<ウクライナ戦争と国連>今年中には終結せず、日本は積極外交展開を―赤阪元国連事務次長

赤阪清隆    2023年5月9日(火) 8時30分

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ウクライナ戦争は相当長引く気配を強めている。

ウクライナ戦争は相当長引く気配を強めている。ゼレンスキー・ウクライナ大統領は今年4月末、北欧メディアとのインタビューで、ロシア軍との攻防が数年以上に及ぶ可能性に言及した。停戦の見通しがつかない中、「国連は何をしているのか?」という疑問は当然出てくる。国際平和と安全のために主要な役割を担うはずの国連安全保障理事会(安保理)が、ロシアの拒否権で機能不全に陥っているために、「国連は無力だ」と思われがちだ。しかし、国連全体を評価するにあたっては、安保理だけでなく、(1)国連事務総長、(2)国連総会、(3)数多くの人道援助機関、(4)国際司法裁判所と国際刑事裁判所―などの主要アクターの活動も見極める必要がある。 

安保理が決議を決められない状況にあって、これに代わって総会が重要な決議を次々と可決してきた。ロシアのウクライナにおける軍事行動の停止を求め、国連人権委からロシアを追放し、ロシアによるウクライナ4州の併合を認めず、また、ロシアによる戦争停止と即時撤退を求める決議を多数の賛成で採択した。さらに、安保理で拒否権を行使した常任理事国には、総会でその理由を説明することを求める決議もコンセンサスで採択した。アントニオ・グテーレス事務総長は当初からロシアの侵略を非難する発言を繰り返しているし、国連の多くの人道援助機関も活発に活動している。国際刑事裁判所は去る3月17日、プーチン大統領への逮捕状を発出した。

「安保理は機能していないが、総会をはじめ、国連全体としてはなかなかよくやっている」というのが、国際的な評価だ。米国ピュー・リサーチ・センターの2022年9月時点の調査でも、国連に対する各国の評価は、ギリシャ、イスラエルおよび日本を除けば、概ね好意的である。欧州各国は、好意的意見がおしなべて60〜80%。米国でも、国連に好意的な意見を持つ人が61%に上っている。ギリシャとイスラエルは、それぞれはキプロス問題とパレスチナ問題があるから低いのは分かるが、なぜ日本の国連に対する好意的な評価が40%と低いのか、誰もが首をかしげている。

ただし、国連総会の決議には懸念材料がいくつかある。第一に、安保理決議とは違い、総会決議は加盟国への法的拘束力がない勧告でしかなく、実効性を確保する手立てがないこと、第二に、中国とインドが、決議に棄権したり、反対(人権理事会に関する決議には中国が反対)したりして、西側諸国との足並みがそろっていないこと、第三に、いわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる途上国や新興国の多くが、これらの決議を棄権していることだ。このような事情から、今後国連総会が、単なるロシア非難の合唱にとどまらず、さらにどこまで踏み込んだ決議を採択できるかについては、必ずしも楽観視できない。

そもそも国連総会は、国際の平和と安全に関するいかなる問題についても、討議し、勧告することができる。ただし、安保理がその任務を遂行している間は、総会は、安保理が要請しない限り、勧告をしてはならないこととなっている(国連憲章第12条)。しかし、安保理がロシアの拒否権でその責任を行使しえない場合は、1950年の「平和のための結集決議」に基づいて、安保理に代わって総会が、国際平和と安全を維持または回復するために、必要に応じて武力の行使を含む集団的措置について加盟国に適切な勧告をすることができる。

スエズ危機やナミビア問題など、過去にその例がいくつかある。前述の通り、その総会の決議には、法的拘束力はなく、勧告にとどまるが、決議を実行する国には、国際法上の根拠が得られることになろう。

今後、このような極めて重要な内容を持つ国連総会決議が議論されるとしたら、たぶん、ロシアが非道にも核兵器の使用に踏み切った場合なのではなかろうか。もちろん、安保理はロシアの拒否権行使で決議を通すことはできないであろうが、それで国連の機能が全部マヒしてしまうということではなく、総会が必要な勧告を討議し、採択する道が残されている。加盟国による軍事的制裁も勧告できる。「安保理が機能不全だから、国連は無用の長物だ」と短絡的に結論づけるのは早計過ぎる。

