中国新聞社 2023年3月29日(水) 7時30分
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中国はマルクス・レーニン主義を信奉し、社会主義建設を進める国だ。中国は一方で、儒教など自国の伝統文化を尊重している。両者に矛盾はないのか。写真は儒教の開祖である孔子の生まれた曲阜尼山。
中国はマルクス・レーニン主義を信奉する国だ。中国は一方で、自国の伝統文化を活用して現代化を推進すると主張する。マルクス・レーニン主義には、旧社会と決別して全ての人が平等である理想社会の実現を目指す特徴があったのではないだろうか。しかもマルクス(1818-1883)もレーニン(1870-1924)も、伝統的中国とは文化的背景が大きく異なる近代後期の欧州社会を生きた人だ。マルクス・レーニン主義と中国の伝統文化を両立させることに矛盾はないのか。中国の思想文化を研究してきた上海杉達学院中華優秀伝統文化研究所の邵龍宝所長はこのほど、中国メディアである中国新聞社に、そのあたりを解説する文章を寄稿した。以下は邵所長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
マルクスは歴史と伝統をどのように見ていたのか。よく知られている言葉が、「従来の哲学者は既存の世界を説明することに専念していただけだ。問題は世界を変えることにある」だ。
マルクスの伝統に対する態度は思索に富んでいる。マルクスは歴史上の事件に対する考察を重視し、さらに現在の視座から歴史上の事件を思索するすることを重視した。さらには未来の到達目標によって現在を解釈することを重視した。
人間は自然界から生まれたが、自然界に歴史的意義を与える存在は人だ。また、伝統すなわち歴史に対するマルクスの見方は、伝統や歴史の流れは「神が決める」のではなく、「自らの目的を追求する人間の働き」だ。すなわち神本主義ではなく人本主義だ。歴史は自然と人文が有機的に結びついた物語だ。古人も、かつては「現代人」だった。歴史は過去から現在へ、さらに未来へと、人々が生産や交流の実践を通して、より素晴らしい生活にあこがれつつ織りなす過程でありつづけてきた。
歴史研究の鍵は、今日の研究者が、ある種の「視野の融合」を求めて、古人と「対話」することだ。そのような作業を通じて、歴史の流れには一定の方向性あることが見えてくる。その最終的な方向は、自由で伸び伸びとした人間性、すなわち人間性の解放だ。
そして、中華の優れた伝統と中国の特色ある社会主義の価値観にはしっかりと合致する部分が多い。まず第一に、高度な宇宙観だ。儒教の伝統的な理念に「天人合一」や「生生不息」がある。「天人合一」と、人と自然は切り離すことができないということだ。「生生不息」とは、物事が次から次に起って、決して止むことがないということだ。これらの考えは総じて、天、地、人の三者が互恵的に共生することを強調している。人と人との関係は同胞関係であり、人と自然との関係は相棒ということだ。この考え方は、中国の特色ある社会主義におけるエコ文明観と極めてよく合致している。
道教でも、人と天は通じ合うと考えられた。そして道教は「万物一体」を追求した。「万物一体」とは、万物が平等で、命が延々と続くことを意味する。
中国のエコ文明思想には、「緑水青山すなわち金山銀山」というスローガンがある。「すばらしい自然環境こそ、真の富をもたらしてくれるものだ」ということだ。中国の伝統思想と、見事に合致していることが分かるだろう。
中華の伝統思想と中国の特色ある社会主義の価値観は、世界観でも極めてよく合致している。中国には古くから、「天下は一家」といった世界観があった。現実として人と人、勢力と勢力が対立することはあるが、それでも、すべての人は本来は家族も同様な存在だという考え方だ。互いに無関係であることはありえない。そして現在の中国は「人類運命共同体の構築」を主張している。
中国共産党第20回代表大会の報告書は、中国式現代化は人民第一主義を堅持し、自信と自立を堅持し、正しさを守り、革新を堅持し、問題に対する方向性を堅持し、体系的な考えを堅持せねばならないと強調した。報告書また、「天下を胸に抱くことを堅持せねならない」とも論じた。これらはいずれも、中国の伝統的な世界観と合致している。
西側は、自らの民主主義や自由、平等などは「普遍的価値」を持つ者であり、すべての国と民族に適合することを標榜している。しかし実際には、国際関係において競争、搾取、相互排斥がしばしば発生する。西洋の強国は、自らを「世界各国び民衆の受託を受けた」存在と認識した。強国は覇権や文化上の“帝国支配”を追求し、一国主義や強権政治を実行することになった。これが、西洋社会の歴史と文化の伝統だ。
中国文化の「世界観」は調和とウィンウィンを強調し、武力による「覇権」を価値が低いものと断じている。現在の中国の「人類運命共同体」は、儒教、道教、仏教の「中国的世界観」が持つ広い視野など中国の優れた伝統文化の思想の精華だ。
人類運命共同体という理念は、競争と対決を至上とする資本主義文明モデルを批判し反省した上で、人類文明の新しいモデルを構築し、それによって人間の本質と存在方式に対する創造的な解釈を展開しようとするものだ。
中国の伝統文化と今の中国式現代化は、社会観でも一致している。中華の優れた道徳伝統は全体の利益を重視している。この「全体の利益」は、長い歴史を持つ中華思想の重要な構成要素だ。中国式現代化がその中核に据えることは、第一に基本制度と国家安全を守ること、第二に国家主権と領土保全、第三に経済社会の安定的発展の持続だ。古くから今に至るまで、理性と良識を持つすべての中国人は国家の統一を主張し、分裂に反対してきた。中国式現代化の目標は富の両極化ではなく共に裕福になることを目指す。全体の利益の最大にすることの最も良い実現方法は、すべて国民を中心に考え行動することだ。マルクス主義の人民性と中華伝統文化の民本思想の神髄は相通じている。
中国の伝統的価値観は、人の道徳的完成を極めて重視した。天・地・人の中で、最も重要な存在は人だった。そしてその人は天地にならって自らを磨き、徳を積み、大いなる美と大いなる愛を創造すべきと考えられた。
儒教では君子の人格を持った者が大任を担うと考えられた。君子が持たねばならない特性は多岐にわたっている。自らの意志を持ち、自らをたゆまずに高め、内省して身を修め、自らと他者の両立を目指す。他者と和すことが必要だが、迎合することはない。他者には温厚で寛容であらねばならない。徳に依拠し、仁に依拠しする。高い地位を得ても、それだけで満足することはしない。逆に「地位にふさわしい徳を持たねば、かならず災いに遭遇する」と考える。
今日の中国式現代化の一つの中核的命題は人の現代化だ。マルクス主義の崇高な価値目標である「人の自由で全面的な発展」に根差す、中国の特色ある社会主義が目指す人の現代化は、中華の優秀な伝統文化が求める君子の人格や、教養理論などの倫理道徳観と高度な融和性がある。両者が前提とする社会制度は異なるが、目指す方向性は極めてよく一致している。(構成 / 如月隼人)
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