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民主派排除の嵐が吹いた香港の2021年を振り返る

野上和月    2021年12月29日(水) 16時50分

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香港で先日、「愛国者による香港統治」の選挙制度に塗り替えられてから初の立法会選挙が実施され、予想通り親中派が圧勝した。写真は香港各地の選挙案内広告。

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香港で先日、「愛国者による香港統治」の選挙制度に塗り替えられてから初の立法会(議会)選挙が実施され、予想通り親中派が圧勝した。この一年、中国政府と香港政府が「香港国家安全維持法(国安法)」を盾に繰り広げた、民主派勢力排除の最終章がこの議会選だったというわけだ。

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香港の2021年は、中国返還後、かつてないほど政治の嵐が吹き荒れた。中国と香港の両政府は、折に触れて、昨夏に施行された「国安法」が「香港社会に平和と安定をもたらした」と称賛。19年の反政府デモで街や立法会ビルが破壊される映像などを流しながら、「国安法」の重要性を宣伝するテレビ広告を頻繁に流した。一方で民主派勢力を「香港社会を混乱させた」と糾弾。街の平穏をよそに、民主派陣営を容赦なく追い込んでいったのだ。

まず年明け早々の1月6日、前立法会議員ら民主派の顔だった53人を「国安法」違反の容疑で一斉逮捕した。彼らは、昨年9月に予定されていた立法会選挙で、民主派が議席の過半数を獲得できるよう、あらかじめ立候補者を絞り込む予備選挙を行った人たちだ。この予備選には、議会から体制をひっくり返す計画が含まれており国家転覆罪にあたるとされた。47人が起訴され(うち12月27日現在15人が保釈)、名だたる民主活動家が一網打尽に排除された。

香港政府は、新型コロナを理由に立法会選挙を今年に延期するとともに、中国政府主導で、「愛国者」しか立候補を認めない選挙制度に塗り替えた。

議席数は20議席増やして90議席にしたが、市民が直接選挙で選べる議員を35人から20人に減らした。職能別枠も35議席を30議席に減らす一方で、新たに選挙委員会枠を設けて、1500人の選挙委員から40人を選出する仕組みにした。新制度は、親中派に圧倒的に有利なうえ、民意が反映されにくい構造になった。

この民主活動家の一斉逮捕は、民主派排除の序章に過ぎなかった。

6月中旬、中国に批判的な報道で知られる大衆紙「蘋果日報(アップル・デイリー)」を発行するネクスト・マガジン社の資産を「国安法」に基づき凍結。一気に同紙を廃刊に追い込んだ。創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏は、無許可集会への参加を扇動したなど、複数の罪で実刑判決を受けて服役中だが、「国安法」違反罪でも起訴されて裁判が続いている。編集幹部も逮捕・収監された。ネクスト社は12月に会社清算手続きを申請した。

8月には香港最大の教職員組合「香港教育専業人員協会」(教協)が、香港政府に関係を断ち切ると宣告され、解散を余儀なくされた。教協は英植民地時代の1973年に設立され、教職員の労働条件改善や地位向上などに努め、9万人以上の現役や元教師らで組織していた。民主団体に加盟して、学生や教師に反政府デモ参加を促していたことなどを批判され、外部から大きな圧力も受けていたという。

さらに「言論や集会の自由」の下、民主活動を推進していた2大組織も解散に追い込まれた。1つは、天安門事件の翌年から、犠牲者を追悼する「6・4集会」を毎年主催した「香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)」。もう1つは、03年に香港政府が法制化を急いだ「国家安全条例」案を撤回に追い込むきっかけとなった市民50万人のデモを主催し、その後も返還記念日の7月1日に、香港の民主化を訴えて平和的な「7・1デモ」を主催してきた「民間人権陣線」(民陣)だ。両組織の幹部らは不許可の集会の参加を呼び掛けたり、あの予備選挙に参加したりした罪などで収監された。組織として外国と結託して国家を危険にさらそうとした嫌疑もかけられた。

一連の出来事はまず、親中派新聞「大公報」が組織や人物を問題視する記事を掲載し、その後当局の追求が始まり、アッという間に解散や逮捕に至るというスピード展開で、多くの香港市民を震撼させた。こうした中、他の民主派団体の自主解散や活動家の海外移住が相次いだ。

「6・4集会」はもはや過去のものとなり、今後は本土と同じように事件はタブー視されていくだろう。返還記念日に、政府への不満や民主化を訴えたあの「7・1デモ」ももう望めない。「アップル・デイリー」のように、政府のチェック機能を果たすメディアは消えた。民主活動を底辺で支えてきた組織も人物も根こそぎ排除された今、市民は「もはや口を閉ざすしかなくなった」(28歳男性)。

事実この一年、公の場で発言するのは、林鄭月娥行政長官を筆頭にした香港政府高官、中国政府や中国政府の出先機関「中央駐香港連絡弁公室(中連弁)」の幹部、そして親中派の重鎮ばかりだ。行政長官は中央政府への感謝を頻繁に口にするようになった。中央政府高官も公の場で、香港に指導的発言をするようになった。中連弁の高官が香港市民と直接対話をする光景をテレビで見るようにもなった。中央政府の香港での存在感は増し、これまで「小さい政府」と言われた香港政府が、「大きな政府」になったと感じた一年だった。

さて、こんな出来事を経て迎えた12月19日の立法会選挙。153人の立候補者が90議席を争った。自称民主派や中間派も10人余りいたが、「愛国者審査」を経ているから基本的に政府のお眼鏡にかなった人たちだ。

政府は「香港と自身のために1票を投じよう」という選挙広告で街を埋め尽くした。有権者の携帯電話に、投票を呼び掛けるメッセージを送り、投票日は公共交通機関を終日無料にした。中国本土にいる有権者のために、初めて本土と隣接する広東省深センの3か所の税関に投票所を設けるなど、選挙の盛り上げに躍起だった。

一方、民主派市民は、「(立候補者は親中派ばかりで)投票しても意味がない」「結果はすでに明らかだ」と冷めていた。政府の「投票率が低いとしたら、それは市民が政府に満足しているからだ」という発言も逆撫でした。選挙当日は、無料の交通機関を利用して郊外に遊びに行く市民が少なくなかった。

果たして、前回(2016年)選挙で58.28%だった直接選挙枠の投票率は30.2%と過去最低を記録。89議席を親中派が占め、中間派はわずか1席だった。

林鄭長官は、新制度での選挙の成功を強調し、03年に市民デモで阻まれた「国家安全条例」について、法制化の意欲を示した。最大与党となった民主建港協進連盟(民建連)も全面協力する姿勢を示した。

中国政府も「愛国者による香港統治」の選挙が実現できたと称えるとともに、「『一国二制度』下の香港の民主発展」と題する白書も発表した。その中で、「香港は過去の長い間、盲目的に西洋式民主を追求してきた。このため社会は分裂、秩序は乱れ、経済的な不均衡に陥り、統治はうまくいかず、香港市民は真の民主を享受できなかった」と断じた。香港は今後、先に中国政府が主張した中国式民主の中で動いていくことになる。

香港が返還後20余年歩んだ西洋式民主活動を断ち切り、新たに始める中国式民主がどういうものか、世界中がこれまで以上に香港を見つめるに違いない。(了)

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

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