中国の世界消費者権利デー特番、日本企業たたきからサイバー空間のソリューションへ正常化?

高野悠介    2022年4月8日(金) 8時20分

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消費者保護を名分に不良事案を取り上げる中国の特集番組では、2010年代は外国企業たたきとして使われた。それが時代に合わせ変化しつつある。資料写真。

中国は意外と国際的な啓蒙活動に熱心だ。例えば3月8日の国際女性デー、3月15日の世界消費者デーである。国際女性デーは、女性従業員は半日勤務と法律で定められている。そして世界消費者デーには名物企画がある。中国中央電視台(CCTV)が午後8時から放映する「3.15晩会」だ。消費者保護を名分に不良事案を取り上げる特集番組で、2010年代は外国企業たたきとして使われた。それが時代に合わせ変化しつつある。

■2010~2018年…外国企業たたき、半分は日本企業

3.15晩会の放映は1991年から始まり、今年で32回目を迎えた。1995年からは、同年施行の「中国消費者権利保護法」を周知する役割を担った。そして2010年代は外国企業の摘発が目立った。

2010年、ソニー、東芝LGの液晶テレビ保証期間、順守義務に違反。

2012年、マクドナルドが消費期限切れ商品販売、カルフールの肉も同様。

2013年、アップルのスマホ、販売方法に中国不利のダブルスタンダード設定。フォルクスワーゲンの変速機、安全情報を隠ぺい。吉野家、調理器具などの消毒で法律に違反。4店舗が営業停止に。

2014年、ニコン、一眼レフD600 サービス規定順守義務違反。

2015年、日産、フォルクスワーゲン、ベンツ、過剰修理による消費者の権利侵害。

2017年、無印良品、イオン、カルビー、中国国家質検総局指定の汚染地区に指定された7県の産品を販売。

2018年、韓国製歯ブラシを使用の女性が出血。韓国製、日本製歯ブラシを検査した結果、60%が不良品と判定される。これを「外国崇拝の罠」と表現。

2017年は、中国市場に深くコミットしている日本の3社がやり玉に上がった。しかしこの件はすぐにこじ付けと判明した。まず日本企業ありきである。この期間は、指摘された外国企業の半分は日本企業だった。いずれも国内企業の深刻な事例に比べれば、“微罪”ばかりである。

■2019~2021年…米国2件、欧州1件

2019年からは、詳しく見ていこう。2019年の全体テーマは「品質とアフターサービス」。中国企業の悪質な8事例が紹介された。

1.家電サービス業者、過剰修理マニュアルで荒稼ぎ。

2.医療廃棄物を“通常”のリサイクルプロセスに投入。

3.エビと卵のスパイシーなスティック菓子に危険な衛生問題。

4.AI自動電話による不道徳なコール繰り返し。

5.正規薬剤師のいない薬局、闇証明書のネットワーク糾弾。

6.使用済みの汚れた大人用紙おむつをそのまま原料として再利用。

7.高利貸しサイト、100%以上の違法利息。

8.電子たばこに基準以上のニコチン含有量。

2020年のテーマは、「力を結集し、美しい生活を共に作ろう」。新型肺炎のため、放映日は7月16日へ4カ月延期された。

1.ナマコ養殖地にジクロルボス(殺虫剤成分)の瓶を廃棄

2.バーガーキング、消費期限切れパンを使用。

3.タオル生産工場、原料に問題、品質基準に達せず。

4.SUV車「宝駿560」動力を喪失。

5.不動産大手「万科」の物件で水漏れ、ガス漏れ。

6.ビューティーサロンの無料モニター、実は有料、学割もうそ。

7.ニュースサイト「趣頭条」違法広告を連発。

8.メールでユーザー情報を抜き取るアプリを提供。

9.職業訓練ネット、うその募集要項、返金手続き複雑。

2021年のテーマは、「心の声に従って、消費振興しよう。」

1.監視カメラの顔情報、不正収集、BMVやマックスマラの一部店舗。

2.就職情報サイトから履歴書が流出、売買される。

3.高齢者のスマホねらう悪質な“セキュリティー”アプリ暗躍。

4.検索エンジンの不正医薬品広告。

5.養殖羊肉、正規の取引所を通さず販売。

6.スクラップ鉄鋼のブラックマーケット。

7.時計修理センターの高額修理請求。

8.フォードのSUVエコスポーツの変速機に不具合。

3年間で外国企業は3件、欧州企業1件、米国企業はバーガーキング、フォードの2件だった。外国企業への摘発は続いたが、日本企業はなかった。

■2022年晩会…サイバーセキュリティーを追加

2022年は、「公平守正、安心消費。」それに加え、信息(情報)安全実験室が新設された。

1.女性のふりをして、投げ銭を得ようとする行為。

2.ヒスイのライブコマースで馴れ合いライブ。高価で販売。

3.口コミサイト「口碑」検索結果を意図的に操作。

4.小学校周辺の文具店で宝くじを販売。子供の射幸心煽る。

5.発酵食品の衛生問題、防腐剤が基準値大幅超え。

6.じゃがいも、山いも原料の春雨、実際は他の原料が混入。

7.1つのアプリをダウンロードするのに、抱き合わせの制約かける。

8.電話番号が特定されてしまうブラウザー。

9.電動自転車の速度制限装置を販売店が勝手に解除。

10.基準未達の電線、ワイヤー、ケーブル。

11.美容医療で事故多発、美容医療施術トレーニングセンターに問題。

信息安全実験室による指摘

1.無料Wi-Fiの陥穽。偽装された広告リンクに捕まる。

2.子供向けスマートウォッチへの悪意あるプログラム。子供の活動が把握されてしまう。

2022年は、信息安全実験室を含め、全13件のうち7件がサイバーセキュリティー関連だった。2010年代の型どおりの外国企業たたきから、サイバー空間のソリューションへと進化していった。宣伝臭、懲罰臭の強かった番組だが、現代的な社会問題を提起する番組に変化してきたのは間違いない。日本は、もはや叩く必要はない、ということだろうか。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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