中国新聞社 2023年3月5日(日) 20時30分
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中国で初めて発見された肉食恐竜の化石の本格的化石はヤンチュアノサウルスのものだった。写真は重慶自然博物館で展示されているヤンチュアノサウルス発掘の風景。
中国ではかつて、肉食だったと断言できる恐竜化石が発見されていなかった。そんな状況を打ち破ったのが、ヤンチュアノサウルス(上遊永川竜)の化石の発見だった。重慶自然博物館所蔵品管理部の姜濤副主任は、中生代の恐竜の研究などに従事してきた専門家だ。姜副主任はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、ヤンチュアノサウルスおよびその他の研究の状況、さらに「恐竜を知ること」の意義を紹介した。以下は、姜副主任の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成した文章だ。
重慶自然博物館が所蔵しているヤンチュアノサウルスの化石は、中国国内で最も早く発見されたほぼ完全な肉食性恐竜の化石であり、アジア全体を見ても状態が特に良い肉食性恐竜の化石だ。1976年に四川省永川県(現・重慶市永川区)の上遊ダム付近で発見された。体長は約9メートルで頭骨は大きい。歯は短剣状で、2本の後肢は強健で指の先端には巨大な爪がある。生息していたのは今から1.5億-1.6億年前のジュラ紀後期だ。
この化石は、ほぼ全身部分が残っている希少なものだ。単に珍しいだけでなく、全身がほぼ残っていれば、近い種類の恐竜の化石が発見された場合に、新種と判断するかどうかの大きな根拠にもなる。
中国ではヤンチュアノサウルスの発見以前に、草食性恐竜の骨が多く見つかっていた。ルーフフェンゴサウルス(許氏禄豊竜)やマメンチサウルス(合川馬門渓竜)、トゥオジャンゴサウルス(多棘沱江竜)などだ。中国で肉食性恐竜の化石を初めて見つけたのは米国人地質学者のジョージ・ラウダ―バークだった。発見場所は四川省自貢市栄県で、1915年のことだ。しかしきちんとした研究が行われたのは20年も経過してからだった。研究したのは米国の古脊椎動物学者のチャールズ・キャンプだ。
キャンプはこの恐竜の化石をテラトサウルスに分類した。「中国恐竜研究の父」とされる楊鐘健氏は四川省広元市で恐竜の歯を数点採取し、1942年に「甘氏四川竜」と命名した(日本語名はスゼチュアノサウルス)。チャールズ・キャンプの「キャンプ」は中国語では「甘」と書く。楊鐘健氏は中国で初めて肉食性恐竜の存在を確認した人物として、キャンプに敬意を示したわけだ。キャンプの研究の結論は現在から見れば問題があるのだが、20世紀前半の学問の水準を考えれば、やむをえないだろう。
中国では1960年代までに、シノサウルス(三畳中国竜)、チンカンコウサウルス(金剛口竜)、キランタイサウルス(吉蘭泰竜)など肉食性恐竜の化石が相次いで発見されたが、いずれも状態が良くなく、数も少なかった。そのため国際的な古生物学界では「中国の恐竜は全てビーガンだった」という声まで出た。ヤンチュアノサウルスの化石発見は、こういった主張は成立しないことを、はっきりと示した。
恐竜研究の対象となるのは、具体的には化石だ。完全に保存されている化石からは、権威ある情報を引き出すことができる。ヤンチュアノサウルスの研究が注目された大きな理由の一つは、化石の状態が良かったからだ。
生物の命名には、一定のルールがある。最初は新種と思われても研究が進んだことにともない、それ以前に命名されていた生物と同じ種であると、結論が変更される場合もある。そのような場合には、最も古い生物名を残して、新たにつけられた生物名は廃棄される。
中国では、ヤンチュアノサウルス・マグノ(巨型永川竜)、ヤンチュアノサウルス・ヘピネシス(和平永川竜)、S.ジコノジェンス(自貢四川竜)など、新たな発見が相次いだ。新種であるかどうかはいずれも、ヤンチュアノサウルスとの比較が決め手になった。ヤンチュアノサウルスの化石と明白な違いがあれば、新種として認められるわけだ。
研究者が結論を出すことが前後する場合もある。例えばヤンチュアノサウルス・マグノが発見されたのは1972年だった。しかし状態に問題があり、新種の恐竜かどうか結論が出せなかった。76年に見つかったヤンチュアノサウルスの化石と比較することで新種であると認められ、83年になりようやく命名された。
結論がいったん出た後で、ひっくり返される場合もある。最近になり国際的な学界では、四川省で見つかった恐竜については、ヤンチュアノサウルスとS. ジコノジェンスだけを残して、他の種はこの2種に統合すべきだとの主張が出ている。
私は、恐竜の種として残すべきか、廃止すべきかについては、厳密かつ科学的な確認作業がさらに必要と考えている。私はこの件について、それぞれの恐竜の歯の形状を比較する方法で研究を進めている。
博物館などで恐竜の化石を展示することには、どのような意味があるのか。端的に言えば、人は生まれつき、好奇心を持っているということだ。興味こそが、自ら進んで学習するための、最も良い原動力だ。博物館で恐竜の化石に近距離、さらにはゼロ距離で触れることで、民衆、特に小中学生の知的好奇心を刺激することができる。「恐竜関連グッズ」を世に出すことにも、恐竜に対する、ひいては科学全般対する関心を高めるために有効だろう。
実物に触れれば、インターネットや書物でさらに知識を深めたいと思うようになる。そのことは、青少年が自主的に学ぶ習慣を身につけることを助け、青少年の心に「探究の種」を植えることになる。そのように若い世代を育ててこそ、国として基礎科学研究を充実させられる。
恐竜研究にはより具体的で切実な効用もある。恐竜はかつての地球に存在した実在の生物であり、化石によって地質学的な情報を明らかにすることだ。例えば恐竜が生活していた時期の地球の気候や環境を解読し、特に鳥に進化しなかった恐竜が絶滅した背景を理解することで、地球の推移の法則を大きなレベルで明らかにすることができる。
恐竜はかつて、1億6000万年にわたり地球の支配者だった。しかし、6600年前に姿を消した。地上の支配者は後発の哺乳類になった。
人類は200万年前にホモ・エレクトスから急速に発達した。われわれホモ・サピエンスは、約10万年前に地上の支配者になったと言ってよいだろう。恐竜の興亡の歴史に比べれば極めて短い年月だ。恐竜がなぜ栄枯盛衰を遂げたのかを研究することは、人類の行く末について考えることにつながるはずだ。(構成 / 如月隼人)
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