松野豊 2021年1月16日(土) 21時20分
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近年の対中投資の特徴をまとめてみよう。日本の対中投資の歴史は古く、その結果として日中の貿易額は大きく膨らみ、日本側からみれば中国との取引は日本の産業や社会生活に不可欠な要素になっている。写真は深セン。
次に、近年の対中投資の特徴についてまとめてみよう。前回のコラムで示したように、日本の対中投資の歴史は古く、その結果として日中の貿易額は大きく膨らみ、日本側からみれば中国との取引は日本の産業や社会生活に不可欠な要素になっている。
中国では昨年、日本政府が中国からの撤退企業に補助金を出すというニュースが話題になった。しかし中国における人件費の増大や中国企業の競争力強化の結果、競争力を失った日本の製造業は既に2010年代から製造拠点を東南アジア等へ移転し始めていた。新型コロナ感染拡大や米中貿易摩擦という事態があっても、日本企業が新たに大きな動きを示す兆候はみられない。
その理由としては、日中間の産業補完の進展がある。日中貿易の推移を品目別にみると、近年の日中貿易は日本優位の産業と中国優位の産業に明確に分かれている。図1は日本の製造業の中国に対する「輸出特化係数」を示したものである。
図1 日本の中国に対する輸出特化係数
「輸出特化係数」とは、ある品目の輸出額から輸入額を差し引いた純輸出額(純輸入額)を、その品目の輸出額と輸入額を足した総貿易額で割った数値のことで、国の輸出競争力を示す指標の一つである。
図1を見ると、対中国で競争力を持つ自動車関連、業務用機械、電子部品などの業種は日本優位で、通信機器、衣類雑貨、食料品などは中国優位になっている。また近年は、事務機や医薬品などで輸出入が拮抗してきている。
マクロな見方ではあるが、近年の日中貿易は貿易額も品目もバランスが取れており、産業補完というものが成立してきているということができる。
また図2は、日本の製造業の対中直接投資額を業種別にみたものである。2017年から対中直接投資額は再び増加しているが、その中身を見れば中国とは産業補完的でかつ日本企業が競争力を持つ自動車関連や業務用機械などで投資額が伸びていることがわかる。
図2 日本の業種別対中直接投資額の推移
このように近年の対中投資は再び増加に転じてはいるが、中身は主に中国で拡大しておりかつ日中間の産業補完が成り立っている業種であり新規投資とは言えない。では、世界的な新型コロナ感染拡大によってリセットされつつある世界経済の中で、日本企業の対中新規投資については今後どうあるべきなのだろうか。(続く)
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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