チベット仏教の「活仏」制度とはどのようなものなのか―専門家が過去と現在を紹介

中国新聞社    2022年12月10日(土) 0時0分

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チベット仏教には、菩薩は人となってこの世に生まれるとの考えがある。この人の姿をした菩薩が活仏だ。活仏は歴史を通してどのような存在だったのか。現状はどうなのか。写真はチベット仏教の概念を視覚化した壁画。

チベット仏教には、菩薩は衆生を救うために人となってこの世に生まれるという考えがある。この人の姿をした菩薩が「転生活仏(活仏、化身ラマ)」だ。活仏が入滅すると数年後に、出生の時期が先代の活仏と合致しており何らかのゆかりがある男の子が、活仏の新たな生まれ変わりと認定される。活仏として格式が最も高いのは、観音菩薩の化身と考えられているダライ・ラマだ。

活仏は長い歴史を通して、どのような存在だったのか。現状はどうなのか。清華大学人文と社会科学高等研究所の教授などを務める沈衛栄氏はこのほど、中国メディアである中国新聞社の取材に応じて、チベット仏教の活仏について説明した。以下は沈教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■チベット仏教に特有の「活仏」の制度、背景には熱心な観音菩薩信仰

チベットでは7世紀初頭に、吐蕃と呼ばれる王朝が成立した。最初の王であるソンツェン・ガンポ(581年ごろ-649年ごろ)の時代にはすでに、チベットの政治宗教の指導者は観音菩薩の化身とされていた。チベットには、人は猿の子孫であるとの伝説があるが、その猿も観音菩薩の化身と考えられた。チベット仏教における活仏転生制度の形成は、チベットの観音崇拝と関連しており、チベット仏教がその宗教指導者を選ぶために普遍的に受け入れられてきた方式だ。

大乗仏教は、菩薩という存在に特別な意義を見出した。インドの大乗仏教も、中国の漢族居住地に伝わった漢伝仏教も、チベット仏教も菩薩を重視する点では同じだ。しかし、菩薩が人の形をした化身としてこの世に出現すると説くのは、チベット仏教だけだ。この考え方は、チベット仏教の伝統の形成と発展にとって、非常に重要な意義を持った。

チベット地区では吐蕃王朝の滅亡後、統一された強大な世俗政権は出現しなかった。そして、宗教指導者の社会全体に対する影響力が大きくなり、政教合致の傾向が顕著になっていった。活仏転生制度は、このようなチベット社会の発展状況に呼応するものだった。活仏が菩薩の化身であるということは、政治の指導者としての権威づけにもつながった。

チベット仏教といっても、さまざまな宗派がある。活仏の制度は14世紀前半に、カルマ・カギュ派において最初に出現した。それぞれの活仏は、格式ある寺院のトップを務める。新たに認定された活仏は、先代の活仏がトップを務めていた寺院のトップを引き継ぐ。サキャ派のように伝統的に家系を重視した宗派では、叔父と甥の関係で相続する制度が続いた。しかし、活仏制度は多くの宗派と採用されて、チベット仏教各派の宗教指導者を選ぶ制度の主流になった。サキャ派も、血族による相続制度を残しつつ、転生活仏の存在を認めるようになった。

■清朝期に活仏の制度が堕落、皇帝の政治介入で状況は改善された

清代の乾隆年間(1736-1795年)には、ダライ・ラマやパンチェン・ラマなど高位の活仏を決定するために金瓶掣籤(きんべいせいせん)という制度が導入された。

乾隆帝はチベット仏教を崇拝していたが、大清の皇帝として強い政治的自覚を持っており、宗教に耽溺(たんでき)することはなかった。北京市内にある雍和宮というチベット寺院には「喇嘛説(ラマ説)」という石碑が残っている。、乾隆帝がラマとチベット仏教の歴史について考察したもので、非常に興味深い記述だ。

乾隆帝は「喇嘛説」で、元代(1279-1368年)の皇帝はチベット仏教の僧にへつらったとして厳しく批判した。皇帝が僧を甘やかし、とがめだてをしなかったので、僧は大いに増長して社会に害をなしたとの指摘だ。一方で、清朝の場合には、チベット族、モンゴル族、満洲族が共にチベット仏教信じることを、民族の親和関係を維持するだけでなく、版図の北西部と南西部の辺境民族地区を効果的に治めるために有効に活用していると論じた。

しかし当時の活仏制度は堕落していた。最大の問題は、血縁とは関係のないはずの活仏が、実際には血縁関係によって決められるようになっていたことだ。活仏はいずれも、入滅した活仏の一族から選ばれていた。そこで乾隆帝は、活仏の選定に一種のくじ引きを導入した。金の容器の中に活仏候補者の名を描いた札を入れておき、そこから選ぶよう定めたのだ。これが「金瓶掣籤」だ。

この制度によっても、「活仏の世襲化」を完全に防止することはできないが、全く恣意に選ばれていた状況は大いに改善された。この措置は、清朝中央政府が政治的権威をもってチベットやモンゴルなどの地域におけるチベット仏教の活仏選びを規範化する措置であり、チベット仏教の活仏転生制度の改革と立て直しに積極的な役割を果たした。金瓶掣籤はチベット仏教の活仏認定制度として定着し、今日まで続いている。

それから、現在のダライ・ラマ14世は、自分は転生しない、あるいは転生を避けると何度か発言したことがある。これは、自分がいかなる状態や方法で生まれ変わるにせよ、政治上の、あるいは宗教上の論争を引き起こす可能性があることをよく理解していたからだろう。ただしチベット仏教の考えでは、輪廻が消滅するまでは、菩薩は繰り返しこの世に戻って衆生を救わねばならない。ダライ・ラマ14世も観音菩薩の化身であるからには、入滅してもこの世に戻ってくることになる。

■現状では「偽活仏」も存在、善男善女は警戒せねばならない

活仏の制度には混乱もある。チベット仏教の高僧はリンポチェと呼ばれるが、かつては北京市朝陽区だけで、自らをリンポチェと称する者が10万人から30万人いると噂されたことがあった。彼らは自らを活仏と主張した。しかし、チベット仏教の教義に従えば、リンポチェの全てが活仏であるわけではない。

活仏については、厳格かつ統一的な認証制度が必要だ。「自称活仏」が世にあふれたのでは、社会が混乱することは必定だ。そこで中国では「偽活仏」を根絶するために、「蔵伝仏教活仏転生管理弁法」が2007年9月1日に施行された。

チベット仏教と信者にとって活仏は、大乗仏教の菩薩信仰の上に成り立つ存在だ。活仏が理にかなう方式で選ばれ、正式に認定する制度があり、各活仏の言動が菩薩の品格と能力を確かに体現していると誰もが認める状態であれば、活仏の存在は広範な信者に利益をもたらし、チベット仏教の発展に積極的な作用を果たすことができるはずだ。

実際には、リンポチェであり活仏であると自称する者の中には、菩薩の慈悲心や、衆生を救う無上の願いを持っていない者もいる。そのような者は何の役にも立たず、チベット仏教の発展を阻害する存在だ。仏教を信じる善男善女は、そのような偽活仏に強く警戒せねばならない。

中国政府は、転生を通じて繰り返しこの世に出現するというチベット仏教特有の活仏の伝承方式を尊重し、チベット仏教が中華民族共有の文化財になることを期待している。このような状況にあって、われわれは活仏の転生制度をより厳格に規範化し、偽活仏を根絶し、チベット仏教の民間への伝播を理性的かつ合法的な状態に保つべきだ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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