海野恵一 2019年11月15日(金) 23時0分
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一人の人間を一生かかっても理解することは出来ないのです。修身斉家治国平天下と言う言葉が「大学」にあります。身を修めることが出来て、家が斉のうのであり、家を斉えることができれば国家を治めることができるのだと、2500年前の人は言いました。資料写真。
ついうっかりして、9月の原稿を書くのを忘れてしまい、11月になってしまいました。8月は日本人が外国人から受け容れられていないと言う話をしました。日本人が正しいと思っていることが、果たして外国人に正しいと思われているのかということでした。こうしたコミュニケーションの問題は文化の違いがあると増幅してしまいます。ところが、こうして相手の人を理解するということは極めて難しいのです。今月はそうした話をします。
実は一人の人間を一生かかっても理解することは出来ないのです。修身斉家治国平天下と言う言葉が「大学」にあります。身を修めることが出来て、家が斉のうのであり、家を斉えることができれば国家を治めることができるのだと、2500年前の人は言いました。
家を斉えるということは一体どういうことなのでしょうか。家庭を円満にするということはどういうことなのでしょうか。家庭の中核は夫婦です。円満にするということはこの夫婦が相手を理解するということなのです。この相手を理解することそのものが修身につながるのです。修身ができていない人は相手を理解することが出来ません。
ですから妻もしくは夫を理解することが、修身そのものであり、そうすることができるようになれば国が治ると昔の人は言いました。ということは一人の人間を一生理解することに注力することによって、地域においても、企業においても、うまくやっていけるのです。
ところがこの相手を理解するということがなかなか出来ないのです。多くの人は相手の話を聞きません。自分の価値観とか自分の置かれている地位が相手の話の内容を受け付けないのです。ですから、儒学では生まれたままの心になれと言っています。ともかく相手の話を心のなかに受け入れるべきだと言っているのです。不思議なことですが、相手の意見に反論があっても、よっぽどのことがない限り、一晩置くと自然と相手の言ったことを受け入れるのです。
こうした修行が修身です。相手の話を聞くためには自分自身の精神が安定していなければなりません。ですから、喜怒哀楽があっても心は動いてはならないと儒学は教えています。特に、嬉しいときには判断を間違えるというのです。こうしたお互いの信頼は相互の意思疎通から生まれます。心が通じ合い、信頼しあえれば、それが幸福ということなのです。
人生の成功は名誉や地位や財産ではありません。妻や夫と一緒に幸福な人生をどう送るかということです。家を斉えるということは妻や夫を愛し、家族の幸せに尽くすことであり、そのために人は耐えるのであり、人を造ることになるのです。
ところが一人の妻や夫を理解することは一生かかってもできないのです。ましてや会社の従業員が何を考えているのかわかる由もありません。孔子はこう言いました。「民はこれに由らしむべし。これを知らしむべからず」 要するに、妻や夫には物事の本質を話しても理解してもらえないときが多々あるから、あなた自身を信頼させるためにはどうするかを考えろということです。従業員との意識のギャップはもっとあるはずです。
よく家庭と仕事の両立を議論する人がいますが、こういう視点から修身を考えますと家庭が円満でない人が仕事でうまく行かないのです。それがこの冒頭で言った修身斉家治国平天下と言う言葉がそういうことを意味しています。仕事の前に家庭があるのです。中国政府が最近、道徳教育を徹底しようということ言いましたが、まさしくこのことです。脚下照顧で、最も身近な人との信頼関係が出来ない人が社会でうまくいくわけがないのです。
■筆者プロフィール:海野恵一
1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、アーサー・アンダーセン(現・アクセンチュア)入社。以来30年にわたり、ITシステム導入や海外展開による組織変革の手法について日本企業にコンサルティングを行う。アクセンチュアの代表取締役を経て、2004年、スウィングバイ株式会社を設立し代表取締役に就任。2004年に森田明彦元毎日新聞論説委員長、佐藤元中国大使、宮崎勇元経済企画庁長官と一緒に「天津日中大学院」の理事に就任。この大学院は人材育成を通じて日中の相互理解を深めることを目的に、日中が初めて共同で設立した大学院である。2007年、大連市星海友誼賞受賞。現在はグローバルリーダー育成のために、海野塾を主宰し、英語で、世界の政治、経済、外交、軍事を教えている。海外事業展開支援も行っている。著書はこちら(amazon) facebookはこちら
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