松野豊 2022年10月19日(水) 20時30分
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最近の中国の高圧的な外交姿勢は、「戦狼外交」とも呼ばれたりしている。
最近の中国の高圧的な外交姿勢は、「戦狼外交」とも呼ばれたりしている。経済的、政治的に力をつけた中国が従来のいわゆる「韜光養晦」の路線を撤回し、中国の権利権益を主張するようになったことは、ある程度理解ができる。しかし海外公館の外交官などが中国非難に対して感情的にあるいは威嚇的に反論する様は、中国の対外イメージを損ねている。
中国内の識者も当然それを感じているだろう。日本では、中国の外交といえば対米国や対日本のことが話題になることが多いが、行き過ぎた戦狼外交の影響は、その他の国々にも広がっているようだ。
ここでは、「廖望两岸」のタイトルを持つ中国のA記者のブログ(2022年6月26日付)を一例として取り上げながら、こうした諸外国からの好感度低下に対して、中国の識者はどう反論しようとしているのかを探ってみた。
このブログによれば、最近中国の対外好感度が低下しており、この現象は確認できるだけでも日米以外にニュージーランド、オーストラリア、イギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、韓国、スペイン、カナダなどの国々でみられるという。
まずA記者は、この手の好感度調査には、1.調査結果に当該政府の政治的意思が反映されている、2.好感度低下は先進国で見られる現象で発展途上国ではその逆である、という2つの特徴があると主張する。
権威ある機関が実施する好感度調査は、正しく手順を踏んで行われる限り1のような政治的影響はないはずである。少なくとも民主主義国家では、政治が世論調査に影響力を駆使することはあり得ない。しかしA記者が指摘するように、この手の世論調査においては日本人でも米国人でも、時の政府の意向に微妙に影響されてしまうという指摘は同意できる。
発展途上国の対中好感度が高い(低くない)というのも事実だろう。中国は膨大な対外投資や援助によって、発展途上国に利益をもたらしているからだ。しかし発展途上国といえども、経済的支援があるから中国に好感を持つというほど単純ではないはずだ。だから日欧米などと途上国で対中好感度が大きく異なることについては、もう少し深く分析してみる必要はあるだろう。
さて各国の好感度調査の類が、上記の特徴を持っていることについては同意しておく。しかしそれに対する対処法について書かれたA記者の主張には違和感がある。以下にその主張を示すが、ここにもやはり「中国人の論理」が色濃く反映されていると感じる。
1.ご機嫌取りは不要
欧米先進国からの好感度低下は、中国との文化理念、価値観、政治体制、発展モデルの不一致が原因である。我々は独自の発展を遂げたのだから、彼らには理解や肯定はできないのだろう。好感度低下は、彼らが中国を恐れているからでもある。
2.現在の判断基準は西洋がつくったもの
前稿の(1)や(2)でも示したように、現在の世界経済のルールを決めているのは、西洋の先進国であり、それに基づいて他国の善悪を判断している。しかし中国の台頭は、そうしたルールを変えていく良い機会なのだ。
3.そのうち慣れる
現在は、中国の急速な発展に西洋先進国は違和感を持っているが、これが続いていくなら彼らもやがて慣れていくだろう。現在はパワーバランスが移行する過渡期なのだ。
どの主張もかなり説得力に欠ける。少し反論を試みよう。まず1については、西洋が中国の経済発展に反対しているわけではない。問題は発展のプロセスなのである。平たく言えば「公明正大に発展してくれ」ということだ。残念ながら中国は金銭的恩恵を与えていればそれで結果良しだと考え、それ以外のプロセスの問題点には見て見ぬふりだ。
2についても、西洋側はルールを変えること自体を拒否しているのではない。例えば先進国が持つ知的財産権料が暴利であるというなら、中国はその不当性を世界の消費者に定量的かつわかりやすく説明すればよい。中国が新たなルールメーカーになることは可能なのだ。要は進め方の問題だ。「知財をパクって何が悪い」という態度で強引に突破するのではなく、知財の価値を再評価するためのルールや法体系を提案していかなければならない。
3はまさに麻薬中毒の論理と同じで、我々には最も警戒すべきものである。折しも世界は米国の様々な貿易障壁の設定で、今や中国が自由貿易の旗手であるかのような錯覚に陥りつつあるのがその例だ。中国は、自由貿易というルールを都合よく解釈しつつあるとも言えそうだ。
だから民主主義国にとっては、この3が最も手ごわい。日経新聞の2022年10月1日の記事によると、世界の民主主義国と強権主義国の人口が2021年に逆転し、民主主義国は3割未満になった(アワーワールドインデータからの引用)。世界の趨勢は、個人生活を重視して経済的メリットを追求し、政治問題などでは長いものには巻かれてしまおうとする人が増えているということなのかもしれない。
我々はそんなことはあり得ないと思っているが、この趨勢をみれば世界は徐々に中国に“慣れて“いくだろう。中国式統治が世界を支配するようになる日は、そう遠くないのかもしれないと危惧せざるを得ない。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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