<コラム>米国による制裁の矢面に立つファーウェイ、現状と今後の展望を読み解く

如月隼人    2022年3月31日(木) 14時30分

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ファーウェイは28日に行った2021年の決算発表会で、同社の現状認識と今後のビジョンがを明確に示した。写真は発表会で登壇した孟晩舟・副会長兼CFOと郭平輪番会長。

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華為技術(ファーウェイ)は28日、広東省深セン市内で2021年の決算発表会を行った。同発表会では、ファーウェイの現状認識と今後のビジョンが、明確に示された。そこで、これまでの動きと合わせてファーウェイの動きを追ってみることにしよう。

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なお、28日の発表会では孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)も登壇した。孟氏は2018年12月1日に立ち寄り先のカナダで身柄を拘束され、2019年9月24日までカナダを出国して帰国することができなかった。孟氏は帰国した際に記者会見に応じて以来、公の場に姿を現さなかった。孟氏はファーウェイの創業者で最高経営責任者(CEO)の任正非氏の娘だ。今回の発表会で財務関連を中心に説明したことは、孟氏が任氏の後継者であることを示す布石との見方が出ている。

発表会で帰国してからの状況を質問された孟氏は、中国は変化があまりにも速いので、離れていた期間を埋め合わせるための勉強を続けていると説明した。

孟氏の父である任正非氏は1987年、仲間と共に携帯電話関連の通信機器を開発する会社としてファーウェイを立ち上げた。ファーウェイは急成長し、2019年には携帯電話出荷台数でアップルを抜いて世界第2位になった。手掛ける範囲もICT関連全般と、大きく広がった。しかし同年に始まった米国による「制裁」で、大きな打撃を受けることになった。

28日の決算発表会で郭平輪番会長は、2021年の状況を「生き残れた」と表現し、2022年のテーマは「生き残りと成長」と述べた。一方で、孟CFOは、「ファーウェイの(売上高の)規模は小さくなったが、収益性とキャッシュフローの獲得能力は高まっており、不確実性への対応能力も向上し続けている」と述べた。

ファーウェイにとって、厳しい状況である最大の原因は米国による圧力だが、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界規模の流行も痛手だった。ファーウェイは世界の主要企業の中でも最も強く「将来には何が起こるか分からない」と痛感したのではないだろうか。そのようなファーウェイは、あらゆる逆風に耐えられる会社づくりを目指している。つまりファーウェイの「生き残り戦略」は単純な守りではなく、「企業体質の再構築」という「攻め」の色彩も濃厚だ。

■会社存続のために技術力強化と人材獲得は「死守」

ファーウェイが「存続と成長」のために特に重視しているのが技術力の強化と、そのための人材の確保だ。同社は売上高の10%以上を研究開発に投じることを「憲法」にしているという。2021年の場合には、売上高の22.4%に相当する1427億元(約2兆7400億円)を研究開発費として投じた。実際には、同年の売上高が前年比28.6%減の6368億元(約12兆2200億円)だったことが影響して研究開発費の対売上高比が急上昇したわけだが、金額そのものも前年比0.5%増・7億7300万元(約148億円)増と、わずかではあるが上積みしている。

ちなみに、トヨタ自動車は2月9日に発表した2022年3月期の連結業績予想で、売上高(営業収益)を前期比8.4%増の29兆5000億円とした。また、2021年5月時点で2022年3月期の研究開発費は過去最高の1兆1600億円と見込んだ。業種が違うので単純には比較できないが、ファーウェイは売上高がトヨタの半分以下であるにもかかわらず、研究開発にはトヨタの約2.4倍の資金を投じた計算になる。

研究開発に欠かせない存在が、優秀な技術者や科学者だ。ファーウェイは中国国内だけでなく、世界全体で優秀な人材の獲得に注力している。代表的な例が、2012年にフィールズ賞受賞者であるフランス人数学者のローラン・ラフォルグ氏を招き入れたことだ。フィールズ賞は「数学のノーベル賞」などと言われるが、4年に1度しか選考がないことなどで「受賞はノーベル賞より難しい」とも言われる、最高の数学頭脳の持ち主だけに与えられる賞だ。

ファーウェイはまた、2022年になり前年開催された国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC)優勝チームの一員だったロシア人のバレリア・リャブチコワさんらも正式雇用した。

世界的に優秀な人材ともなれば、先進国企業も加わっての「獲得競争」になる。ファーウェイは、特に優秀な人材には極めて高額の報酬を用意することで知られるが、同社の郭平輪番会長(任期は2022年3月31日まで)によると、トップレベルの人材にとって「魅力的な企業でありつづける」努力をしている。例えば、オープンな環境で、同社に正式には所属していない研究者も交えてのコミュニケーションの場にもなる施設を設けるなどだ。

■ファーウェイが実践する「三方よし」の事業展開

ファーウェイはその一方で、世界各地で若い技術者を育成する事業に取り組んでいる。中学高校の生徒に授業を行ったり、すでに技術者として仕事をしている人に研修を行うなどだ。例えばファーウェイの日本法人であるファーウェイ・ジャパンは2021年に、日本国内で中学高校生1700人を対象に授業を行った。ファーウェイは日本のような先進国だけでなく、自国及びその他の開発途上国でも、人材育成事業を展開している。

