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なぜ米国は「安倍外交」継承を求めるのか―日本は武器爆買いの”お得意さん”

片岡伸行    2022年7月21日(木) 8時30分

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第26回参院選(7月10日投開票)での自民党の大勝を受けて、米国政府が「安倍外交の継承」を期待していると報じられた(時事通信・7月11日配信)。

第26回参院選(7月10日投開票)での自民党の大勝を受けて、米国政府が「安倍外交の継承」を期待していると報じられた(時事通信・7月11日配信)。中国への対抗を想定した同盟強化や多国間協力の重要性を念頭に置いているという。表向きはそうだとしても、真の狙いは別のところにあるのではないか。武器爆買いの〝お得意さま路線〟の継承である。(以下、敬称略)。

◆「安倍外交」とは

まず、米国から見た「安倍外交」とは何か。当時の象徴的なシーンをいくつか振り返る。

ドナルド・トランプが米大統領に就任した2017年。その年の11月に初来日したトランプ大統領は会見で「日本が膨大な兵器を追加で買う」と自慢げに述べた。さらに、帰国の途に着く際、Twitterで「私の訪日と安倍(晋三)首相との友情は、われわれの偉大な国に多くの利益をもたらしてくれるだろう」「軍事とエネルギーで大規模な発注があるだろう」と発信した。

次いで、2度目の来日をした2019年5月、安倍首相との〝ゴルフ外交〟に興じたあと、トランプ大統領は共同会見でこう述べた。「2018年に日本は同盟国のうち米国から最も多くの防衛装備を購入した。F35ステルス戦闘機を105機購入する」(同年5月27日)。

その年(2019年)の4月、米軍需企業ロッキードマーティン社の主力製品・F35戦闘機が青森県沖で墜落事故を起こし、40代の航空自衛隊員が死亡している。その事故のことは頭からすっぽりと抜け落ちていたのだろうか。安倍・トランプのコンビはゴルフや大相撲を楽しみ、六本木の魚介料理店に繰り出してディナーを満喫するなど楽しいひとときを過ごしたあと、兵器営業マンのごとく「F 35戦闘機、しめて105機お買い上げ!」とその成果をぶち上げたのである。

ちなみに、F 35戦闘機は2021年11月にも地中海で墜落事故を起こすなど、「ポンコツ」と恐れられている〝名機〟だが、1機150億円近くと超高額だ。当時の安倍首相はこれを105機、私たちの税金でポンと買う約束をしてしまった(最終的には147機、総額6兆〜7兆円で買い付け、支払いはローン)。

◆突出する米国からの武器購入

コロナ禍で世界経済は縮小しているが、ストックホルム国際平和研究所(SIPR)によると、2021年の世界の軍事費は初めて2兆ドル(2兆1130億ドル=日本円で約270兆円)を超え、統計を取り始めた過去33年で最大となった(2022年4月25日発表)。このうち4割近くを占めるのが断トツトップの米国である。当然ながら、兵器・武器を製造する軍事産業の売上も増えており、世界の軍事品売上高の半分超はボーイングやロッキードマーティンなど米国の軍事関連企業だ。米国経済がいかに軍事産業に支えられているかが分かる。ロシアによるウクライナ侵略を機に、2022年も軍事関連企業のボロ儲け状況は続くのではないか。

上記の通り、その米国から「安倍外交」によって武器を爆買いしているのが日本である。しかも、言い値で、納期も不明。米国は同盟諸国に対して「FMS(Foreign Military Sales)」(対外有償軍事援助)と呼ばれる枠組みで兵器・武器を販売しているが、このFMSを通じた日本の兵器・武器の購入はトランプが大統領になった2017年度以降、顕著に増えていく。「日本が最お得意さま」という前述のトランプ発言通り、日本が購入する兵器・武器は三菱重工など国内軍需企業を尻目に、米国からの調達が最も多く、2018年度が4000億円、2020年度が4202億円と増え続けている。日本の防衛費は2015年度に初めて5兆円台に乗り、2022年度は過去最大の約5兆4000億円となったが、米国を主とする兵器購入のローン残高は5兆6597億円にまで膨れ上がり、ついに年間の防衛費を上回ってしまった。

米国にとって、こんな頼もしいクライアント(顧客)はいないのではないか。こうした中、岸田政権が6月7日に閣議決定した「骨太の方針」によると、防衛力を「5カ年以内に抜本的に強化する」という。要するに、軍事費の大幅増額である。自民党内からは「防衛費10兆円が必要」との声も出ている。「よおっ、待ってました!」という米国政府および軍事関連企業の歓喜の声が聞こえてくるようだ。だから「安倍外交の継承に期待」となるのだろう。

◆「軍事か暮らしか」

中国が攻めてくるのではないか、「北」からはミサイルが…などと日夜気を揉んでいる人にとっては軍事費が倍増しようが「これで安心安全」と思うかもしれない。しかし、現場はどうなのか。

『毎日新聞』が7月5日にアップした記事によると、海上自衛隊呉地方総監部(広島県呉市)の伊藤弘総監は防衛費増額について「個人的な感想」と前置きした上で、「もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちになれない」と述べたという。記事で紹介された発言の中には「我々が新たに特別扱いを受けられるほど日本の経済状況が良くなっているのだろうか」という言葉もあった。気を揉んでいる人たちはこの発言をどう受け止めるのだろう。

さらに、『東京新聞』(6月3日付)は〈防衛費倍増に必要な「5兆円」教育や医療に向ければ何ができる?〉として、「大学授業料の無償化 年1兆8000億円で実現」「児童手当の高校までの延長と所得制限撤廃に1兆円」「小中学校の給食無償化に4386億円」「4051万人の年金受給権者全員に月1万円、年12万円追加支給で4兆8612億円」「2019年度の医療負担額(5兆1837億円)がほぼゼロ」「消費税10%を2%に引き下げで4兆3146億円」などといった試算を紹介。これは軍事費倍増を狙う政党や同調する人にとっては眉をひそめる内容に違いない。

「軍事か暮らしか」を突きつけられれば、前述の気を揉んでいる人も心が揺らぐだろう。しかも、その「軍事費増」の中身が、これまで見たように米国の軍需産業のさらなる売上貢献に使われるとすればなおさらではないか。こうした「安倍外交」の継承ではなく、王道の「平和外交」に舵を切ることが、結局は「安心安全」につながると思っている人は少なくないはずだ。しかし、半数近くが参院選の投票に行かない日本の現状を憂慮せずにおれない。

庶民の暮らしを犠牲にして、兵器購入〝お得意さま路線〟をひた走るその先には、米国の戦争への参加が待っていそうだ。「一緒に悪の枢軸国をやっつけよう。ウクライナのこともあるし、日本を守る、国民の命と財産を守ると言えば、一部のメディアを除いて国民の大勢は反対しないでしょう。憲法9条は骨抜きにしてあるし、せっかく高価な物を購入したのだから、実戦で使ってみましょうよ」。そんな囁きが現実のものとなりかねないのである。

■筆者プロフィール:片岡伸行

2006年『週刊金曜日』入社。総合企画室長、副編集長など歴任。2019年2月に定年退職後、同誌契約記者として取材・執筆。2022年2月以降、フリーに。民医連系月刊誌『いつでも元気』で「神々のルーツ」を長期連載中。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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