松野豊 2021年1月20日(水) 22時50分
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前稿までは、日本の対中投資の歴史や近年の動向について示した。ではアフターコロナ時代においては、日本企業の対中投資はどうあるべきなのであろうか。
まず日本企業の対中投資の方向を考えるためには、当然ながら以下に示す2つの重要な要因を見据えておかなければならないだろう。
第一は、米中摩擦の動向である。米国がバイデン政権に移行しても、すでに施行された関税措置は中国側が新たな取引材料を出してこない限り容易に緩和はできないし、ファーウェイ問題や大使館封鎖問題などは、米国側に一定の証拠が存在すると思われるのでこれも撤回はできないだろう。
中国政府は、バイデン政権下においても米中関係が産業面でも政治面でもいわゆるデカップリングに向かうことを覚悟しており、そのための保険として少なくとも産業面においては、日本に秋波を送ってきている。
今年から始まる中国の第十四次五か年計画についてはいろんな見方があるが、中国政府が産業の「自前主義」を推し進めようとしようとしていることは明らかである。しかしその一方で、海外先進企業からの技術関連投資は今後も増大させるとも公言している。これは、対内投資が依然として中国の持続的経済成長のための生命線であることも示している。
最近でも中国商務部のスポークスマンは、コロナ下にあっても世界の対中投資が増加していることを強調している。しかし直接投資には一定のタイムラグがあることと、対中投資の中身に果たして変化があるのかについてはよく見えない。
中国から見た対中投資促進の目的は以下の2つだろう。
1.新規投資による産業の高度化、技術イノベーションの推進
2.技術移転を促進して、基幹産業の技術的自立化を図る
これらは従来からの方針と何ら変わりがないが、米国等からの数々の批判を受けて今後はより合法的かつ巧妙に進めていくものと思われる。
第二の要因は、世界規模での新型コロナウイルス感染拡大の動向である。感染症という未知の問題による世界経済の混乱という影響も大きいが、対中投資に関して言えば、欧米先進国を中心とした新たな「中国リスク」認識の影響が想像以上に大きくなるだろう。
話は少しそれるが、同じ対中投資といっても、在中国企業に対する事業拡大投資と新規の事業投資とでは目的が少し異なる。例えば中国側の統計に示される対中直接投資額は、日本側での統計(日銀の国際収支統計)よりは常に少ない。
中国における対内直接投資は、新規投資に増資を加えたものだ。中国側統計は、国際収支ベースの統計でいう「株式資本の増加」だけを集計したものだと思われる。つまり穿った見方をすれば、中国政府が歓迎し統計でも発表しているのは、目に見えた形の対中新規投資なのである。
コロナ問題で中国リスクを認識した欧米の先進国は、今まで通りに新規投資をするだろうか。少なくともコロナが収束し、中国と世界がそれにどういう後始末をつけるのかを見定めない限り、新たな大型投資には踏み切れないのではないか。
ただし日本と欧米では、企業の新規投資に対する考えやリスク感度はかなり違うことは、認識しておかなければならない。欧米企業はあくまでリターンを狙う「投資」であるのに対し、日本企業は距離も近いのでどちらかと言えば当該産業への「参画」という意識が強いだろう。
最後に、日本企業の対中投資はどうあるべきかについて筆者の考えを述べたい。
まず、現在は中国の市場規模や成長性だけを見て新規投資をする時代ではなくなっている。前述のように近年の対中投資の伸びは、既に中国で足場を築いている製造業の追加投資が主力である。中国市場は、もはやプロでなければ太刀打ちできない構造になっていると思う。
従って米中摩擦やコロナ問題を踏まえると、もし今後日本企業が対中新規投資を行うのだとすれば、特にその投資の意義や世界経済への影響を十分に考慮することが重要だろう。つまり今後の対中投資においては、「新たな理念」のようなものが必要になってくるということだ。対中新規投資の理念として、以下の2つを提案したい。
1.中国の世界経済への貢献につながる投資
例を挙げると、温暖化効果ガス削減などの地球環境保護、世界規模で協力すべき先進医療、最近甚大な被害が増加している防災などの分野だ。これらの分野なら例え今後日中間での競合が激化したとしても、日中間で協力して世界貢献に向かうことができる。
2.日中企業提携による発展途上国支援投資
最近のJETROの調査によると、日中企業提携による第三国への展開は、発展途上国の産業高度化やエネルギー・環境分野をターゲットにしたものが増加しつつあるという。これなら当然世界貢献にもなるし、また中国企業にとっては、日本企業との提携が自らの事業のグローバル展開のためのひとつの武器にもなると思われる。
中国が依然として魅力的な市場だと考えるのは、もはや市場規模や成長性といった視点ではない。日本企業は、中国経済の世界への影響力を活用することで、世界の成長産業に影響力を発揮したり、途上国の発展に貢献できるからなのである。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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