松野豊 2022年2月21日(月) 19時50分
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中国はすでに巨大な経済体であり、世界経済への影響も甚大なので、我々はその実態を種々の角度から見ていかなければならない。写真は深セン。
中国は自らの経済を「中国の特色ある社会主義市場経済」という曖昧な説明をするため、実はなかなか客観的な評価が難しい。しかし中国はすでに巨大な経済体であり、世界経済への影響も甚大なので、我々はその実態を種々の角度から見ていかなければならない。
社会主義市場経済だと言っても実際は、現在の中国の経済政策で用いられている指標は、資本主義経済で開発されてきたものと全く変わらない。筆者がこれまで議論する機会があった中国の研究者や企業家も、彼らが中国経済の変化等について語るときに用いる指標と言えば、相変わらずGDP(中国では「国内生産総値」)が中心で、それ以外でも物価指数、人民元対ドルレート、社会消費財小売総額、工業生産値ぐらいだ。
もっとも近年中国の経済統計はかなり充実してきており、よく指摘されるようなデータの信頼性についても現在では先進国レベルにまで改善されてきている。中国の経済統計と言えば「中国統計年鑑」が中心であるが、それ以外の統計データでも国家のホームページなどで閲覧できるものが増えてきている(ただし、とても見にくい形式が多い)。
中国経済は、果たして持続可能なのか、経済や産業の現状をどのような指標をもとに評価していくべきなのか。これは我々外国の研究者に共通の課題だ。筆者は、ひとつの試みとして中国経済の「成長持続性」に焦点を当てて、それを評価できそうな経済指標を5つほど選んで現状を分析してみようと思う。
本稿では、まず中国の「国際収支構造」を取り上げたい。図1は、過去20年の中国の国際収支の推移を示したものである。中国国家外貨管理局が発表している国際収支統計によると、中国は21世紀に入ってから経常黒字額が増加し、直近の2020年は約2700億ドルの黒字である(日本も約1700億ドルの経常黒字)。
中国に経常黒字をもたらしているのは、現状はほぼすべてが貿易黒字である。図1を見ると2014年頃からは、旅行収支の赤字が急拡大し始めた。当時のIMFの推計では、中国は早晩経常赤字国へ転落するのではないかと懸念されていた。しかしその後新型コロナ感染拡大等で旅行赤字が大幅に縮小したため、現在は従来と変わらない経常黒字額に戻った。
経済の成長持続性という観点に立ってみると、以下のようなことが言えそうだ。それは、中国経済が世界第2位の大きさになって以降もずっと貿易黒字という「フロー」に依存していることである。
日本も1980年代のバブル経済期には、大幅な貿易黒字と旅行などサービス収支の赤字がみられたが、現在の中国とは決定的に異なる点もあった。それは1990年代から第1次所得収支が安定的に増加してきていたことである。
第1次所得収支とは、企業の海外投資の結果得られる利子や配当などの収益のことであり、現在の日本では貿易赤字が続いてもこの所得収支が大きく、国全体としては経常黒字を続けている。つまり日本は経済が成熟していく段階で、過去の経済成長の“果実”を投資に回してストック化してきたと言えるのである。
他の先進国の状況はどうか。ドイツは貿易黒字と第1次所得収支の両方が黒字であり、現在も3000億ドル近くの経常黒字を保っている。また米国は、よく知られているように貿易収支が大幅な赤字であるため長年経常赤字になっているが、それでも第1次所得収支や知的財産などのサービス収支は、どちらも2000億ドル程度の黒字になっている。
中国経済が貿易黒字というフローに依存して経済成長をしていること自体に問題があるとは言えない。しかし過去の先進国は、経済の成熟化とともに過去の投資収益で国家の経常収支を支える構造になっていることには注目しておく必要がある。
中国の国際収支構造は、今後緩やかにでも「ストック」型に推移していくべきであると思う。中国は21世紀になってから、「走出去」と呼ばれる政策により急速に海外投資を増加させてきている。また2005年頃からは、対外投資が対内投資を上回って資本輸出国にもなっている。中国は既に巨額の対外投資を始めていると言ってよい。
しかし中国がこれだけ海外投資をしてきても、第1次所得収支が未だに赤字で黒字額が増加する兆しが見えないのは何故だろうか。海外投資の収益性に問題があるのか、または何らかの原因で収益性を伴わないで資本流出だけが進んでいるか。中国の国際収支構造には、しばらく注意を払っていく必要があると思う。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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