<直言!日本と世界の未来>日本の労働者の出世意欲「世界最低」に衝撃―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2019年9月8日(日) 9時40分

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「日本の労働者の出世意欲は世界最低」との調査結果に衝撃を受けた。中国やインドなどでは、かつての日本と同様、組織内での熾烈な競争が展開されており、トップを目指す若者も多い。少子高齢化が進む日本で、安穏な人生を送りたいとの表れだろうが、少し心配になる。

「日本の労働者の出世意欲は世界最低」との調査結果に衝撃を受けた。人事コンサルタント会社のパーソル総合研究所が2019年8月下旬に発表した「就業実態・成長意識」調査である。

この調査は日本を含むアジア太平洋地域の14カ国・地域に3年以上居住し、就業している20歳~60歳の労働者が対象。男女1000人から回答を得たという。

「現在の会社で管理職になりたい」と回答した人が最も多かった国はインドで86.2%。以下ベトナムの86.1%、フィリピンの82.6%の順で、日本は最下位の21.4%だった。仕事への意識として「会社で出世したいかどうか」を5段階評価で回答してもらったところ、最も高かったのはタイ(4.7)で、以降、フィリピン(4.6)、インド(4.5)と続いた。この項目でも日本(2.9)は最低だった。

また「勤務先以外での学習や自己啓発」について聞くと、日本は「特に何も行っていない」が46.3%と14の国・地域で断然トップ。2位のオーストラリアに24.8ポイントも差を付けられた。一方で、シンガポール以外の東南アジア、インド、中国では「何も行っていない」は10%未満で、積極的に自己研鑽していることが明らかになった。

「起業・独立志向」を聞くと、1位はインドネシア(56.4%)、2位はインド(53.4%)、3位はタイ(51.3%)で、日本(15.5%)はワースト1という結果だった。

このほか、「女性上司のもとで働くことに抵抗はない」と答えた人が最も多い国は、ニュージーランド、タイ、ベトナム(同率1位)だったが、日本はここでも最下位だった。

「外国人と一緒に働くことに抵抗はない」と回答した人が多い国の1位はタイで、2位はニュージーランド、フィリピンで、日本は最下位だった。

「年下上司のもとで働くことに抵抗はない」と答えた人が多い国1位はベトナム(4.4)、2位はタイ(4.3)、3位はフィリピン(4.2)で、日本(3.5)はワースト2。ダイバーシティ受容度について、オセアニア、東南アジア、インドは抵抗がないと感じている割合が高いことがわかった。

日本が1位になったのは「何歳まで働き続けたいと思っているか」という質問で、平均63.2歳。2位は韓国の62.0歳、3位がオーストラリアの60.5歳だった。

「会社全体」「職場の人間関係」「直属上司」「仕事内容」「プライベート」について満足度を聞いたところ、14カ国平均で全項目とも70%を超え、「会社全体」は80.2%が満足と回答した。日本は他国と比較し、全ての項目で満足度がワースト1。「会社全体」(52.3%)、「職場の人間関係」(55.7%)、「直属の上司」(50.4%)、「仕事内容」(58.2%)という結果だった。

また「今の勤務先で働き続けたいか」を聞くと、日本は52.4%で最下位だった。一方、日本の転職への意向は25.1%に過ぎず、この項目でも最下位だった。

以上の調査結果から、会社、職場の人間関係、上司、仕事内容、プライベートなどの面で、不満を抱える日本の労働者が多いことが分かった。

一方、2018年9月に厚生労働省が発表した2018年版「労働経済の分析」(労働経済白書)によると、非管理職会社員の6割が管理職になりたくないと考えているという。管理職の負担が増えていることが背景にありそうだが、衝撃的な調査結果である。

この調査は独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が18年2~3月に正社員を対象に実施した調査(1万2355人が回答)を、厚労省が分析したという。役職に就いていない社員に絞って昇進への考えを調べたところ、「管理職以上に昇進したいとは思わない」が61%に上り、「管理職以上に昇進したい」は39%にとどまった。

昇進を望まない理由(複数回答)では、「責任が重くなる」が71%で最も多かった。「業務量が増え、長時間労働になる」が66%、「現在の職務内容で働き続けたい」と「部下を管理・指導できる自信がない」が59%で続いた。

かつての日本企業は、高度経済成長時代を中心に、すべての社員を一律のものとして捉える傾向があった。それは当時の企業環境や社会情勢への対応としては、最適だったと言うことができるのかもしれない。しかしバブル崩壊と長期の景気低迷で日本企業が構造改革にあえいでいた中で、そうした一律的な社貝の捉え方が方向転換され始めた。

労働条件という側面から言えば、これまでのように入社してから定年までどのような仕事をするかも含めて、会社が社員を丸抱えするような終身雇用的な形態ではなく、社員個々人の生涯設計を尊重し、やりたい仕事ができるような仕組みをつくっていくこと、また、人材育成においては、会社がその会社独自のやり方を教え込むというのではなく、あくまで個人が主体的に自己の能力開発に取り組み、会社はそれを支援するということが重要である。つまり、その人がひとつの会社内での仕事だけでなく、どこへ行っても通用する能力、いわゆるエンプロイヤビリティを身につけるための環境整備が必要になる。

少なくとも従来のように、社員にロイヤルティ(忠誠)を求めて、塩漬けにしておくような時代ではない。働く側も価値観が多様化し、いろいろな働き方が出てくるし、実際に出てきている。そうした中、それぞれが持つ専門性や能力を引き出していくことが、企業にとっても重要となる。

それにしても、企業など組織内で、上昇志向が薄れているのは、気になるところ。中国やインドなどでは、かつての日本と同様、組織内での熾烈な競争が展開されており、トップを目指す若者も多い。今回の調査結果は、少子高齢化が進む日本で、安穏な人生を送りたいとの一般社員の意識の表れだろうが、少し心配になる。

<直言篇97>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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