<直言!日本と世界の未来>安倍首相の米国・イラン“仲介”に今後も期待=日本は東西世界の“接着役”果たせ―立石信雄オムロン会長

立石信雄    2019年6月16日(日) 6時20分

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安倍晋三首相がイランを訪問。イランの指導者に直接、自制を求めた意義は大きいと考える。米国とイランの溝は深い。国際社会と連携しながら、両国の対話を粘り強く働きかけ、中東の安定実現につなげてもらいたい。写真は安倍首相。

安倍晋三首相がイランを訪問。最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領と会談し、偶発的な衝突の危険が高まる米国との緊張緩和を促した。ロウハニ大統領は経済制裁の緩和とイランの国家運営を支える原油輸出の再開へ向けた措置を求め、トランプ大統領に伝えるよう安倍首相に要請したという。

大産油地帯である中東の混乱は、原油輸入の多くをこの地域に依存する日本をはじめ世界経済に深刻な影響をもたらす。ちょうど安倍首相の依頼訪問の最中に、ホルムズ海峡付近で日本関連の船舶が攻撃を受け、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

船舶が攻撃されたことで「米・イラン仲介は日本には荷が重い」との見方もあるようだが、イランの指導者に直接会って、自制を求めた意義は大きいと考える。米国とイランの溝は深い。国際社会と連携しながら、両国の対話を粘り強く働きかけ、中東の安定実現につなげてもらいたい。

6月末には大阪で20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれる。英国やフランス、ドイツ、ロシア、中国など核合意の当事国や、サウジアラビアなどイランと対立する国も参加する。こうした国々に今回のイラン首脳との会談を説明し、相互理解に繋げるよう望みたい。

国際ジャーナリストのビル・エモット著『「西洋」の終わり』によると、第2次大戦後に民主主義と分権化された社会システムを主導してきた「西洋」といわれる国々の理念が、大きく揺らいでいる。「自国第一」を掲げるトランプ政権の登場や「中華の夢の復興」を目標とする中国の台頭がこの傾向に拍車をかけていると見ることもできそうだ。第1次世界大戦終結後にシュペングラーが著した『西洋の没落』と、東西冷戦終結後にフランシス・フクヤマ氏が世に問うた『歴史の終わり』にも重なる世界であろう。

エモット氏が言う「西洋」とは、開放性・民主主義・平等性などの理念で成功してきた国」と定義される。米国で「自国第一主義」や保護主義を推進するトランプ政権が誕生したことや英国の欧州連合(EU)離脱、中東での過激派組織「イスラム国」(IS)をはじめとするテロ頻発、さらには中国やロシアに代表される強権的な国家がアジア、中東、南米、アフリカなどで増えている。北朝鮮の核開発問題をめぐる米朝中韓などによる「劇場型駆け引き」も、戦後秩序激変のあらわれと見ることもできるだろう。各国でポピュリズム(大衆迎合主義)が強まっていることも懸念材料。世界を支えてきた普遍的な理念が脅かされていると危惧する。

西洋の民主主義は開放性と平等性が両輪となって繁栄してきた。開放性は時に劇的な変化をもたらし、格差拡大などにより社会の安定を乱すのに対して、平等性は政治決定プロセスを通じて、激変を緩和する役割を果たしてきた。ところが「世界的な金融危機により、人々の平等性に対する信頼が大きく損なわれた」とエモット氏は指摘する。単に所得面の不平等感ではなく、「自分たちの声が政治権力に無視されているという怒りである」と分析。その上で、「先進国の政治は今後数十年、経済の活力を維持しつつ、公共投資などを通じていかに不平等の是正に取り組むかが重要になる」と提言している。

さらに懸念すべきなのは戦後の秩序をつくり主導してきた米国がその秩序を破壊していること。エモット氏は「米国が国際秩序の維持に関わらなければ、ロシアや中国など民主主義体制とは異なる勢力が増大しかねない。国連や世界銀行、世界貿易機関(WTO)など法を順守する今の国際秩序を損なう恐れがある」と警告している。

日本が外交戦で「敗者」とならないために、安倍外交にはしたたかさが求められる。これまでの「対話より圧力」「100%米国とともにある」という直線的な外交から脱却して、世界の経済成長をけん引するアジアにも軸足を置く「全方位外交」を心掛けるべきであろう。その意味で、安倍首相がこの度イランを訪問し、米国との仲介役を果たそうとしたことは大きな意義があったと考える。アジアに位置し米欧とも良好な関係にある日本は東西世界の“接着役”の役目果たすべきだろう。

<直言篇90>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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