大串 富史 2021年1月23日(土) 20時0分
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中国の「神薬」である复方魚腥草合剤、連花清瘟顆粒、百橘源化橘紅、芎菊上清丸、肤宝蛇脂膏。新型コロナウイルスにも効く「神薬」はないものの、お陰様で中国にいながら日本と「ほぼ」同じ生活を送っている。
最初に、コロナ禍で容易でない日本の皆さんに、中国の僕らからのエールとご挨拶とをお送りさせていただきたい。お陰様で中国の僕らは、ほぼ普通の生活を送らせていただいている。
「ほぼ」普通というのは、自分たちの周りにコロナ感染者が「ほぼ」いないという意味である。このことに在中日本人の僕は素直に感謝している。
先の関連コラムでも書いたのだが、今回のパンデミックとスペイン風邪のような以前のパンデミックの大きな違いは、現代人の僕ら-特に米国をはじめとする民主主義国家の僕ら-が皆、「小皇帝」だという点にあろう。
結果として、以前にはなかった地域格差が生じている。つまり中国ではコロナ禍が「ほぼ」収束し、その隣国である日本ではそうではない。
理由は簡単で、中国にいる僕らは「小皇帝」にはなり得ない。
例えば、日中ハーフの僕らの娘が通う小学校の先生からは「中国の○○省(または○○市または○○病院)へ往来した学生とその家族は、速やかにご連絡ください」というウィーチャット・メッセージ(日本のLINEメッセージにほぼ相当)が毎日のように来る。
やがては前のコラムでも書いた如く、「ワクチン接種の準備が整いましたので、全学生とその家族は速やかに病院にて接種証明を受け取り、学校に提出してください」となろう。
加えて、中国人にとって「武漢の悲劇」は記憶からぬぐうべくもない。もし「小皇帝」を気取ったり「小皇帝」を許せばどうなるか知っているから、「ほぼ」すべての中国人が「ほぼ」素直に「ほぼ」すべての指示に従っている。
しかし正直、在中日本人の僕は少しだけ困ってしまった。極力日本に帰らない結果、中国の人々が言うところの「日本神薬」、つまり日本の薬が入手できない。
この日本の「神薬」という表現については、「極力病院に行きたくない中国人-頼みは日本の『神薬』|【中国マーケット点描】」という記事の説明が比較的分かりやすい。
つまり日本の薬は中国人に大人気で「神薬」と称されており、それは逆に言えば、中国の薬は時に品質が一定しておらず、時に効能や安全面で問題があり、時に深刻な健康被害をさえもたらす危険があったりする。
そんなわけで僕もこの点だけは「日本人」をずっと保持し、正露丸やらパブロンやらを常備していた。
それで幸い正露丸はまだあるのだが、パブロンや日本の頭痛薬やらはもうない。これら第一類また第二類医薬品は、当然のことながら中国のネットモールであるタオバオでも売っていない。まして数年前に日本から持ち込んだ処方箋が必要な医療用医薬品は、言わずもがなである。
それでコロナ禍を機に僕はこの点でも「中国人」となることに決め、今は中国の「神薬」頼みとなり、意外にも「ほぼ」満足している。
では、中国の「神薬」とは、一体どんなものなのか。
1.复方魚腥草合剤:これまで喉が痛めば「早めのパブロン」をしていたが、今はこのアンプル剤を使っている。魚腥草とは中国ドクダミのことで、1回3本1日9本まで飲めるが、僕的には1、2本飲むだけで痛みがすっとなくなる。
2.連花清瘟顆粒:「早めのパブロン」が効かずに本格的に風邪になってしまった時は、以前に別所のコラムでも書いたように「維C銀翅片」プラス「利咽解毒顆粒」プラス「板藍根」の合わせ飲みが効果的なのだが、残念ながら青島で「利咽解毒顆粒」は手に入りにくい。その代わりに使えるのがこれで、合わせ飲みのリスクもない。
ただし断っておきたいのだが、日本の新聞報道にもあるように、この薬は新型コロナウイルスにも効く「神薬」ではない。もう少し正確に言えば、ただ症状の軽減になるだけである。もっと言うと、この薬はそれだけ強い薬で、普通の風邪の症状の軽減には十分過ぎるぐらい効く。
3.百橘源化橘紅:咳止めの保険食品で、煎じて飲む必要がなく熱湯でふやかしてそのまま飲める。効果は長くても数時間しか続かないものの、僕は自分の半世紀に及ぶ人生の中でこんなによく効く咳止めを飲んだことがない。
普通の「橘紅」は「ウンシュウミカンやマンダリンオレンジの成熟果皮」を指すが、「化橘紅」というのは漢方薬に使われるキウイフルーツのような外見の果実のことで、中国人の間でも「安全性が高く、万人向けで、すぐ効き、中枢神経の抑制や中毒性がない」ともっぱらである。
4.芎菊上清丸:頭痛薬だが、川芎(せんきゅう)をはじめとする有効成分を含む漢方薬。化学合成薬でないのに「神薬」である日本の一般的な頭痛薬と同じぐらいの即効性がある。
5.肤宝蛇脂膏:この蛇脂が日本で言うところの蛇油(マムシ脂)なのかどうかは定かでないものの、この軟膏は日本の蛇油と同様、消炎効果と痒み止めに確かに効果がある。
こうして挙げていけばきりがない中国の「神薬」であるが、最近は僕の中国人の妻が薬局の女主人と仲良くなった関係で、僕もたまに「勉強」のため妻と共に薬局に足を運ぶ。結果として我が家の薬箱の中には口角炎や鼻腔炎の塗り薬などもしっかり揃い、お陰様で中国にいながら日本と「ほぼ」同じ生活を送らせていただいている。
では、日本と「ほぼ」同じ生活とはどういう生活か。体のどこかが痛めば痛みを和らげる薬を飲んだり塗ったりして、自分の体の自然治癒力なり免疫機能なりがスムーズに働くよう願いつつ、ただただじっと待つ。
だから僕ら「小皇帝」な現代人の「神薬」満載な薬箱を、もし秦の始皇帝とお付きの練丹術師らが見ることがあるなら、現代中国の「神薬」の多種多様さに腰を抜かすと同時に、必ずや失望するに違いない。
秦の始皇帝に至っては、「不老不死の霊薬はどこじゃー!」などと大声を張り上げることだろう。ああ、一体どうしたら、人類総出で数千年かけてもまだダメなのに、まして「神薬」ごときで若さや健康を手に入れることなど到底ムリだという自明の理を受け入れてもらえるのだろう。
しまいには、騒ぎを聞きつけた区委(中国共産党区委員会)の人たちあたりが来て言う。
「あんたね、俺ら老百姓(中国語で一般市民の俗称)がコロナ禍のただ中で大変な生活を強いられてるっていうのに、それでもまだ皇帝気取りだなんて、気は確かですか?え?ちょっと待った!○○省から来て、しかも新型コロナPCR検査をまだ受けていないだって?!」
思うに現代人である僕らは、日本にいようが中国にいようが、もう少し賢くなれる。
日本でも2、3年後の集団免疫の獲得を視野に、ワクチン接種の準備が進んでいると聞く。日本人の一人として、また家族を連れ6年後には帰国予定の家族の頭として、日本の皆さんがこれまで通り賢く行動し、日本のような環境では周りにコロナ感染者がいないとも限らないという自明の理を受け入れ自衛されるよう、ただただ願ってやまない。
■筆者プロフィール:大串 富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。関連サイト「長城中国語」はこちら
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