2023年の中国EV車市場は国有系に風が吹く?優勝劣敗くっきり、異業種からの参入は挫折か

高野悠介    2022年12月26日(月) 8時0分

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2022年の新エネルギー車業界は経済成長エンジンに浮上した。「造車新勢力」の激戦、異業種参入、従来型国有企業の挑戦という3つのトピックから2023年を展望してみよう。写真はHyper SSR。

2022年の新エネルギー車(EV車、燃料電池車、プラグインハイブリッドカー)業界は、沈滞気味のIT業界に代わり、経済成長エンジンに浮上した。テスラ上海BYD比亜迪)の2強が突出したが、ここではそれに次ぐ勢力の動向を取り上げたい。「造車新勢力」の激戦、異業種参入、従来型国有企業の挑戦という3つのトピックから、2023年を展望してみよう。

■造車新勢力…順位大変動

2021年はテスラ上海、BYDの2強を追う「造車新勢力」台頭の年だった。同年の順位は次の通り。

1位 小鵬汽車 9万8155台

2位 蔚来汽車 9万1429台

3位 理想汽車 9万491台

4位 哪吒汽車 6万9674台

5位 零跑汽車 4万3748台

次に2022年1~11月のデータ。順位は激しく変動した。

1位 哪吒汽車 14万4278台

2位 理想汽車 11万2013台

3位 小鵬汽車 10万9465台

4位 蔚来汽車 10万6671台

5位 零跑汽車 10万2675台

小鵬汽車、蔚来汽車は停滞気味で、他社は大幅に伸ばした。毎月順位が変動する激戦だ。この中から、昨年4位からトップに下克上した哪吒汽車を見てみよう。

哪吒汽車(合衆新能源有限公司)は2014年設立。創業メンバーは幹部党員の専門家らだ。その恩恵か、国内投資機構からの資金調達は順調に進んだ。電動化、スマート化、オンライン化を理念とし、上海に本社、北京に設計センター、上海近郊の浙江省・桐郷と江蘇省・宣春に工場と、バランスよく配置している。2018年に最初のEV車のSUV「哪吒NO1」を発表した。以来、順調に業績を伸ばし、最近は29カ月連続で前年実績をクリアしている。直近は5カ月連続で造車新勢力のトップだ。その座を固めるべく、来年は現在の3車種(哪吒V、哪吒U、哪吒S)から5車種体制へ拡大する。視界は良好だ。

■異業種からの参入…障壁は高かった?

不動産大手、恒大集団の創業者・許家印氏は2017年、EVへの進出を表明した。以来、世界20カ国40都市へ飛び、自動車産業の各分野の中核会社と協力関係を結んだ。さらに天津、上海、広州などに1100万平米の工場用地を確保した。2019年には、年産500万台を2035年までに達成して世界最強のEV企業になると宣言した。これで子会社の恒大汽車の株価は6香港ドルから72香港ドルまで12倍に上昇した。しかし2020年8月以降、本業が経営再建に追い込まれる。

10月末、中型SUV「恒馳5」の最初の100台がようやくユーザーの手に渡った。すでに235都市に313のサービス拠点を開設済みだ。品質保証、無料メンテンナンスなど、ユーザーフォロー体制も整った。

しかし、不穏なニュースが盛んに流れている。恒大汽車の本社解体、人員削減、賃金未払い、無給待機、生産停止などだ。さらに広州工場が国有企業に売却され、その人員が天津工場へ異動するため、天津工場が人員過剰になるというかなり具体的なうわさもある。恒大汽車の幹部は、「天津工場の生産活動は正常で、サプライヤーも全面協力している」と否定した。計画では2013年第1四半期に1万台を納品するとされているが、まず不可能だとみられている。

■新「造車新勢力」…天才の挫折

さらに、新「造車新勢力」の台頭がある。その一つが「自游家NV」だ。創業者の李一男氏は、15歳で華中理工大学へ入学し、26歳の若さでファーウェイの副総裁となったエリートだ。その後、北京牛電科技(ニウ・テクノロジーズ)の創業メンバーとなり、2018年にEV車の開発を開始。それが今の自游家NVとなった。

自游家NVは10月に大型SUVを発表し、2万4376台を受注した。しかし、12月上旬に納車不能とユーザーに通知する。そしてプラモデル1台とスターバックスのコーヒー券200元(約3800円)分を送り、48時間以内の全額返金を約束した。

生産体制が確立していなかった。生産は外部の「大乗汽車」に委託した。しかし同社は24カ月以上、EV車の生産を停止していたため、工業情報化部の基準をクリアできず、生産中止に追い込まれた。見切り発車だったのだ。

■従来型国有企業…広汽、一汽が躍進

国有企業も勢力を広げている。例えば広州汽車集団だ。同集団は1997年に広州市政府や広州鉄鋼集団などの広州市の政財界が外資合弁の受け皿として設立した。現在はトヨタホンダ、三菱それぞれとの合弁企業「広汽豊田」「広汽本田」「広汽三菱」を運営している。

2017年にはEV車の生産子会社「広汽新能源汽車」を設立し、同年7月に初のEV車「伝棋GE3」を発売した。同年9月にはテンセントと戦略提携を結んだ。2018年9月に埃安(AION)ブランドを発表し、同年12月に新工場が完成した。2019年に中高級車の「Aion S」と「Aion LX」を発表し、2020年に広汽埃安として独立運営を開始した。2021年にファーウェイとAH18型車の開発で合意。2022年9月に完全自主開発のスーパーカー「Hyper SSR」を発表した。0-100km/h加速は1.9秒で、価格は128万6000~168万6000元(約2443万~3203万円)。

広汽埃安の2022年1~11月の販売台数は前年同期比128%増の24万1149台で、倍増の年間目標を1カ月前倒しで達成した。これは造車新勢力トップの哪吒汽車を10万台も上回る数字だ。

その他、国有系では一汽豊田に注目だ。年産20万台規模のEV専用工場が落成し、「トヨタbZ4X」の生産が本格化する。

■国有系に風が吹く?

剛腕を発揮した許家印氏も、かつてファーウェイの天才とうたわれた李一男氏も挫折した。自動車生産は腕力や頭脳だけで達成できるものではない。これはわかっていたはずで、当然メディアの強い批判にさらされている。

一方、業績が好調なのは国有系と国有親和性の高い哪吒汽車だ。IT業界と違い、2023年は国有系優位の方向性ということだろうか。いずれにせよ、EV業界のサバイバルは激化の一途をたどっている。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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