<コラム>米中貿易戦争

海野恵一    2020年2月6日(木) 21時40分

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中国は4000億ドル購入するという契約をたてに、米国に軍事産業、IT産業、航空宇宙産業からの製品を輸出させようとしているのではないでしょうか。資料写真。

前回は中国政府が2013年に「中国製造2025」というAIに基づいた中国の発展の構図を公表した内容の話をしました。この「中国製造2025」のタイトルとは裏腹に、中国政府はすべての産業にAIを導入するという中国でしかできないような内容の政策を公表しました。すでに5Gの技術ではアメリカを遥かに凌いでいます。イギリスはトランプの要請を振り切って、ファーウェイと話をすすめることにしました。ドイツもメルケルを除いて、ファーウェイ製品の導入に賛成です。彼らはこの技術が彼らの産業の発展に必須だと見抜いています。日本はアメリカのトランプに同調して、ファーウェイを排除しようとしています。ソフトバンクも方針を変更しました。

中国のこうした国家を上げての技術優先政策はますます加速するでしょう。米中の貿易戦争の第一段階がこの1月に締結され、中国が2017年の輸入額1700億ドルに上乗せして、更に2000億ドルをこの2年間で購入する契約をしました。今までの貿易赤字の金額に相当します。

一般的にはトランプのこうした強引な交渉が功を奏したと評価していますが、果たしてそうでしょうか。この貿易戦争でのトランプの真意は貿易赤字の解消ではありません。中国のフェアでない取引慣行、知財の窃盗を排除しようとすることが彼の意図です。それでは今回の契約で、中国はどうアクションをとるのでしょうか。大豆とかエネルギーの輸入をしようにも4000億ドルもこの2年間で輸入できません。アメリカもそれほどの量を輸出はできないでしょう。

今、中国では豚の疫病で、豚の数が減っています。ですから、輸入しても大豆をすべて消費することは不可能です。それでは習近平は何を考えてこうした協定をトランプと結んだのでしょうか。彼はトランプに対して、4000億ドル購入するという契約をたてに、軍事産業、IT産業、航空宇宙産業からの製品を輸出させようとしているのではないでしょうか。

アメリカは農業製品、エネルギー製品の他に、こうした軍事産業、IT産業、航空宇宙産業ぐらいしか輸出できるものがありません。2021年までに購入するという契約なので、習近平の要求に対してトランプはどう判断するのでしょうか。中国人のこうしたしたたかな智謀は長い歴史のなかで培われてきたと言えます。

その智謀の一つが「三徳」です。この「三徳」とは論語に「智の人は惑わず、仁の人は憂えず、勇の人は懼(おそ)れず」という言葉がありますが、そのことです。この「三徳」とは智仁勇の3つの徳からなっていて、世界を広く知るという智、相手を思いやる仁、ここ一番という時にものを言う勇気であり、この三徳とは相手を説得するための極意なのです。

この3つの徳が相絡まって、相手を説得するのです。この論語の背後には「孫子の兵法」という相手をどう騙すかという中国の恐ろしい戦術があります。次回はこの「三徳」について説明します。「孫子の兵法」はあらためて、別途、説明しようと考えています。

■筆者プロフィール:海野恵一

1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、アーサー・アンダーセン(現・アクセンチュア)入社。以来30年にわたり、ITシステム導入や海外展開による組織変革の手法について日本企業にコンサルティングを行う。アクセンチュアの代表取締役を経て、2004年、スウィングバイ株式会社を設立し代表取締役に就任。2004年に森田明彦元毎日新聞論説委員長、佐藤元中国大使、宮崎勇元経済企画庁長官と一緒に「天津日中大学院」の理事に就任。この大学院は人材育成を通じて日中の相互理解を深めることを目的に、日中が初めて共同で設立した大学院である。2007年、大連市星海友誼賞受賞。現在はグローバルリーダー育成のために、海野塾を主宰し、英語で、世界の政治、経済、外交、軍事を教えている。海外事業展開支援も行っている。

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