池上萬奈 2022年4月5日(火) 10時50分
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エネルギー資源の安定確保は、国家の最重要課題の一つである。「石油の一滴は血の一滴」と、仏首相クレマンソーが語ったように、資源豊富な土地を獲得するためにこれまでたびたび戦争が起こってきた。
エネルギー資源の安定確保は、国家の最重要課題の一つである。「石油の一滴は血の一滴」と、第一次世界大戦時、仏首相クレマンソーが語ったように、資源豊富な土地を獲得するためにこれまでたびたび戦争が起こってきた。現在、ロシアの天然ガスに関する需要と供給の関係は、国家間や国際社会の力学が大きく作用していることも明らかである。
2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が始まると、西側諸国による経済制裁の一環としてロシアからの天然ガス供給を停止しようとする動きがみられた。それに市場が反応し石油価格高騰を招いた。その対応策として、世界の主要石油消費国で構成するIEA(国際エネルギー機関)は、緊急時対応システムを作動し、3月1日に臨時閣僚会合を開き加盟国による石油備蓄の協調放出について検討した。その結果、総量6000万バレルの石油協調放出を合意した。これを受け3月10日、日本は米国の3000万バレルに次いで750万バレルの放出を決定し、民間の石油会社に義務付けている備蓄量の国内需要70日分を66日分に引き下げた。しかし、それだけでは原油価格の高騰を抑え込むことはできず、4月1日、IEAはさらなる追加放出を決定することになった。
◆石油ショックを制御した国際協調
この国際的な制度であるIEAは、戦後初の世界的経済危機となった1973年のオイルショックを経験したことにより1974年11月に設立されたものである。今までにIEAがうまく機能した例を挙げてみると、1991年1月の湾岸戦争時、加盟国は全体で250万バレル/日の石油備蓄取り崩し等を行う緊急時対応計画を予め合意し、多国籍軍のイラクへの軍事活動が始まると直ぐにこの計画を発動することになった。この発動で備蓄放出や需要抑制が約1カ月間実施され、原油価格の急騰が押さえ込まれた。石油消費国の経済的影響を限定的なものとすることができたのである。
また、2005年のハリケーン「カトリーナ」によって米国のメキシコ湾の石油施設が大きな被害を受けた際には、加盟国は全体で200万バレル/日の石油備蓄を取り崩す等の迅速な決定をし、石油市場の混乱を回避することができた。2003年のイラクへの軍事行動の際には、備蓄取り崩しは行われなかったものの、加盟国間の緊密な協調と産油国との連携により、市場心理を駆り立てることには至らなかった。
では日本国内においては、オイルショック後、外交政策にどのような変化があったのであろうか。日本の資源外交を概観すると、1950年60年代は、大量で廉価な石油が国際石油資本(メジャーと呼ばれる世界的規模の石油会社)を通して供給されるのを当然のこととして経済成長に邁進してきた時期である。中東産油国との外交関係の重要性は低かった。
1970年前後から産油国が力をつけてメジャーに対抗するようになり、1973年秋、中東産油国は、1967年の国連決議を遵守せず武力で占領した地域から撤退しないイスラエルを非難しない国やアラブ諸国に協力的でない国を非友好国と見做し石油供給削減を行った。非友好国にされた日本では、買い占めパニックが起こり、社会が混乱を極めた。この経済危機―オイルショックを経験したことで、日本は石油供給の安定確保のために産油国との関係強化を促進し、さらには石油のみならず資源保有国との外交関係構築の重要性を認識するようになった。またIEAの設立に向けて日本は積極的に関与し、設立当初からの加盟国となった。
◆エネルギー効率改善は至上命題
それ以来、日本の資源外交は、資源安定確保のための資源保有国との関係強化、石油市場安定などのための国際協調としてIEAへの貢献を具体的政策として掲げてきた。さらに21世紀になると化石燃料抑制のための政策も加わった。現在日本の資源外交のプライオリティは「安定供給の確保」「国際機関との連携強化、国際協調・協力の推進」「エネルギー効率改善を通じた需要の抑制」の3本柱から成り立っている。
ただし深刻な国際問題が生じると、地球全体で協力しなければならない温室効果ガス排出削減の対策にも通じる「エネルギー効率改善を通じた需要の抑制政策」は関心が薄れる傾向にある。しかし、この政策遂行も決して忘れてはいけない課題である。
■筆者プロフィール:池上萬奈
慶應義塾大学大学院後期博士課程修了、博士(法学)、前・慶應義塾大学法学部非常勤講師 現・立正大学法学部非常勤講師。著書に『エネルギー資源と日本外交—化石燃料政策の変容を通して 1945-2021』(芙蓉書房)等。
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