よくよく考えてみれば、安保理の決議には法的拘束力があるといっても、これまでの安保理の軍事的制裁決議のほとんどは、国連自体が国連軍を組織するわけではなく、加盟国に武力行使を含むあらゆる手段をとることを認めるという内容だ。その結果、NATOのような既存の軍事組織や、有志連合軍が制裁活動に加わったわけだが、日本などはこのような軍事制裁には加わっていない。

だから、総会でロシアに対する武力行使を含む様々な制裁決議が通れば、その効果自体は、安保理の場合と大して違わず、有志連合軍による軍事制裁や極めて厳しい経済制裁などということになるだろう。それは、第三次世界大戦の引き金になるかもしれない。ロシアは、もし今後核兵器を使用することがあったら、そのような恐ろしい結果を招きかねないことを肝に銘ずるべきである。

安保理改革については、長年討議が行われてきたが、実現するまでにはまだまだ時間がかかると思われる。特に、国連憲章の改正を必要とするような改革は、日暮れて道遠しの感がぬぐえない。日本は、インド、ブラジルおよびドイツとともに、常任理事国という、航空機でいえばファーストクラスに入り込もうと努力してきたが、実現のめどは全然立っていない。

現行(2年)よりも長い任期の非常任理事国で、何度も改選可能な準常任理事国(ビジネスクラス)ならもっと実現可能であろう。その案に乗り換えればよいではないかと、これまでも多くの関係者が提案してきた。コフィー・アナン元国連事務総長やネルソン・マンデラ元南ア大統領などがメンバーであった「エルダーズ」、元国連大使の故大島賢三氏、吉川元偉氏などもそういう提言をしてきている。

日本が、坂を転げ落ちるようにその国力が小さくなりつつある現在、早く目を覚まして、早期に実現可能な安保理改革を果たさなければ、将来的に安保理で活躍できる機会は極めて狭まってしまう。大事なのは、安保理の主要メンバーとして、国際の平和と安全のために、重要な貢献を果たすことだ。日本は、拒否権を有したいとは思わないだろうから、常任、非常任理事国のどちらであっても差異はない。

それにしても、ウクライナ戦争はいつになったら終わりを告げるだろうか。今まさに、ロシア、ウクライナそれぞれの軍事攻勢が予測されており、双方ともに停戦交渉に入る姿勢は見られない。前述のゼレンスキー大統領の発言に見られるように、ウクライナの軍事的反転攻勢の決意からして、この戦争は今年中には終わらないであろう。

そして、停戦が行われるとしたら、それぞれが国内的にある程度の「勝利」を得たと説明できる状況になってからであろう。停戦ないしは休戦は、日露間の場合のように、領土問題は解決できずともそれを棚上げする形で行われるのではなかろうか。

停戦について、グテーレス国連事務総長は、今年1月の段階で、「真剣な平和交渉が近々行われる状況にはなく、戦争が近く終結するとは思えない」と率直に述べている。当面停戦交渉には、国連としては動き得ない状況にある、あるいは動かない意向である旨を示したものだ。

他方、北京を訪問したマクロン仏大統領は去る4月6日、習近平主席に対し、ロシアとウクライナ間の和平交渉の仲介に向けた中国の役割に期待していると述べたと報じられている。ロシア寄りの中国に、停戦の仲介を依頼するのか、との驚きの感がぬぐえない。マクロン大統領は、台湾問題についても、欧州は米中間の争いに巻き込まれるべきでないとの問題発言をして、物議を醸している。フランス大統領の国際的な発言力の低下が懸念される。

ますます先鋭化しつつある米中露間の対立の谷間にあって、日本やドイツ、インド、インドネシアといった国々に、国際秩序の維持と強化の役割を期待する声が日増しに高まっている。国連だけではなく、世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)なども、機能の改善が急務だ。日本政府にも、共通の関心国とともに、これまで以上に積極的な外交を展開してもらいたい。もうすぐ、G7広島サミット。議長国としての日本の手腕が試されるときである。

■筆者プロフィール:赤阪清隆

公益財団法人ニッポンドットコム理事長。京都大学、ケンブリッジ大学卒。外務省国際社会協力部審議官ほか。経済協力開発機構(OECD)事務次長、国連事務次長、フォーリン・プレスセンター理事長等を歴任。2022年6月から現職。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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