<コラム>日本で使ってはいけないワード=でも、北朝鮮でなら女性を笑顔にさせる

北岡 裕    2018年3月24日(土) 20時20分

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北の女性は確かに美人揃い。特に外国人が訪れるホテルやレストラン、バーにいる女性はきれいな人が多い。写真は04年撮影。平壌で初めての夕食の際に出会った女性。ツアー客のほぼ全員が固まっていました。筆者提供。

平昌オリンピックの前半戦を彩ったのはやはり北朝鮮だった。玄松月三池淵管弦楽団団長。特使として訪韓した金正恩委員長の妹、金与正氏。そして美女応援団。微笑み外交が空気をつかんだ。

北の女性は確かに美人揃い。特に外国人が訪れるホテルやレストラン、バーにいる女性はきれいな人が多い。講演などで彼女たちとのスナップショットを見せると「おお!美女軍団!」と声があがる時もあるが、訪朝した者としては彼女たちのことを外見だけで判断してほしくはない。実際に彼女たちと朝鮮語で話してみると、ひとつひとつの仕草が素晴らしい。さらに会話も洒脱で頭の回転のよさが際立つ。彼女たちとの会話は訪朝の際の大きな楽しみだ。

さて、顔もよくて頭もいい。非の打ちどころがない彼女たちを目の前にすると訪朝者は、彼女たちの印象に残る何か気の利いたことを言ってみたいという気ばかりが焦る。でも美女を前にすると口ごもる方がほとんど。何とかひねり出した一言は「かわいいですね」「きれいですね」という凡庸なもの。ああ冴えない。ああ残念。それだけでは全然、彼女たちに伝えたい魅力の何分の一も伝わらない。

そしてその程度のことは彼女たちも言われ慣れているのだろう。「ありがとうございます」とはにかんでみせたところで会話は完結してしまう。そして移動時間がやって来る。タイムアウト。さらに一歩先へ。それが今の課題。例えばカラオケバー。平壌駅前にある店には二度ほど行った。ここは特にきれいな女性接待員が揃っている。彼女たちを前に固まる訪朝者を前に、同行する北側の担当者、案内員もにやりと得意げな表情を見せる。彼女たちも緊張している訪朝者であるぼくたちを、どこか余裕ありげに見ている。

ここでひとつ使えるキラーワードがある。それが「南男北女」。会話を再現してみよう。「今日一日平壌でぼくはたくさんのスローガンを見ました。読めはしますが、やっぱり資本主義と社会主義の違いなのか理解は難しいですね」。案内員も女性接待員も予想外の会話の始まりに怪訝(けげん)な顔をするが、構わず続けた。

「でもね今、この瞬間完璧に理解できたことばがあります。それは南男北女です」。南男北女とは、日本語で言うなら「東男に京女」。男は南が格好良く、美人は北に多いとの意味。北に美人が多いのはロシアの血が混ざっているからではないか?という話も聞いたことはあるが不明だ。これで女性たちは大喜び。案内員も笑いながら「申し訳ないです!わたし北の男で!」とノリノリでツッコんでくる。さらに調子に乗って、自分の面相の悪さは黙殺し「申し訳ないですが本当に残念です」と無慈悲に返すとさらにウケる。これで一気に場が盛り上がる。つかみは成功だ。

だがこの南男北女はあくまで朝鮮半島限定でウケる表現。日本で使うのはまずい。もし在日朝鮮人の素晴らしく美人な女性の方と席を同じくすることがあったとしたら。平壌での成功体験を思い出して、ここでも「南男北女」を使ってみようなんてよこしまな下心は決して起こしてはいけない。

コンプライアンスやセクハラとの理由からではない。女性の外見をとやかく言うなんて、という人としてのモラル故でもない。そもそも、日本にいる在日朝鮮人の多くが朝鮮半島南部の出身なのだ。つまり、多くが南女。そのため明らかにつるっと滑る。場合によっては怒りを買う。

つまり「南男北女」はあくまで北朝鮮滞在中限定のキラーワードということ。逆に韓流スターにはまっている淑女の読者の方がいらっしゃいましたら、韓国でぜひ使ってみてください。もしかすると何かいいことが起こるのかも知れません。

■筆者プロフィール:北岡裕

76年生まれ。東京在住。過去5回の訪朝経験を持つ。主な著作に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」。コラムを多数執筆しており、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」では異例の日本人の連載で話題を呼ぶ。講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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