<日中100人 生の声>新型コロナウイルスから見る「情報恐怖症」―王超鷹 芸術家

和華    2022年4月5日(火) 19時50分

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新型コロナウイルスが蔓延してからの大きな変化として、インターネットの「マイナス情報」が無限に大きくなっていることを感じる。写真はコロナ自粛期間、篆刻作品創作中。

新型コロナウイルスが蔓延してからの大きな変化として、インターネットの「マイナス情報」が無限に大きくなっていることを感じる。それは無闇に人の目を引かせ、無責任な発信によって稼ぐことで金儲けをするネットビジネスの醜い目的に合致し、多くの人々の心を蝕む。人々に事実を伝えず、マイナス面によって関心を惹くことは、セルフメディアのみならず多くのマスメディアにおいても行われている。正確な情報や客観的な統計であることが明らかなものでさえも、メディアによって否定され、批判される。なぜなら、そうすればトラフィックにとって価値があるからである。メディアの良心を失ったこうした操作は、多くの人に疑いを抱かせ、それにより恐怖は急速に伝播することとなった。

メディアがコロナの変異と死亡データの上昇に熱中しすぎているからか、「情報恐怖症」に罹患する人はかなり増えた。大衆のネット情報に対する依存を利用し、政治家たちは善良な庶民の脳と生活を操っている。

つまり、断片化した情報が肥大していくに伴い、恐怖症の高発症率は人間社会の新たな問題となってきているのだ。

確かに、発達したネット情報は、あらゆる人を瞬時にて情報環境下に置き、あらゆる規模の事柄を瞬時に俯瞰することを可能にした。たとえば、洪水が起きれば私たちは中継で水位上昇を追うことができ、火災が起きれば爆発を目の当たりにすることができるし、交通事故が起きれば遠くからやってくる救急車の音を聞いてまるで怪我人が隣にいるように感じることができる。ゆえに、最近の私たちには地球上の災難の数が膨れ上がっているように感じられるが、それは単に注目され、報道される災難の数が多すぎるというだけであり、災難の数が実際に増えたわけではない。しかし報道の数が増えれば、真実が伝わりにくくなるという問題も起こる。

昨年、ヨーロッパの友人から、なぜ高齢のコロナ患者の意見を聞かずに医療救助するのか?それは人権無視ではないか?という質問があった。一瞬、理解できなかった。「生きるのも死ぬのも人の権利だということですか?」と彼に聞くと、「違う! 勝手な救助は高額な負担になり、医療資源の無駄でもある」、と彼は言った。なるほど、考えればそれは人権問題かもしれない。すぐに武漢にいる医者の友人にも同じ質問をした。彼女が答えて言うには、「命を救うのは医者の使命であり、そんな聞き方はおかしい。今回の新型肺炎の医療費は国の負担で、別に個人や家族の負担にはならない」とのことであった。しかし、ヨーロッパの友人はそんなことはあり得ないと納得してくれなかった。歪んだネット情報や文化と国家体制の違いに起因する意見の食い違いで、中国の現状を説明する難しさを痛感した。

また、太湖のほとりでお茶を飲んでいた時のことも思い出す。ある友人が「太湖の岸がホテルの3階まで洪水で水没してしまった」と写真とテキストを送ってきたのだが、私はただちに自分がお茶を飲んでいる写真を送り返した。「私は1階でお茶を飲んでいるけど、まだ溺れ死んでいないよ」。もし現場にいなければ、私も合成写真を信じて、恐怖のどん底に陥っていたかもしれない。

もし私たちがインターネットを見ず、自分の生活圏内にだけ注意を向けていれば、さほど大きな問題は起きてないことがわかる。私は異なる国家・地域の友人たちに「あなたの家や家の付近の状況はひどくなっていますか?」という同じ質問をしたことがある。中国以外の友人たちはふつう「少し問題はあるが、あなたが想像するほどではなく、全く生活していけないほどではない」と答える。これは非常に面白いことで、武漢の人も海外の多くの報道を軽蔑しており、「あなたたちが報道しているほど感染者は多くないよ」と見下している。明らかに、真実は自分の目や耳、感性と理性で判断するのが一番正しい。私の経験では、伝聞や推測、噂話の類は、基本的には嘘やほら話を含んでいる。もしこれらを簡単に信じれば、脳の免疫力を低下させてしまうことだろう。

「新型コロナウイルスの発端を徹底的に調査する」などといった、政治化された情報に注目する人々は、日々の「情報テロ」を感じているだろう。ある医学専門家が言っていたのを思い出す。「あらゆる恐怖症の病因は非常に定義が難しいが、環境や情報による過剰な心配が恐怖症の基盤となっているはずだ」。私が思うに、スマホを見ると得体も知れない恐怖に襲われるのは、多くの人が誇大化したマイナス情報を気にしすぎているからである。しかし一部のトラフィックを得ようとしているだけの良くないメディアこそが、情報恐怖症の伝染を引き起こす原因のひとつなのだ。

人間は前へと進む足取りを止めない。国と国の間のコミュニケーションが途絶えることもあり得ない。まさに東京オリンピックが難局に直面してなお予定通り開催されたように、交流・協力・前進への努力は、友好・理解・寛容といった美しい人間関係につながる。マイナス感情を膨らませて人間の純朴な友情を壊すべきではない。国際協力しあって感染対策を行い、経済・貿易をスムーズにし、平和な生活を保つことに尽力し、お互いの信頼感を高めることこそ情報恐怖症の解毒薬なのだ。

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:王超鷹(おうちょうよう)


文化研究者、工芸士。上海生まれ。武蔵野美術大学大学院修士卒。14歳で上海工芸美術公司に入社。篆刻、切り絵、絵画の職人の道に進む。美術作品や工芸品などを世界各国に出展。1997年、デザイン事務所PAOSNETを設立。これまでアリババグループ、中国銀行、資生堂、ダイキン、キヤノン、キリンなど100社以上にのぼる企業に対するCI(コーポレートアイデンティティ)や企業文化構築、デザインなどのコンサルティング実績を持つ。著書に『トンパ文字』、『篆刻文字』、『殉情物語』、『CIを超えよう』など多数。

2021年5月に開催された「百年百印展」(上海・四行倉庫記念館)

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