<ウクライナ危機>ロシアの石油収入急減=西側、ようやく戦闘機供与へ―反転攻勢は秋以降か

村上直久    2023年5月25日(木) 5時0分

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ロシアのウクライナ侵攻に対する西側の経済制裁の主要な柱の一つである、ロシア産原油の上限価格設定の効果が出始め、同国の石油収入が半減。軍事予算の執行にも影響が出そうだ。資料写真。

ロシアウクライナ侵攻に対する西側の経済制裁の主要な柱の一つである、ロシア産原油の上限価格設定の効果が出始め、同国の石油収入が半減。軍事予算の執行にも影響が出そうだ。

こうした中で、主要7カ国(G7)は5月の広島サミットで一歩踏み込み、ロシアの”侵略に不可欠なすべての品目”の輸出制限措置を強化することになった。また、米国はこれまで拒んできた、欧州諸国による米製のF16戦闘機のウクライナへの提供をようやく認めた。戦闘に投入されるのはパイロットの訓練に時間がかかることもあり、秋以降になるとみられるが、その規模によっては戦局に少なからず影響を及ぼしそうだ。

中印が“漁夫の利”

ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後、西側諸国はロシア産原油の禁輸に踏み切ったが、これは裏目に出て世界の原油価格は高騰し、ロシアの石油収入は急増した。 

こうした中でG7諸国は昨年6月、ドイツで開いたサミット以降、石油に関する新たな制裁を検討。12月に欧州連合(EU)は米国の意向も汲んで、西側の海上インフラへのアクセス権と絡めて、ロシア産原油の上限価格を設定するメカニズムを発表し、実行に移した。

このメカニズムが有効に機能するかどうかについての懸念もあったが、ロシアは急激な減産に動くなどの対抗措置に出ることはなかった。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、ロシア産原油の取引価格は最近では1バレル当たり25-35ドルで、これは世界市場の価格を大幅に下回る。こうした中で、“漁夫の利”を得ているのが、西側諸国に代わってロシア産原油の主要輸出先となった中国とインドだ。

国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの今年4月の石油収入は前年同月と比べて48%減少したという。

石油と天然ガスの輸出はロシアの国家歳入の約4割を占めている。

ロシアは石油収入の急減で大幅な財政赤字となり、これが軍事予算を圧迫し、ウクライナでの戦争遂行に影響する可能性もあるとニューヨーク・タイムズは指摘している。中印両国はロシア産原油価格の上限設定をてこに値引きを迫っているようだ。

世界の原油価格はロシアのウクライナ侵攻を受けて急騰したが、世界景気の減速などもあり、その後2021年末の水準まで戻した。ロシア産原油の下落は世界市場価格の下落幅のおよそ2倍にも達しているとされる。

西側諸国はロシア産原油の中印両国への大幅な輸出増加を対ロ制裁の「抜け穴」と見なしている。インドのロシア産原油の輸入はウクライナ戦争勃発後、それまでの10倍のペースに増えたとされる。

”戦闘機連合“結成へ

米国はウクライナへの戦闘機の提供はロシアとの緊張を高めるとしてためらっていたが、ウクライナ戦争が長期化する中で、欧州諸国の要望もあり、政策を転換した。米国は戦闘機の直接供与には消極的だが、F16の運用のためにウクライナ人パイロットの操縦訓練を担当する。

欧州諸国の中では具体的に英国オランダデンマークがこれまでウクライナにF16の提供を申し出ている。今後、提供国が増えれば、欧州で”戦闘機連合”が結成されよう。

ウクライナ軍はロシア軍に対する、領土奪還のための本格的な”反転攻勢”を近々、開始するとみられているが(本稿執筆時点ではまだ始まっていない)、F16が使えるようになるのは早くても秋以降とみられる。それでもウクライナ軍はドイツから「レオパルト2」、英国から「チャレンジャー」など欧州諸国から合計数十台の高性能戦車を供与されており、対ロシアでの戦力バランスがどのように変わるか注目される。

反転攻勢が予想より後れているのは、ウクライナで4月、例年以上の降雨があり、地面のぬかるみがひどいせいだとされる。ウクライナは欧米諸国の一部で同国への”支援疲れ”が見られ始める中で、反転攻勢を成功させ、同国への支持を強固にしたい意向だ。

そうした中で、ウクライナのゼレンスキー大統領が広島のG7サミットに直接乗り込んで、同国への支援を直接訴えたことで、G7はウクライナ支援で結束を再確認する機会を得たといえよう。

■筆者プロフィール:村上直久

1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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