」と言うが、青海大学チベット医学院の李先加院長によると、歴史の経緯はさらに複雑だ。李院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、「チベット医学とはどのようなものか」を説明した。以下は李院長の言葉を整理するなどで再構成したものだ。

東西の伝統医学を取捨選択してチベット医学が成立

チベット医学は歴史が長く、その理論体系からしても、最も完全な伝統医学の一つとされる。古い文献は質が高く量は多い。人の受胎や解剖学の知識、薬の調合技術や理論面の水準は極めて高い。さらに心疾患の認識と治療法などでも独自の手法がある。

チベット医薬文化博物館

チベット医学の理論体系の形成は2世紀以上をかけて西暦7、8世紀に固まった。チベット高原の住民はそれ以前に、劣悪な自然環境や疾病と闘う過程で大量の診療経験を蓄積し、ボン教医学などの現地医学を形成していた。ボン教とは、チベットに仏教がもたらされる以前から存在した宗教だ。最初期にチベット医学に携わった人らは古代インド医学、漢族の医学、古代西洋医学などを吸収してチベット医学の体系を構築した。

チベット医学はよく、インド医学の系統と言われるが、古代チベット人はインド医学だけを受け入れて、他の医学体系を排除したわけではない。例えば中原医学の理論で極めて重要な「陰陽五行説」や古代西洋医学の「四体液学説」なども取り入れた。初期のチベット医学はまさに「百家争鳴」だった。遠く離れた地域からそれぞれの地域の医学の専門家がチベットにやってきた。早い時期に著された医薬文献は計230巻余りで、内容は基礎理論をカバーするほか、外傷、疫病、内科、婦人科、解毒などの臨床分野に及び、薬の調合などの記述にも及んでいる。このような多くの医学体系が同じ時期に一つの場所に集まり融合したことは、人類の医学史全体においてもまれだ。

チベット高原には当時、30種近くの外来の医学思想や学説、診療技術が伝わった。医学書として極めて重要な「四部医典」などのチベット医学の経典にはそれがすべて取り入れられている。ただし、医学の知識を単純に追加していったのではない。ある特定の医学体系の中では中核的な概念であったとしても、チベット医学に取り入れられるとは限らなかった。例えば古代ローマの解剖学知識、インド医学の受胎説、中医学の経絡説などはいずれも、チベット医学の経典には取り入れられていない。

チベット医薬文化博物館

中国の各民族の伝統医学にはそれぞれの「得意技」

中国には多くの少数民族が存在する。各民族の居住地の地理環境や歴史文化が異なるが、それぞれが生産と生活の中で病気を予防し治療するための豊富な医薬知識と実践経験を蓄積し、自民族の繁栄に役立ててきた状況は同じだ。

チベット医薬文化博物館

代表的な医学体系としては、モンゴル医学、ウイグル医学、タイ医学などがあるが、チベット医学も含めて、全体を重視する外見、天と人は不可分とする「天人合一」、自然を重視すること、論理を組み合わせて治療を行うなどは共通だ。

特定の医学理論がある民族から別の民族に伝わることはあったが、それぞれの民族は外来医学であっても「現地化」して発展させた。たとえばモンゴル医学は理論面でチベット医学の理論を受け継いだが、独自の手法を編み出した。例えば馬乳酒を使った治療や脳震盪(のうしんとう)の治療術などだ。ウイグル医学の主な理論はアラブ医学を経由して伝わった古代西洋医学だ。ウイグル医学は白斑などの治療に大きな特色がある。タイ医学は主に南方仏教の深い影響を受けている。タイ医学は多くの内容が記録として残っており、例えば関節炎の治療などに強みがある。

WHO提唱の「21世紀の医学の方向」に合致するチベット医学の理念

世界保健機関(WHO)は21世紀の医学について、疾病病医学から健康医学へ、治療重視から予防重視へ、病源に対する対抗治療から全体治療へ、医師の役割の重視から患者の自己保健作用の重視へと発展すると表明した。

チベット医薬文化博物館

このWHOの理念はチベット医学が打ち出した自己予防、養生とリハビリテーション、心身の合一、自然重視といった考え方に完全に一致している。チベット医学の多くの理念と方法は未来に向けての医学の発展方向と合致している。中国は、伝統医学の発展を大いに提唱し、推進し、自国の伝統医学と西洋医学の両方を重視することを堅持し、「多元医学」として協力しつつ各種の医療と健康問題を解決することを提唱している。チベット医学は、1000年以上にわたって広い地域に伝えられてきた完全な医薬理論体系として、時代を超越した知恵と生命力を秘めている。われわれがその精華の伝承を堅持し、真の革新を続ければ、チベット医薬は必ずや、大いに役に立つはずだ。

チベット医学の伝統には、もう一つ大きな特徴がある。伝統医学では多くの場合、「師匠が内弟子に伝える」方式で後継者を育成していた。しかしチベット医学では寺院が教育機関、つまり学校を設立することで学生を育てた。そして育成された大量の医師が人々を治療した。チベットの周辺地域に赴いた人も多かった。統計では、名がよく知られる歴史上の医師だけで1500人がいる。彼らの多くが医学書を著した。初歩的なまとめでは3000巻余りが現存している。チベット医学のあらゆる分野をカバーするこれらの文献は、チベット医学が地域や国、さらには人類全体の医療や健康に貢献するための大きな財産になるはずだ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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