<直言!日本と世界の未来>米国のクーデターもどきの惨状に衝撃―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2021年1月10日(日) 5時50分

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米国の国会議事堂といえば民主主義の象徴だが、新年早々流血の場と化した。多数の暴徒が議事堂内に乱入し5人が犠牲になったという。早く落ち着きを取り戻し、世界を安心させる米国になってほしい。

米国の国会議事堂といえば民主主義の象徴だが、新年早々流血の場と化した。多数の暴徒が議事堂内に乱入し一時占拠し、5人が犠牲になったという。私は1970~80年代に立石電機(オムロン)の海外営業担当として米国各地を飛び回ったが、人種を問わずどんな人にも成功の機会がある「アメリカン・ドリーム」は活力の源泉であり、自由と民主主義は外国のビジネスマンにとって憧れだった。

テレビニュースに映し出された今回の乱暴狼藉は衝撃的だった。米議事堂内では銃撃のほか、周辺での爆発物の発見も報じられている。副大統領や議員らは、ガスマスクを持って避難したというから「クーデター」の様相である。

大混乱を招いたトランプ大統領の責任は重大だと思う。昨年11月の大統領選での敗北を受け入れず、「選挙が盗まれた」と支持者たちの怒りを煽り続けてきた。憎悪をけしかけ、法の支配を侮蔑してきたトランプ政治の帰結が、前代未聞の騒乱に繋がったのだろう。

議事堂内では、各州の選挙人による投票の結果を確定させるための上下両院の審議が行われていた。トランプ氏はホワイトハウス付近で集会を開き、選挙結果を覆すための「戦闘」が呼びかけ、「選挙に不正がなければ、勝利していた。議会へ行こう」と参加者を煽り、数千人が呼応したという。

トランプ氏は開票結果が明らかになって以降も、敗北を受け入れることを拒んできた。選挙による民主主義の前提を覆す暴挙といえるが、さらに暴力を扇動したとなれば最早犯罪である。バイデン氏は「議事堂への攻撃は抗議ではない。反逆だ」と非難したが、当然であろう。

議事堂周辺の騒乱は軍を出動させることで鎮圧され、ペンス副大統領はトランプ氏の要求を拒否、バイデン氏の当選を認めた。トランプ氏に近いとされてきた上院議員も選挙結果への異議を取り下げ、閣僚からも辞任表明が相次いだという。たが、トランプ氏の熱狂的な支持者が今後も同様の事態を引き起こす懸念は消えていないようだ。

人種、宗教、経済格差などで大きく分断された米国が、かつてのまとまりを取り戻すのは至難のことだろう。民主党は下院に続き、上院も多数を確保したが、強引な議会運営をすれば新たな暴動の火種になりかねない。

振り返れば4年前も、人種差別に反対する人々を白人至上主義者が殺傷した際、明確な非難を避けた。昨年の選挙前も、過激な支持者たちに暴力の否定を命じるか問われると、逆に「待機しろ」と呼びかけた。

世界に民主主義の範を垂れる。そう自負してきた超大国の無残な凋落は目を覆うばかりである。世界のリーダー国家・米国の混迷は、国際政治にも影響を与え、同盟国・日本にとっても、看過できない事態である。早く落ち着きを取り戻し、世界を安心させる米国になってほしい。

<直言篇145>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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