中国新聞社 2022年7月20日(水) 19時30分
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新疆ウイグル自治区には世界で唯一、翼竜の化石が大量に存在する場所が存在する。「翼竜のエデンの園」と言われるほどだ。写真は新疆で発見された翼竜化石による復元像や化石が発見されつつある地方など。
新疆ウイグル自治区には世界で唯一、翼竜の化石が大量に存在する場所が存在する。「翼竜のエデンの園」と言われるほどだ。発見されたのは2006年。しかし10年近くも「秘密」扱いで公開されなかった。なぜなのだろう。中国科学院古脊椎動物および人類研究所の専門家である汪筱林氏は中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、翼竜という生物の特殊性や現地の特殊な状況、そして世紀の大発見の公開を遅らせた特殊な事情を説明した。以下は王氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■翼竜という特殊な動物と大量の化石が発見された特殊な状況
まず知ってほしいことは、翼竜は恐竜の一種ではないことだ。両者とも爬虫(はちゅう)類で、いずれも出現時期は今から2億3000万年ほど前だったが、翼竜と恐竜は別の系統の生物だ。そして今から6000万年前の生物の大量絶滅期に、いずれも滅んだ。地球に出現した飛翔能力がある脊椎動物は翼竜、鳥類、哺乳類のコウモリの3種だけしか確認されていない。
恐竜が鳥類に姿を変え、多くの種が飛翔能力を持つようになったことは知られるが、翼竜の子孫が鳥類であるわけではない。翼竜はコウモリの先祖でもない。
新疆ウイグル自治区のハミ市西部のゴビ地区には「翼竜のエデンの園」と呼ばれる一帯がある。この場所は天山山脈よりも南の位置にある。発掘作業を最初に行ったのは、中国科学院古脊椎所の邱占祥氏らだった。2005年のことだ。その後、科学調査隊が結成された。私も加わって現地調査を続けるようになった。調査は今も続けられている。
この「翼竜のエデンの園」は、世界でも翼竜化石が最も豊富で、広大な地区だ。化石が分布する範囲は1000万平方キロ以上で、うち70-80万平方キロの部分では1平方キロ当たり少なくとも翼竜が1個体生息していたとみられる。生きていた個体の総数は億単位に達する。
重要なことは、この場所で翼竜の卵及び胚の化石が大量に発見されたことだ。かつては世界で出土した翼竜の卵の化石は4個だけで、すべて押しつぶされていた。胚が保存されていたのはうち3個だ。ハミで発見された翼竜の卵は200個以上ある。うち十数個は立体的な形状が残っていた。
ハミで発見された翼竜の化石は、卵、容体、亜成体、成体と、すべての発育段階のものが含まれている。また頭部の装飾部分から雄と雌の違いが判明した。翼竜の性別が実証されたのは初めてだ。
天山山脈よりも北に位置するジュンガル盆地北西縁のウルホ地区では、1963年に石油関係者が翼竜の化石を発見した。中国科学院古脊椎所の楊鐘健氏はこの化石を研究し、1964年に「魏氏ジュンガル翼竜」と命名した。これは中国初の比較的完全な翼竜化石であり、初めて命名された翼竜だ。楊氏はその後も周辺地域で調査を続け、翼竜と共生する多くの恐竜やその他の爬虫類の化石を発見した。そして1973年にはより小型の別種の翼竜を確認して「複歯湖翼竜」と命名した。
天山山脈より北の地域と南の地域で翼竜が生きていたのはいずれも白亜紀だが、南と北では個体の形態が大きく異なる。理由については、二つの可能性がある。まず「白亜紀」は今から1億4500万年前から1億年ほど前の時期であり、4500万年の幅がある。南のハミと北のウルホでは翼竜の生息していた時期が異なるのかもしれない。ただし、どちらが早い時期なのかは分かっていない。
もう一つ考えられる理由は、天山山脈が現在よりも高く険しかったことだ。そのため北と南の翼竜が隔絶されてしまい、別の進化が発生したことも考えられる。
■次第に解明されてきた「特殊な大量死」、しかし謎はまだ残る
私たちのチームは、天山山脈の南北はいずれも、今から1億2000万年前から1億3000万年前の土地は、湖だったことを突き止めた。翼竜は湖の畔で群れをなして生活していた。湖の豊富な魚類は翼竜にとって豊富な餌となったはずだ。
白亜紀の「翼竜のエデンの園」に存在した湖は、面積が1万平方キロ以上もあったと考えられている。地層生成および化石形成についての知見からは、化石としてハミに残る翼竜は、突発的な災害により短時間に大量死したと分析できる。湖で大きな嵐が発生するたびに、翼竜の群れが、もちろん卵なども含めて集団死したのだ。そして泥と共に湖底に沈んだ。
そして、ハミ地区の大きな湖で発生した嵐は極めて局所的なものだったと考えられる。すなわち翼竜の大量死が発生しても、嵐に見舞われなかった場所の翼竜は生き残った。嵐は幾たびも発生したので、翼竜の化石は何層にもなって残った。
翼竜は飛翔する動物なので、重い骨があったのでは不都合だ。翼竜の骨は肉薄の中空のパイプ状だ。そのため化石が残ることは少なく、しかも状態が良いものは極めて少ない。したがって、翼竜の化石がこれだけ大量に残ったハミは、全世界の中でも極めて特異な場所だ。
ハミ地区では現在も古生物学の調査が続いており、新たな発見が付け加わりつつある。私たちは最近になり、ハミ地区には翼竜以外にも竜脚下目に分類される恐竜と、獣足類に属する恐竜が生きていたことを突き止めた。この恐竜2種はそれぞれ「中国シルクロード巨竜」、「新疆ハミ巨竜」と命名した。このことにより、ハミ地区に存在した生物多様性の認識の幅を広げることができた。
まだ不明なこともある。私たちはハミに生息していた翼竜は湖の魚を食べていたと考えているが、現地で魚に関係する化石は1点も発見されていないなどだ。
■正規の大発見を10年近くも「秘密」にした特殊な理由とは
ハミで翼竜の化石が発見されたのは2006年で、その年のうちに重大な発見があった。しかし発表されたのはかなり後になってからだ。古生物では重要な発見はすぐに発表されることが通例だ。なぜ発表しなかったのか。
これは、地上に露出している化石が多く、人為的な破壊を受けやすいと考えたからだ。将来の科学の進展につながると判断されれば、現場は必ず保護せねばならない。これは科学者の責任だ。そのため、現地政府が効果的な保護を行えるようになるまで、研究成果は10年間近くも秘密にされた。
状況が変わったことで、私たちのチームがせねばならないことも変化した。ここ数年は、現地を国家地質公園に指定し、博物館を建設する計画を進めている。完成すれば、化石や地質構造をしっかりと保護しつつ、科学研究と科学普及教育を進めることができる。そうなれば、子孫に特殊で貴重な自然遺産を残す一方で、「翼竜のエデンの園」が特徴ある観光地となり、地元の経済、社会、文化の発展を後押しすることになると期待している。(構成 / 如月隼人)
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