莫邦富 2020年10月1日(木) 15時20分
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中国はコロナ禍からの立ち上がりのスピードを加速し始めた。写真は中国の工場。
■中国はコロナ禍からの立ち上がりスピードを加速
9月15日、ダボス会議という愛称で親しまれる世界経済フォーラムがビデオ会議の方式で世界企業家特別対話会を開催し、中国の李克強首相が世界の600人近くの企業家を相手に基調講演を行った。
李首相はコロナ禍からの中国経済の立ち上がりを紹介した。「中国経済は今年度の主要所期目標を達成し、プラス成長を実現する見込みがある」と強調。同時に就職率、基本的生活の維持、市場の主たる分野の支援にサポートを提供しなければならないということも認めた。
「国際環境に深刻かつ複雑な変化が起こり、世界経済の不安定性が顕著になっているが、平和と発展は依然として時代のテーマであり、交流と協力は依然として世界の趨勢である」と発言し、経済グローバル化の大きな趨勢は変わらず、貿易と投資の自由化・利便化を共同で維持し、グローバル産業チェーン・サプライチェーンをできるだけ早く回復させ、世界経済を「活性化」させなければならないと強調している。
「中国経済はすでに世界に深く溶け込んでおり、中国の発展は世界と切り離せず、世界の発展にも中国が必要だ」と主張しながら、外部環境がどんなに変化しても、中国は揺るぐことなく改革を進め、引き続き市場参入条件を緩和し、外資企業の合法的権益を保障し、内外資企業に同様な待遇を提供し、公平に競争できる市場環境を構築する。さらに、コロナの発生状況を効果的に防止・抑制する前提の下で、より多くの人的往来の「クイックレーン」と貨物通関の「グリーン通路」を開設し、企業の多国籍経営に便宜を提供すると約束した。
日本は、10月1日から、全世界からの新規入国の受け入れを一部再開した。ビジネス関係者に限らず、3カ月以上の中長期の滞在者を主な対象とし、観光客は除外する。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2週間待機などは条件。入国枠は最大「1日1千人」程度。外国人留学生の入国も全面解禁する。
中国も同様の措置に踏み切った。9月28日から商用滞在を目的とする居留許可証所持者やその家族らは、中国への再入国の際に改めて査証(ビザ)を取得する必要がなくなる。ある中国政府関係者は「中国は現段階では、すでに最低5万人/日規模で海外からの入国者を受け入れている」と内情を明かした。海外との航空空路の再開に伴って、その受け入れ規模もさらに拡大していくだろう。
中国政府が9月15日に発表した統計データも、経済回復に関する李首相の主張を支える。8月、中国全国で規模以上の企業の工業付加価値の伸び率は前年同月比5.6%増で、今年の最高水準に達した。8月の社会消費財小売総額は前年同月比0.5%増となり、コロナ禍発生以来、初めてプラス成長となった。これらの経済データは、中国経済が回復の勢いを強めており、消費支出が景気回復のペースに追いついていることを示している。
上海・南京路歩行者天国も賑わいが復活した。町を歩く人々を見ると、マスク姿が少数派となりつつある。
■コロナ感染はやはり社会、経済の隅々に大きな影響
2018年11月20日、最新のテクノロジーを結集した火鍋レストラン「海底撈(ルビ:かいていろう)」初の「スマートレストラン」が北京に出店した。配膳ロボット、具材をピックアップするロボットアーム、さまざまなレシピを再現するスープ調合機などのロボット技術が異彩を放った。労働人口の減少と人件費の高騰を見越したうえでの無人レストランへの挑戦だと広く受け止められている。
しかし、必要域を大きく超えた超豪華な内装、過度な投資によるリスクなどを見て、海底撈の経営側もレストラン業界全体もこの種のスマートレストランへの継続出店に対して慎重な態度を保つようになった。
スマートレストランを大々的に売り出した海底撈自身も、一般消費者の目には触れないセントラルキッチンのスマート化に方向を変えた。
