<コラム>韓国・文大統領の冷麺の食べ方を見て思ったこと

北岡 裕    2018年9月6日(木) 9時50分

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少し前の話になるが、4月の南北会談の時のこと。文在寅大統領のたっての希望もあり、平壌冷麺の名店、玉流館の冷麺が会談の板門店での昼食の席に上った。写真は神戸の元祖平壌冷麺川西店の冷麺。筆者提供。

少し前の話になるが、4月の南北会談の時のこと。文在寅大統領のたっての希望もあり、平壌冷麺の名店、玉流館の冷麺が会談の板門店での昼食の席に上った。冷麺の本場は平壌とされ、この南北会談を契機にソウルでも未曽有の平壌冷麺ブームが巻き起こったのだとか。

だが本来、冷麺は冬の料理とされる。最低気温が零下十数℃にもなる真冬に、オンドル(床暖房)の効いた暖かい部屋で食べるのだ。

玉流館は平壌でも随一の店とされる。ちょうど「雑誌イオ」8月号(朝鮮新報社)で特集されていたが開店以来味を変えていないのが自慢。私は縁がなく、ようやく5回目の訪朝で食べることが出来た。冷麺も美味しいがデザートのアイスクリームも人気。しかし肝心の冷麺は少々期待外れで、平壌市内中心部にある高麗ホテルのレストランの冷麺がより美味しいと感じた。

麺は腰が強いが細い。実は何度も訪朝する在日朝鮮人の間でも好みが別れる。玉流館の人気は確かに高いのだが、高麗ホテルを推す人も散見される。また噂によれば高麗ホテルとは別に玉流館の料理人が独立して開いた店もあり人気を集めているという。つまり決して玉流館が最高、一強というわけではないのだ。

さて、文大統領が冷麺を食べる映像を見て非常に気になったシーンがあった。冷麺が配られると文大統領は味見もせずに酢をかけた。冷麺の味の調整は酢とコチュジャンで行うのだが、まずはスープのそのまま味を味わうべきではないか。在日朝鮮人の畏友に話すと「確かに」という。ラーメンに初めからコショウをドバっとかけるようなもので無粋ではないか。なお私は酢を使わずコチュジャンも少量しか混ぜない。スープ原理主義者の立場である。

この想いを先日取材で訪れた神戸の名店、元祖平壌冷麺屋川西店店主にぶつけてみた。店主は「まぁ、結局はお客様の好みですねぇ」と苦笑いした。そして別の在日朝鮮人の方に次回訪朝のために粋な冷麺の食べ方を聞いてみた。もし酢をかけるなら、麺を持ち上げ麺に伝いかけるのが通と教えてくれたのは、朝鮮料理を研究する在日朝鮮人の方。在日朝鮮人の方の冷麺への思い入れは強く、話題は尽きない。

現地の人相手との話題は極力政治性を省いた、具体的には家族の話が無難だった。携帯電話に入れた家族写真を見せ話せば会話は盛り上がった。だが次回訪朝時は、少し考えを改めて冷麺の話をしてみようと考えている。美味しい店、食べ方、新しい彼らのこだわりから新しい切り口で彼らを見ることが出来る気がする。

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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