<安倍氏銃撃>「一方的な思い込み」の犯行ではなかった―旧「統一教会」と元首相との関係

片岡伸行    2022年7月15日(金) 17時0分

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安倍元首相銃撃事件の背景として、霊感商法や国際合同結婚式などが社会問題化した宗教法人「世界平和統一家庭連合」との関係を示す報道がようやく一部のメディアから出始めた。画像はYouTube動画より。

安倍元首相銃撃事件(2022年7月8日)の背景として、霊感商法や国際合同結婚式などが社会問題化した宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧・世界基督教統一神霊協会=統一教会、以下「旧統一教会」)と元首相との関係を示す報道がようやく一部のメディアから出始めた。犯行動機になったと思われる「旧統一教会」と元首相との関係が次々と明るみに出ている(以下、敬称略)。

◆「旧統一教会」イベントで基調演説

「ご出席の皆さま、日本国、前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPFの主催の下、より良い世界実現のための対話と諸問題の平和的解決のために、およそ150か国の国家首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で、世界平和を共に牽引してきた盟友のトランプ大統領とともに演説の機会をいただいたことを光栄に思います」

これは、銃撃死から10カ月ほど前の2021年9月12日、韓国で開催された「神統一韓国のためのTHINK TANK(シンクタンク)2022希望前進大会」なるイベントで、映像による基調演説をした安倍の冒頭の言葉だ。「UPF」とは、旧統一教会のフロント組織「天宙平和連合」のことで、このイベントの模様は教団のオンラインプラットホーム「PeacelinkTV」から世界に発信され、現在もyoutube(写真参照)で見ることができる。

筆者の知る限り、これをいち早く報じたのは『やや日刊カルト新聞』(2021年9月12日)で、〈速報!!安倍晋三前内閣総理大臣が統一教会系大規模イベントで演説、韓鶴子に敬意を表す〉との見出しがつけられた記事では、安倍晋三事務所がビデオメッセージの送付を認めたこと、「反社会勢力とも言うべき、極めて問題のある特定宗教団体」と前総理大臣との「緊密な関係」を問題視している。

その5日後の2021年9月17日、霊感商法被害の救済と根絶のために1987年に結成された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は「衆議院議員 安倍晋三先生へ」と冠した「公開抗議文」を発表した。

◆「公開抗議文」を全面無視

「公開抗議文」では、旧統一教会について、<信者の人権を抑圧し、霊感商法による金銭的搾取と家庭の破壊等の深刻な被害をもたらしてきた反社会的な団体であり、家庭連合に名前を変えてからもその体質は変わっていません。>とした上で、「政治家のお墨付き」に警鐘を鳴らす。

<かつての霊感商法、合同結婚式に関する多くの批判的報道から時間が経過したことで統一教会の実態を知る国民が減っている中で、政治家によるお墨付きは、統一教会による反社会的な活動を容易にし、また、その反社会的活動の是正を困難にするものとして悪用されます>。

全国霊感商法対策弁護士連絡会では、2019年9月27日に全国会議員に対して「要望書」を出し、<旧統一教会やその正体を隠した各種イベントに参加したり、賛同メッセージを送らないで下さい><公職選挙法で定める選挙に旧統一教会信者らの支援を受けないで下さい>などと訴えたが、それを〈全く無視した〉前述の安倍の基調演説に<当連絡会としては深く失望し、今後の被害の拡大に強く憂慮しております>とし、次のように指摘した。

<安倍先生が、日本国内で多くの市民に深刻な被害をもたらし、家庭崩壊、人生破壊を生じさせてきた統一教会の現教祖である韓鶴子総裁(文鮮明前教祖の未亡人)を始めとしてUPFつまり統一教会の幹部・関係者に対し、「敬意を表します」と述べたことが、今後日本社会に深刻な悪影響をもたらすことを是非ご認識いただきたいと存じます>

その上で、<今回のUPFのWEB集会の基調演説のビデオメッセージを提供された経緯について明確なご説明をいただきますようお願いします>と要請したのだ。しかし、同連絡会の弁護士によると、「衆議院議員 安倍晋三先生」からも安倍事務所からも「ご説明」はおろか連絡すら一切なく「全く無視した」という。

◆「ギブ&テイク」の闇

旧統一教会と安倍との関係については、いずれも7月12日に韓国『ハンギョレ』紙や『日刊ベリタ』『日刊ゲンダイ』などが堰を切ったように報じている。事件当初は、一部のメディアが「恨む気持ちがあった。安倍氏が団体とつながっていると思い狙った」などと供述したとされる容疑者の「一方的な思い込みによる犯行」というストーリーを垂れ流したが、どうやら「一方的な思い込み」ではないようだ。

安倍は実際に、旧統一教会の前記のイベントで「とてつもない情熱を持った人たちによるリーダーシップが必要です。この希望前進大会が大きな力を与えてくれると確信いたします。ありがとうございました」と賛美し基調演説を締めくくっている。「一方的に思い込む」必要などないほど、その密着ぶりをアピールしているのである。イベント壇上には参加各国の国旗と共に「日の丸」も掲げられ、まるで日本国としてこの団体を支援しているかのような印象を与える。

旧統一教会の前教祖・文鮮明は「戦闘的な反共主義者」とされ、1968年に発足した「国際勝共連合」の設立者であり、安倍の祖父・岸信介とも深いつながりがあった。旧統一教会および国際勝共連合は1970年代から保守政界に食い込み、その集票活動などで「ギブ&テイク」の関係を続けてきたとされる。「ギブ&テイク」の「テイク」とは、政治家あるいは政党にとってのカネと票である。銃撃事件の容疑者の動機の解明も大事だが、それとともにこの旧統一教会・国際勝共連合と安倍および自民党の「ギブ&テイク」の関係もまた広く認知されるべき問題だ。何万か何十万かは知らないが、闇深い宗教団体の組織票が、一国の元総理大臣を広告塔のように動かしてしまう事態は民主主義にとって不健全極まりないものだろう。

■筆者プロフィール:片岡伸行

2006年『週刊金曜日』入社。総合企画室長、副編集長など歴任。2019年2月に定年退職後、同誌契約記者として取材・執筆。2022年2月以降、フリーに。民医連系月刊誌『いつでも元気』で「神々のルーツ」を長期連載中。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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