<このごろチャイナ・アート&A>二つの故宮博物院〜中台雪解け加速、分けられない政治とアート・コラム

Record China    2009年2月18日(水) 10時21分

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「このごろチャイナ・アート&A」は最近の中華圏における「アートそしてアーキオロジー(考古学)」に関する動きを、レコードチャイナの写真ニュースを軸にして紹介。不定期配信。今回は交流が本格化しつつある中台の二つの故宮。写真は台北の故宮博物院。

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2009年02月、台北市にある国立故宮博物院の院長が2月に北京訪問、翌3月には北京の故宮博物院院長が台湾訪問し、中台60年間の歴史の中で初めて正式の相互訪問が実現しつつある。両博物院の学術交流はすでに十数年続いているが、今回の交流本格化は昨年台湾側に対中接近をうたう馬英九政権が誕生したためだ。

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北京側の収蔵品を台湾に貸し出す形で、今年10月に台北で開かれる清朝皇帝「雍正帝」の特別展が初めて合同開催される見通しだ。

■中台の分裂を象徴する存在が急接近

かたや「世界の4大博物館」、かたや「世界文化遺産」と国際的に著名な「二つの故宮」は、台湾海峡にある要塞・金門島と並んで中台の分裂を象徴する存在だ。10月の合同展に向け現場のキュレーターはすでに、展示候補品の洗い出しから、打ち合わせ、移送の手配など大変な作業に忙殺されているだろう。

こうした政治が絡んだ展覧会で思い起こされるのは1999年、中国の建国50周年を機にロンドンで開かれた「陝西省文物精華展」。当時の国家首脳である江沢民氏も訪英しただけに大規模な準備が展開され、大英博物館側の担当者の述懐では、「最初のうち中国側は月並みな展示物候補しか示さなかったが、大英博側の要求でそれまでに公開されたことがなかった多様な展示が実現した」という。その成果はこの時一瞬だけの「消えもの」ではなく、「Gilded Dragon〜Buried Treasures from China’s Golden Ages」(by Carol Michaelson、 British Museum Press)という書籍に結晶している。89年の天安門事件の悲劇から10年が経過し、国際社会に徐々に復帰しつつあった中国にとってはおろそかにできないという政治環境もこの展覧会の充実を後押ししたと思われる。

アート愛好者としては、やはり第二次世界大戦から国共内戦という歴史的な経緯から二つに分かれてしまった中華民族の宝を一まとめに見てみたいと素直に思う。端的にいえば、世界遺産に登録された北京の紫禁城という大きな器の中に、かつて国共内戦が激化する1948年に大量に(ただし精選して)台湾に持ち出された逸品を眺めることを想像するのは楽しい。

ただ、台湾側は今のところ、首相に相当する劉兆玄行政院長が中国本土への貸し出しについて「本土側が差し押さえ免除に同意しなければ実現は難しい」と強い警戒感を示しており、こうした夢想の実現は難しいとみられている。

 しかし、中国がもし台湾所蔵の品々を差し押さえたり、すり替えたりすれば、世界の美術・博物界に恥をさらすだけではなく、政治的にも「中台統一」という建前を自ら葬り去る愚挙である。まあ、人間の歴史はそういう愚挙にあふれているのかもしれないが。

早期の台湾独立を求める勢力の一部からは、「独立と引き換えに故宮博物院の文物を中国に返そう」という主張もあるそうだ。

それでも、愚挙がなければみながハッピー、もしあっても、統一を望まない台湾側の勢力にとっては変な意味で「メリット」が出てくるのだから、「美術品数60万8985件冊」「すべての所蔵品を見るためには8年余りもかかる」(ネットの百科事典Wikipedia「故宮博物院」の項)という膨大な所蔵品の百点やそこらくれてやるつもりでやってみてもよかろうに。と思うのは、門外漢の暴論だと言われるのだろうか。

 台湾側のメリットはひとつ合同展にとどまらない。融和姿勢を強める中国に対して、経済面での譲歩などさまざまメリットを探る手がかりにもなるし、たとえば所蔵品を半永久的な「貸与」などの形で貸し出せば、金銭面でのプラスにもなる。07年2月に新装オープンとなり充実したとはいえ、点数が多すぎて展示しきれないほどの所蔵量なのだから、活用すべきだろう。

多すぎる収蔵品は中国の兵馬俑や日本の縄文土器など、世界的な価値を持ちながら、活用しきれていないようにみえる品々と似ている。大英博物館の日本担当者はかつて「世界最古の土器である縄文土器が展示できればぜひほしい」と言っていたし、兵馬俑についても世界のアート・博物館関係者の気持ちは同じだろう。

■「百利」あって「一害」もない交流の拡大

 中台に限らず国際的な交流の拡大は、見る側にとって「百利」あって「一害」もない。展覧会で貴重な品々を見ることができるだけではなく、先に紹介したような書籍といった形で資料、データベース化も進む。

今回は、中台の接近ほどの大きな政治的な流れであれば、10月の展示会にとどまらずアートの世界でもさまざまな成果が期待できる。1999年当時のロンドンのキュレーターたちが頑張って壁に大きな穴を開けたように、中台双方の専門家の奮闘が待たれる。ちなみに「二つの故宮」はそれぞれに、英語ばかりか日本語版の解説もホームページで展開して日本の観光客への対応にも努めている。(文章:Kinta)

■プロフィール Kinta:大学で「中国」を専攻。1990年代、香港に4年間駐在。06年、アジアアートに関する大英博物館とロンドン大学のコラボによるpostgraduateコース(1年間)を修了。08年「このごろチャイナ」を主体とした個人ブログ「キンタの大冒険」をスタート。

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