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<コラム>アフターコロナ時代の日中ビジネス(5)日中企業提携によるグローバル展開

松野豊    2020年9月2日(水) 6時40分

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一国の産業や経済を評価するための指標はもっと他にもある。例えば経常収支という指標があり、これは一国の当該年の富の増減をみるための数値のひとつである。写真は緊急事態宣言当日の新橋。

中国経済を語る時に決まって取り上げられるのは、GDP(国内総生産)という数値である。しかし一国の産業や経済を評価するための指標はもっと他にもある。例えば経常収支という指標があり、これは一国の当該年の富の増減をみるための数値のひとつである。

中国は経常黒字国であり、現状は世界10位前後に位置する。現在の黒字を生み出しているのは貿易収支であり、これはつまり輸出で国の富を増やしているということになる。

これに対して日本は長期に渡って経常黒字を維持しており、現在の黒字額はドイツに次ぐ世界2位である。しかしその内容は中国とは少し違う。黒字の大部分は企業の第一次所得収支であり、これはすなわち海外投資によって生まれる配当利益等の国内回流である。

貿易黒字と所得収支のどちらが良いかは一概には言えない。しかし一昨年から勃発した米中貿易摩擦の直接の原因が中国の巨額の対米貿易黒字であることを考えれば、中国の貿易収支は今後減少に向かっていくべきなのだろう。

IMF(国際通貨基金)の予測によれば、中国は2022年頃には経常赤字に転落する可能性があるようだ。ただし本年はコロナ問題で中国人の海外旅行が激減し、巨大だった旅行収支の赤字がなくなりそうなので、経常赤字化はおそらく少し先送りになるだろう。

少し荒っぽい言い方をすれば、中国は貿易黒字というフローで稼ぎ、日本は海外投資収益というストックで稼いでいる国だと言えそうだ。中国は長期に渡って高度経済成長が続いてきたので、未だにフローによる稼ぎが主体であるということは少し意外だ。巨額の対内投資と世界の工場としての輸出量で稼いできた巨万の富は、いったいどこに行ってしまったのだろうか。

さて前稿でも触れたように、今回のコロナ問題が原因で世界の先進国を中心に「中国リスク」回避の動きが強まっている。中国リスクについては、中国にいる外国企業の製造拠点が海外に移転していく文脈で語られることが多いが、実はリスクがもうひとつある。それは中国企業の海外進出に制限がかけられそうなことである。

中国は既に、コロナ問題発生前から製造コストの上昇などによって、外国企業の製造拠点の国外移転問題が俎上にあがっていた。また中国側も国内の製造拠点の中で、労働集約型で低付加価値なものや環境を汚染したりエネルギーが多消費な工場などについては、徐々に海外移転を進めてもらうような政策を取り始めていた。

つまり中国としても、産業構造を転換して低付加価値な製造拠点の海外移転を進める時期に来ている。また同時に国内市場の飽和に伴って、今後は企業の海外直接投資を増やしていき、日本のように国の経常収支に貢献させていかなければならないのだ。

尤も中国政府は近年、金融政策面の都合から資本の海外流出に制限をかけるようなことをしてきていたので、中国企業の海外投資は実はここ数年あまり増加していない。しかし技術力やブランド力によって付加価値を高めていくためには、特に製造業の海外投資拡大は待ったなしの状況なのである。

そこにコロナ問題が立ちはだかってしまった。米中貿易摩擦なども加わって、中国企業の対外投資が警戒され、一部制限されるようになってしまった。筆者は、これこそが中国にとっては中長期的に見て最大のリスクになるのではないかと思う。

日本政府は、2018年10月に北京で「第1回日中第三国市場協力フォーラム」を開催した際に中国側と日中協力の覚書を締結した。いろんな政治的要素も含まれるが、これは日中企業が提携して第三国市場に展開しようという意味であった。

既に日本の商社などは、従来から中国企業と組んでアジアや中東でビジネス展開を進めてきているので目新しいものではないが、中国企業は日本企業と組むことで信用力を得られるし、一方で日本企業は中国企業の資本力やマンパワーを活用できるので、両国の利益にかなうスキームだといえる。

日中企業の間には、企業文化やビジネス手法などでかみ合わない部分は確かにあるし過去に失敗の例も多い。しかし中国国内でのビジネスで散々苦労してきた日本企業にとっては、中国外で対等にかつグローバルルールに則ってビジネスを展開するというスキームは、ある種魅力的な面もあるのではないだろうか。「日中企業提携によるグローバル展開」は、中国側からのニーズも加わってきて、アクターコロナ時代のひとつの選択肢になると思う。

コロナ感染問題そのものはまだ先行きが見通せない状況であるが、本稿では4つの視点から日中ビジネスにどのような方向性があるかを考えてきた。

コロナ問題によって今後日本企業の事業環境は、大きな変容をみせるだろう。その中にあって日中ビジネスも中国からの「秋波」を受けつつ、賢明な意思決定をしていきたい。

■筆者プロフィール:松野豊

大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。

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