松野豊 2022年8月19日(金) 23時20分
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中国の世論には、いわゆる東西文化の違いを強調するものがよくみられる。写真は天安門。
中国の世論には、いわゆる東西文化の違いを強調するものがよくみられる。例えば主に欧米先進国から発せられる中国批判に対して、誤解、偏見、陰謀などが多くあるという反論である。しかし筆者が感じる限り、中国側の反論の多くは論理性や客観性に欠けるきらいがあり、有効な反撃にはなっていない。
中国側にもう少し骨太の反論はないものかと探していたところ、「愛思想」というSNSサイトに「西洋の中国認識、十の偏見」というタイトルの投稿をみつけた。筆者は、このサイトがどの程度の客観性や影響力を持つのかについて評価はできない。しかし内容自体はなかなか興味深いので、本稿ではこの記事からいくつかのワードを引用させてもらって、その中から「中国人の論理」を探ってみたい。
この記事では、まず西洋人(ここでは主に欧米先進国を指し、日本は含まれない)が中国を見る視点と、中国人が西洋を見る視点に大きなギャップがあることに着目した。これを「情報の非対称性」と呼び、中国人がこれまできちんと反論をしてこなかったことで西洋人の中国に対する「偏見」が固定されていったのだという主張だ。
つまり西洋人の中国に対する偏見は、中国人の努力不足いわゆる「不作為」が原因である要素が大きいのだという。これは従来の世論にはないものでとても興味深い。では著者はこの投稿でどのように西洋人の中国に対する「偏見」を論破しようとしているだろうか。
論点は、以下に示す10個である。筆者の教養や理解力の欠如から曲解して取り上げているものもかなりあると思うが、あくまで筆者の解釈だと思って読んでいただきたい。
「西洋人が中国を見る観点、十の誤解」
1.民族迫害の必然性、2.政府の概念、3.政党と政府の分離、4.公民社会と政府の対立、5.個人主義の追求、6.権利重視義務軽視、7.政治イデオロギーによる国家成立、8.政治モデルの輸出、9.他国への武力介入、10.利益相反者への妨害工作。
すべての観点を取り上げられない(筆者が理解できないのもある)ので、以下に3つを取り上げてみたい。
まずは、2、3であげた政府の概念である。西洋では、政治を行う政党は一部の団体の利益を代表しているので、政府は常に団体間の利害調整をしていくことが重要な仕事になる。だから西洋は、「中国共産党が広範囲に人民の利益を代表している」と説明してもその概念が理解できない。つまり「共産党はすべての反対勢力を弾圧して排除することで成立している政権である」と考えてしまう。
筆者は、この論争に欠けているのは国民や団体の利益を主張する機会についての議論だと思う。西洋では、ある個人や団体が何らかの利益を得たいと考えれば、政治に参画してその目的を達しようとする。つまり西洋では「参政権」が保証されている。
一方中国の現体制は、政治は限られたエリートが主導して行うもので、一般国民はそれに従わねばならず、時々意見を申し述べられる程度である。これは「賢者の政治」と言ってよいのだが、西洋人からみればこれはただの独裁政治だということになる。
次に取り上げるのは、4、5、6にあるように公民と政府との関係性である。西洋では個人主義が核心価値であるとみなされ、個人のいかなる権利や利益も侵害されないことが大前提である。もし制限を受けるとすれば、国民の付託を受けた政府が公共利益の観点を示せる場合のみである。だから西洋は個々人の人権侵害には極めて敏感である。
しかし中国は集団主義を重んじ、個人は社会や国家の利益に貢献することが核心価値となる。公民と政府はいわば「共生関係」にあるという説明だ。中国人に言わせれば、西洋人が批判する中国人の強いナショナリズムは、政府が洗脳して生じたものではなく、国家の構成員である公民が本来的に持っているものだということになる。
しかし筆者の感覚では、現在の中国の公民と政府の関係が共生関係だとは言い難い。共生社会とは、個人の多様な価値観が許容される社会のことだ。中国政府は、社会安定の名のもとに公民が持つ多様な価値観を一定量制限しており、公民と政府は限定された範囲での共生関係だと言えるのではないか。
さらに筆者は現在の中国では、公民が本来自己責任であるべき事象を政府に転化するという傾向があり、その結果「公民意識」そのものが低下していると思う。例を挙げると、自分のマンションの部屋は清潔で大切にするが、一歩外に出た廊下や階段などの共用部分はゴミだらけだというのが多い。公共空間を守るのは政府の役割であり、自分の責任範囲ではないという意識なのだろう。
3つ目に取り上げたいのは、8、9にあるように自国と外国との利益衝突への対処法である。西洋人は自己主張が強く、その結果外に向かって武力介入や侵略をもたらす傾向がある。欧州の過去の戦禍は、自己利益衝突の歴史でもある。
しかし現在の西洋は、過去の反省から周辺国とは価値観をできるだけ共有し、多様性をも認める外交に転換している。中国などの政治体制の異なる国家とも、共有できる価値観を見出しながら折り合いをつけていこうとする外交姿勢である。だから現在では、中国の政権転覆を画策するようなことはなくなったと思う(中国はまだまだ疑っているが)。
中国の説明の中に、「中国は自国の利益を守ろうとしているだけで、価値観を他国に押しつけたり武力で侵略したりする意図はない」というのがある。しかし西洋側も中国への価値観押しつけや侵攻を意図してはいない。西洋や周辺国は、中国の「自国利益」の範囲が知らぬ間に拡大してきていることを懸念しているのである。
また中国は、こうした外交問題を「経済的利益」だけで解決しようとする傾向が強すぎることも衝突の原因になっている。筆者は、中国が共通の価値観を探るような外交の多様性を見せてくれれば、西洋からの誤解や偏見も減少していくはずだと思う。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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