野上和月 2020年1月17日(金) 20時20分
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習近平国家主席が2020年を迎えた挨拶の中で祖国に復帰したマカオと香港について触れた。
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習近平国家主席が2020年を迎えた挨拶の中で祖国に復帰したマカオと香港について触れた。「一国二制度」のもとで経済発展し、社会も安定しているマカオを称える一方で、香港について、「調和と安定なくして安住できるのか?香港の安定は全国民の願いでもある」という趣旨の発言をしたのだ。この発言は香港では、長引く反政府デモに釘を刺したものだと受け止められたが、私は両地の返還当時の様子が頭をよぎった。
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香港とマカオは、フェリーやバスで約1時間の距離だ。英国の植民地だった香港は1997年に、ポルトガルの統治下にあったマカオはその2年後の99年に祖国に復帰したが、返還に対する市民の想いは対照的だった。
香港では多くの市民が返還後を悲観視して移民が急増した。「返還してほしくない」「政治的圧力が不安だ」などと口にする市民が多かった。一方、マカオ市民は「今すぐにでも返還してほしい」と、返還を待ち望んでいた。
当時のマカオは、黒社会が暗躍し、路上で発砲事件が起こるなど治安が悪化。景気は低迷し失業率は6.3%まで悪化した。対策を講じないポルトガル政府に不満を抱く市民は少なくなかったのだ。
返還後、マカオの治安は改善された。2002年にカジノ市場が開放されると、それまで一社独占だった市場に、米国や香港資本が流入し、統合型リゾートカジノが続々と誕生した。それまでのひなびた街が嘘のように、18年には、返還前の約5倍の3580万人の観光客が訪れ、ホテルの客室数も9000室から4万室に増えた。GDP(域内総生産)は、99年の約8倍の545憶ドル(約6兆円)に増加し、失業率は1.8%に改善した。
09年には国家転覆を取り締まる「国家安全法」を、19年には「国歌法」を制定し、学校では毎週国旗掲揚が行われている。マカオ理工学院の17年の調査によると、市民の約85%が「自分は中国人」と答え、66%以上の市民が「一国二制度」がマカオの核心的な価値だと思っている。
一方の香港。返還前の不安が現実的になり、市民は大規模抗議デモを繰り返し、「国家安全法」も「国歌法」も成立を拒んでいる。「自分は香港人」、「一国二制度は形骸化した」と中国政府にも反発的だ。返還20周年も市民は白けていた。
昨年12月、マカオを訪れると、タクシーの運転手は「マカオ経済は発展し、豊かになった」と笑い、開通したばかりの「鉄道系無人交通システム(マカオLRT)」の案内係の若い女性職員は、「私は返還前を知らないが、両親から返還後社会はとても良くなったと聞いている」と、返還20周年を素直に喜んでいた。
マカオは、国家安全法が効き、域内だけでなく、外部の過激な民主活動家の入境を阻止しているから香港の反政府デモが飛び火してこない。それどころか、香港を回避した中国人観光客で賑わっているから皮肉だ。
習主席の挨拶で、こんな風にも思った。事情があって別々に里子に出された兄弟が、ようやく実母の元に戻った。豊かな家で育った兄はエリート意識が高く、実母に反抗的だ。一方、それまで境遇が良くなかった弟は、実母に従順で、個性を伸ばして成長している。中国と香港、マカオはそんな親子関係のようだ、と。今後も対照的な親子関係が続くとしたら、実母は、どちらにより多くの愛情を注ぐだろうか。(了)
■筆者プロフィール:野上和月
1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。 ブログ:香港時間インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89
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