ファーウェイが目指しているのは、「デジタル技術によってすべてが結ばれる社会」だ。そのためには、高度な研究開発に携わる技術者だけでなく、システムを運営維持する技術者も大量に必要だ。

技術者の層が厚くなれば、「社会全体のデジタル化」は推進しやすくなる。巡り巡って、ファーウェイのビジネス展開に有利な環境も出現しやすくなる。また、特に発展途上国での人材育成は、現地政府に歓迎されるはずだ。

ファーウェイは、日本で理想的な商道徳とされてきた「三方よし」(自らにとってよし、相手にとってよし、社会にとってよし)を、長期的視野に立って実践していると言ってよい。

■ファーウェイにとってスマートフォンはすでに「前世代型商品」か

ファーウェイの2021年決算で、売上高の落ち込みが最も大きかったのは、前年比49.6%減の2434億元(約4兆6800億円)の消費者向け事業だった。ただし、大きく落ち込んだのはスマートフォンなど、これまでに実績を重ねてきた商品だ。一方で新ジャンルの商品として力を入れたウエアラブル製品やスマートモニターでは、売上高が前年比30%増だったという。

ファーウェイが消費者向け商品として力を入れているのは、いわゆるIoT(モノのインターネット)絡みの製品だ。例えばスマートホームなどにも力を入れている。であれば、情報の授受に特化されたスマートフォンなどはファーウェイにとって「古いジャンル」ということになる。ファーウェイ社内ではスマートフォンをはじめとするスマートデバイスを今後どのように扱っていくかが議論されているという。

■大戦略の根底にある「守備範囲」の見極め

大型製造業企業の業態は「垂直統合型」と「水平分業型」に大別することができる。製品の全てを自社または系列会社で製造するのが「垂直統合型」で、多くを他社で製造してもらい、最終製品を自社ブランドで売り出すのが「水平分業型」だ。かつての日本企業は「垂直統合型」で成功した。しかしこのところは、アップルに代表されるような「水平分業型」の方が有利という意見が強まった。

ファーウェイは「垂直統合型」的なメーカーと言える。そして現在は米国からの輸出禁止の圧力を受け、最も基礎的な部品である半導体の開発にも力を入れている。とすれば、ますます「垂直統合型」に近づく。

しかしファーウェイは、例えば自動車分野に力を入れているが、「自動車そのものをつくることはない」と断言している。自動運転などで高度な技術の必要性がますます高まる状況の中で、自らの技術を自動車メーカーに提供する戦略だ。炭鉱事業や太陽光発電についても同じだ。

つまりファーウェイはICT分野の範囲内では「垂直統合型」だが、それ以外の分野については「ソリューション提供」という役割りに徹している。大きな目でみれば「水平分業型」だ。

ファーウェイはさまざまな業界において「ICT技術を用いて抜本的な刷新を実現したい」との需要が発生した場合、「ファーウェイに協力してもらえれば、よりよく実現できる」という状況を構築しつつある。

■ファーウェイにとっての「今後の有望市場」とは

ファーウェイにとって米国をはじめとする先進国市場は「極めて難しい市場」あるいは「特別なリスクがある市場」になった。台頭してきた中国と西側先進国との間では摩擦や対立が発生せざるをえず、そうなれば中国を代表する企業の一つになったファーウェイは真っ先に矢面に立たされると考えねばならないからだ。

そんなファーウェイにとって自国である中国の巨大市場は頼りになる存在だ。しかしいくら中国市場が巨大と言っても、1国だけでは限界がある。現に、ファーウェイが強みを発揮してきた5G基地局の建設も、中国国内ではほぼ一巡したとされる。

ファーウェイの最近の動きを見ると、中近東のトルコやクウェート、アフリカ、東南アジアでの契約獲得が目立つ。その契約内容には、5Gネットワーク以外にも太陽光発電プロジェクトなどがある。太陽光発電プロジェクトでファーウェイが担当するのはスマート蓄電などだ。

郭平輪番会長によると、数年前に中東のある国のトップから、将来の発電量の構成比について10%から15%を原子力、70%から80%を太陽光、この2種の補助として、残りの部分を天然ガス火力発電で補うという構想を聞いたことなどで、ファーウェイとして中東地域の太陽光発電の事業に強い関心を持っているという。

中東地域で太陽光発電が期待されているのは、世界的な脱炭素の流れに対応せねばならない一方で、日照時間が長いからだ。

世界各国の状況はそれぞれ異なる。しかし、経済や産業、社会の変革に追いつくための取り組みには、いずれも高度なデジタル技術が不可欠だ。ごく一部の先進国を除けば、高度なデジタル技術は他国の企業に頼らざるをえない。そこで、「さまざまな分野に高度な技術を提供する」というファーウェイの方針が生きることになる。

もちろん、発展途上国からの受注競争では欧米など先進国の企業がライバルになる。しかしこの方面でも、ファーウェイの競争力は相当に強いと考えてよい。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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