アジア各国で食料の禁輸広がる=穀物・食肉の国際価格急騰―SPでは培養肉のチキンライスが出現

中村悦二    2022年6月23日(木) 7時30分

拡大

アジアで食料の禁輸が相次いでいる。インドが小麦の輸出を原則禁止にし、砂糖の輸出制限も実施。マレーシアは食用鶏肉の輸出を停止している。写真はハイナンチキンライス。

アジアで食料の禁輸が相次いでいる。インドが小麦の輸出を原則禁止にし、砂糖の輸出制限も実施。マレーシアは食用鶏肉の輸出を停止している。いずれも世界的な食糧価格の高騰の影響下、コロナ禍での労働力不足などを受け国内価格が上昇したことへの対処としている。

◆パーム油、コメ…混乱続く

インドネシアはパーム油の禁輸を解除したとはいえ、輸出再開の条件として、輸出量の一定部分を国内販売することを義務付けている。コメの輸出国であるタイ、ベトナム間では「輸出カルテル」結成の動きも報じられている。その一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる観光収入減・出稼ぎ労働者減で戦後最大の経済危機に見舞われているスリランカは燃料、電力、食料、肥料、医薬品などの不足に直面している。

国連食糧農業機関(FAO)の2022年3月の食料価格指標は前月から17.9ポイント(12.6%)上昇し、1990年以来の最高値を更新した。ロシアウクライナ間の戦闘を受け、穀物全般の国際価格が上昇。食物油の価格指標も黒海地域での輸出減により最高値を更新した。

世界最大のパーム油の生産・輸出国であるインドネシアは食用油として使われるパーム油の価格高騰・品薄に伴う国民の不満の高まりを受け、ジョコ・ウィドド大統領が4月22日にパーム油の禁輸を発表した。同国のパーム油の国内消費量は年600万トンから700万トンとされるが、2021年の輸出量は約2550万トン。同国政府はパーム農家の反対運動などを受け、5月23日にパーム油の国内価格が下がっていないにも関わらず禁輸措置を解除した。ただし、輸出分のうち一定量の国内供給を義務付けた。

◆世界2位の小麦生産国、インドは猛暑に直面

中国に次ぎ世界2位の小麦生産国であるインドは、ロシアのウクライナ侵攻の長期化による小麦の需要増で輸出拡大を掲げていたが、3月からの猛暑に直面。不作を危惧し5月13日に禁輸に踏み切った。5月24日には砂糖輸出量の制限策も打ち出した。インドはウクライナ情勢長期化での需要増を見込み今年度(2022年4月-23年3月)の小麦輸出を昨年度比1.4倍の1000万トンに拡大するとしていた。

FAOの5月の食料価格指数は3月の最高水準から2か月連続で下がったが、穀物と食肉は上昇した。

一方、FAOのコメの価格指標は2月からほとんど変動がなく、年初より10%程度低下した。ベトナムとタイのコメの生産量はそれぞれ世界4位、5位で、輸出量ではインドに続き、タイが2位、ベトナムが3位だ。英字紙バンコク・ポストによると、タイとベトナムの政府間で持ち上がっているコメの輸出価格引き上げに向けた協定締結に関し、両国のコメ輸出団体の関係者は「非現実的」と否定的という。

◆マレーシアの鶏肉禁輸、シンガポールを直撃

マレーシアは6月から鶏肉輸出を停止した。同国では2月に鶏肉の上限価格を設定し、市場価格との差額分を養鶏業者に補助する制度を導入したが、一部の大手養鶏事業者がこの制度に反対して供給を停止、市場価格が高騰した。イスマイル・サブリ首相は、鶏肉の禁輸は国内の鶏肉供給不足を解消するため、としている。

マレーシアの鶏肉禁輸で直撃されるのは、隣国シンガポールのホーカーセンターやフードコートのチキンライス店。100か所以上ある、屋台が集積する同センターやフードコートは庶民が朝昼晩と気軽に食事できるところ。屋台といっても、政府の衛生基準は厳しく、違反すると営業できなくなる。

共稼ぎが一般的な同国では、自分ではほとんど料理をしない。屋台で食べる定番のチキンライスは3.5シンガポール・ドル(1Sドル=約97円)から5Sドル程度というが、値上げは庶民の懐を直撃する。

シンガポール政府は、葉物野菜で国内需要の14%、鶏卵で同26%、魚で同10%といった食品の自給率を現在の10%程度(カロリーベース)から2030年までに30%に引き上げる計画を現在進めている。その一環として、米国のフード・テックのスタートアップであるイートジャストに細胞培養の鶏肉を使ったナゲットの製販を2020年に認可している。イートジャストは6月10日に同国が食品産業のハブと位置付けるべドック・フード・シティにバイオリアクターなど細胞培養肉の生産設備建設に着手した。ストレートタイムズ紙によると、投資額は6100万Sドルという。

果たして、培養肉のチキンライスの味が受け入れられるかどうか。それはさておくとしても、食料禁輸の動きを見越したようなシンガポールの対処策の今後は注目される。

■筆者プロフィール:中村悦二

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携