19年6月21日から、アリババの近未来型ホテル「菲住布渴」(フェイスブックをもじったネーミングで、泊まらないと気が済まないの意)もBooking.comからの予約の受け入れを始めた。従業員と出会わないスマートホテルとして注目されている。ホテルにはチェックインやチェックアウトの手続きを行うロビーはない。マネジャーも存在しない。客室のメーキングをする従業員もいない。
これまでは、これらの「スマートレストラン」や「スマートホテル」などはスマート技術の具現化の対象として、そして労働力減少時代に対する対策として関心を持たれてきたが、最近、サービス業における人間同士の接触を最大限に減らし、「三密」状態を効果的に解消できる利点が大きく見直され、この種の商業施設は、むしろコロナの影響の長期化に備える、またはポストコロナ時代の理想的なソリューションとして再認識されるようになった。これからはスマートレストランやスマートホテルなどが大量に登場するのでは、と見られる。
コロナの影響で、おびただしい企業が経営困難または倒産に追い込まれ、そこで働いていた労働者が職を失い、中国各地で失業人口が急速に増えている。中国に進出している外資系企業、特に労働集約型企業も東南アジアやインドなどに工場を移転している。
インド側の情報によれば、米アップル社は中国からインドへすでに8つの工場を移転したという。今年7月、アップルの製造請負会社として知られる台湾のフォックスコン(鴻海)やウィストロン(緯創)などもインドでの生産能力を拡大している。また、アップルの主要サプライヤーであるペガトロン(和碩)も、インドに支店の設立を申請し、工場の設立に取り組んでいる。
第二位のスマートフォンブランドとしての地位を取り戻したサムスンは、すでにインドのウッタル・プラデーシュ州ノイダに世界最大のスマートフォン製造工場を所有し、8月にもインドでの生産ラインのさらなる拡大を決定し、今後5年間で少なくとも400億ドル相当の携帯電話およびその他のデバイスを生産する予定だという。
インドの通信および情報技術担当大臣のラヴィ・シャンカール・ プラサッド(Ravi Shankar Prasad)氏は「私が2014年に最初に就任したとき、インドには携帯電話工場が2つしかなかったが、現在は250を超えている」と自慢している。
東南アジア諸国も外資誘致の布石を積極的に打っている。インドネシアのジョコ大統領は外資系企業が中国を離れるチャンスを必ずつかむべきだと述べている。マレーシア政府も6月初め、同国に約1億1700万ドル以上を投資した外資系企業に対し、15年間の免税優遇措置を提供すると発表した。ベトナムは8月からEU製品に対する49%の関税を撤廃し、10年以内に関税をゼロにすると優遇措置を発表している。
こうした事態を受けて、中国商務部(省)の鍾山部長はこのほど、メディアの取材に応じた際、「コロナの影響を受け、世界の多国籍投資が大幅に萎縮し、一部の国では産業還流が奨励され、国際的な投資誘致競争が激化し、中国産業の対外移転圧力が高まり、外資利用の困難が増えている。下半期、中国の対外貿易が直面する情勢はさらに複雑で厳しい」と述べた。
■経済再開加速のなかでクローズアップされた労働力不足問題
農民工による人口ボーナスは2012年をピークにして、急速に消えていく傾向を見せている。
中国経済の2大エンジンと言われる珠江デルタと長江デルタを見ると、18年、珠江デルタでは、農民工の純流出人口は186万人にのぼった。19年も100万人超の規模だ。18年まで、長江デルタでは、農民工はまだ純流入だったが、19年から純流出へと変わった。
その原因について、1.労働集約型産業が多かった珠江デルタでは、これらの企業の東南アジアへの移転が進んでいる、2.農民工の平均年齢が41歳になり、故郷またはその周辺で就職する傾向が次第に顕著になった、3.労働人口の減少。2012年、労働人口は2800万人以上も減少した。
今年は、コロナの影響で、現時点で農民工2.9億人のうち、出稼ぎに行った農民工は全体数の60%以上を占める1.78億人となっている。コロナの直接影響を受け、1300万人が故郷またはその近隣地域で就職するように方向を変えた。これは珠江デルタと長江デルタの人手不足現象をさらに深刻化させている。
これまで農民工移動傾向を中国の古代の名詩から、「孔雀東南飛」という詩句を借りて表現していた。近年に現れた「農民工の逆流現象」とも言える移動傾向を「孔雀西南飛」と言っている。この孔雀西南飛現象はこれから強まってくるだろうと思われる。
