<日本人が見た中国>「家族より仕事を優先」の日本、「仕事より家族を優先」の中国

Record China    2012年6月26日(火) 19時39分

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中国で活動する日本人俳優・矢野浩二は、間もなく放映されるドラマで仕事人間の日本人を演じている。昔の日本人は「家庭より仕事を優先させる」という考え方の人が多かった。中国では昔も今も「仕事より家庭を優先させる」という考え方の人が圧倒的に多い。劇中写真。

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2012年6月26日、大ヒットした小説をドラマ化した「浮沈」がまもなく中国全土で放送スタートする。このドラマは上海の商社を舞台にした作品で、私は土井という日系企業の総裁を演じている。土井は仕事一筋人間。常に自分をストイックな精神状態においているので、実績ノルマに達していない中国人の部下に対しても、とてつもなく厳格である。正直に言えば、私には土井の仕事に対する姿勢に賛同できる部分もある。

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今は違うだろうが、昔の日本人は「家庭より仕事を優先させる」という考え方の人が多かった。中国では昔も今も「仕事より家庭を優先させる」という考え方の人が圧倒的に多い。

個人的な話になるが、2010年9月、私の妻が子供を出産した。当時はドラマの撮影中であったが、「浩二の奥さんがまもなく出産する」ということはマネージャーから制作サイドに連絡してあり、制作チームは出産予定日の前後10日間、私の撮影スケジュールを入れないという配慮をしてくれていた。結局、予定より2週間早い出産だったために彼らの配慮も活かせなかったわけだが、それでも私のスケジュールを空けるよう対応をしてくれた。出産間際には妻と赤ん坊のそばについていられるようにという気配りだ。中国では他にも、家族が病気であったり不幸に遭ったりした状況下ではこのような対応をしてくれる。「他の何よりも家族が大切だ」という観念が根底にある。

日本では遠慮という礼節があるため、たとえ家族のことであったとしても“私的なことで他人に甘えられない”雰囲気が至るところにあると思う。「親の死に目に会えると思うな」という言葉が端的にそれを表している。私も俳優の道を選んだ頃にこのような言葉を良く聞かされた。そして私が23歳のある日、大阪の姉から電話があった。「母さん死んだで…」。

1年前から余命1年と医師から聞いていた。骨隋性異型成症候群、骨髄の癌だ。亡くなる1カ月前、幸いにもたまたまスケジュールが空いて病院にいる母の元へ行くことができた。3日間、ずっと母のそばにいた。東京に戻る前夜も一晩中、病室の母のベッドの傍らで過ごした。東京に経つ朝、これが最期だとわかっていた。辛い思いを噛み殺し、東京に戻ったのを今でも覚えている。

母が亡くなったその日は、すでにスケジュールが決まっていた。自分がいないことで、周囲の仕事仲間には迷惑をかけられない。姉の電話を受けた後、まずはじめに考えたのはそれだった。結局、大阪に帰ったのは翌日のことだった。母の死に目には会えなかった。母が逝く時に看とってあげられなかったことを、今でも後悔するときがある。そんな理由からか、私はいつも母の写真を撮影先のホテルの一室に飾り、横に水を置くようにしている。

東日本大震災で日本が世界中に示した東北の人々の気概。震災禍でも失われなかった日本人の美意識と礼節は、最もクールな視点で著名なイギリスの新聞「インディペンデント」までもが一面に日の丸をかかげ、「がんばれニッポン」と声援を送った。苦しみを美徳とする日本人って何だろう?個を捨てて団結を重んじる日本人って?中国生活11年、最近父親になったからか、“日本人”であることを強く意識するようになったこの頃である。

矢野浩二(やの・こうじ)

バーテンダー、俳優の運転手兼付き人を経てTVドラマのエキストラに。2000年、中国ドラマ「永遠の恋人(原題:永恒恋人)」に出演し、翌年に渡中。中国現地のドラマや映画に多数出演するほか、トップ人気のバラエティー番組「天天向上」レギュラーを務める。現在、中国で最も有名な日本人俳優。2011年、中国共産党機関紙・人民日報傘下の「環球時報」主催「2010 Awards of the year」で最優秀外国人俳優賞を日本人として初受賞。中国での活動10年となる同年10月、自叙伝「大陸俳優 中国に愛された男」(ヨシモトブックス)を出版。

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