一方、中国の製造業の「安かろう、悪かろう」路線からの脱出に従い、農民工よりも高等教育を受けたハイレベルの人材をめぐる争奪戦が都市間で熾烈に繰り広げられている。
19年、金融担当の西安市副市長一行を接待したことがある。企業誘致に触れたとき、中国の幹部はたいてい、交通の便利さ、労働力の豊富さ、賃金の安さ、市場の大きさなどを強調する。しかし、西安市副市長の発言は面白かった。西安市の人口規模に触れたとき、18年の1年間で、西安市には新住民といわれる市民が80万人も増え、市民の平均年齢は37.39歳で、前年度よりは1歳も下がったと指摘した。つまり、新市民の中に若い人が多いから、市全体の人口の平均年齢を押し下げてくれたのだ。急速に高齢化社会となりつつある中国では、住民の平均年齢の若さがセールスポイントとなる。
もう1つ、副市長は新市民の中身も強調した。若いだけではなく、学歴も高い。その40%は大卒である。地元の大学卒業者の62.9%が西安に残りたいと言っているという調査データも、誇らしげに見せた。つまり学歴も重要なチェックポイントとなっている。
こうした大卒あるいは専門学校を出た若い人を誘致する作戦は中国の主要地方都市でここ数年、よく見られる現象だ。
たとえば、湖南省省都の長沙市では、10~15年、人口は39万1100人増加し、総人口は743万人にとどまっていた。しかし、16~19年では、同市の人口は100万人近くも急増した。つまり、もともと横浜市の人口の2倍をもつ同市に、さらに仙台市規模の人口を流入させたのだ。このように多くの若者の流入は長沙に驚異的な活力をもたらしている。この大都市間の人材争奪戦においては、長沙市は中部地区での一番の勝者を誇っている。
このように中国の各都市間では、人材の争奪戦がエスカレートしている。もちろん、明暗も分けられている。勝ち組ランキングを見てみると、深セン、広州、杭州、長沙、重慶といった顔触れが60数万~46万増を意味する上位に並んでいる。鄭州、武漢、寧波、成都、貴陽は30万人~10万規模の増加を確保している。
それまでは杭州に押されがちだった寧波が、居並ぶ強豪の中で頭角を現し、ひときわ目を引いた。寧波の経済は近年、発展のスピードが速く、ライバルたちに忸怩(じくじ)たる思いをさせている。貧困地域のイメージが強い貴州省の省都・貴陽も、トップ10入りを果たし、人々に意外感を与えている。ニュー・シルクロード経済圏を意味する一帯一路の拠点として注目されている西安は、1日の人口増が8000人を超えており、人材を貪欲に集めている様子がうかがえる。
物事には表と裏がある。勝者の桂冠を手にした都市がある以上、敗者側に追いやられた都市も存在している。陝西省内の都市を見ると、西安市だけは人口が増えている。その他の都市は全部、人口減に悩まされている。黒竜江省、吉林省、遼寧省からなる東北地域は地域全体も人口流出地域になって久しい。
こうした人口の増減をそれぞれの都市の経済発展事情と照らし合わせると、ひとつの鉄則みたいな現象が浮かび上がってくる。人口増の都市は経済も発展しており、活気がある。逆のケースはまるで貧乏くじを引いたようなものだ。
コロナ禍が終息したあと、こうした経済実力地図と人口増減地図はたぶんまた塗りなおされるだろう。そのとき、もう一度、人口増減と経済発展状況の比較をしてみたいものだ。
■筆者プロフィール:莫邦富
1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また日中企業やその製品、技術の海外進出・販売・ブランディング戦略、インバウンド事業に関して積極的にアドバイスを行っており、日中両国の経済交流や人的交流に精力的に取り組んでいる。ダイヤモンド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」、日本経済新聞中文網にて「莫邦富的日本管窺」などのコラムを連載中。シチズン時計株式会社顧問、西安市政府国際顧問などを務める。Facebookはこちら
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