木口 政樹 2017年11月12日(日) 14時40分
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韓国では通学時間が2時間とか3時間という学生はざらだ。なぜそんな学生が多いのか。実は韓国の大学事情がなせる業であるとも言える。資料写真。
日本の大学生はどうなんだろう。電車で2時間も3時間もかけて大学に通う子がいるのだろうか。こちら韓国は、通学時間が2時間とか3時間という学生はざらだ。なぜそんな学生が多いのか。実は韓国の大学事情がなせる業であるとも言える。
韓国の場合、ソウルにある大学に通うか、あるいはそれ以外かで大きく二つに分かれる。首都圏の大学と地方の大学というカテゴリ分けである。ソウルにある大学に通うだけで「そうなの?ソウル大学に通ってるんだ。すごいね」と言われるくらい、ソウル圏にある大学に通うことが韓国の高3生にとっての夢なのである。もちろんソウル大学とソウルにある大学では違うのだけれど、こんな認識があるということなのである。
日本では、東京にある大学に通うだけで「おお、東京大学に通ってるんだ」とはならない。東京にある大学といってもピンからキリまであるからだ。韓国の場合ここがまずちょっと違うところだ。ソウル圏にある大学のなら、箸にも棒にも掛からないようなところは基本的にない。ソウル圏にある大学に落ちた学生はどこへ行くか。ソウル近傍の都市にある大学に行くことになる。
筆者の勤めている大学がまさにそういうソウル近傍圏の大学に相当する。近傍といっても本当にソウルに近い所もあるし、ソウルからはかなり離れている所もある。そういう意味ではうちの大学はかなり近くに陣取る大学だ。地方の大学としてはレベルの高い方に当たるわけである。だからソウルに住む学生たちが非常に多い。ちょっとの差でソウル圏の大学に行きそびれた学生たちだ。
彼らの多くは、乗り換えなども含めて2時間、3時間の通学時間となる。入学直後の1週間くらいは、これから4年間通えるのかと一時悩むそうだが、すぐに気を取り直し「頑張ろう」、ということになるらしい。朝4時、5時起きして来るのである。
学校に来るだけでも大変なので、学期中すべての講義に出席していながら成績が振るわないからといってFをつけるのは教授としては至難の業だ。実質上、出席さえしていれば、Fは最低でも免れるというのがわが大学の内部事情だ(原理原則通りにFをつける教授もいるにはいる)。故にせっせと出席を取ることになる。
筆者は、某地方の国立大学の出であるが、理系であったこともあり、専攻での授業では教授の先生たちは出席というものを取ったことがなかった。出席したくない者はしなくてもいい、といったスタンスだった。出席しないとテストでどうあがいても60点以上取ることは無理なのだ。友達のノートを借りて勉強しても、授業での教授の話を聞いてないとテストの問題は解けないのである。
筆者が学生の頃は感じたことがなかったけれど、今にして思えばなんと格好良いスタンスだろうか。来たくない者は来なくていい。ただしテストで合格点を取れればの話だが、って。教授としてはこれくらいの迫力でやりたいものだ。
そんな授業をやりたいのはやまやまだが、来たくない者は来なくていいなどとやったら、誰も来ないことになるのは目に見えている。私の所属は日本語学科である。学生たちは教室に来て勉強した方がもちろん日本語が上手になることは確かだが、教室に来なくても、家で教科書で勉強しても十分なんとでもなる。語学系学科の泣き所でもある。無理やり学生を出席させないといけない。
話は変わるが、通学時間2時間の子がカンニングをした。女子学生。私の科目のある一つの授業の中間テスト。こそこそとはやっているが、必要もないのに大きく伸びをしたり、頭に手をやって髪をいじったり、どうも動作が大きい。その合間合間に下腹部に抱えているかばんの口の間からちらちらとカンニングペーパーをのぞき見している。ばればれである。
テストを終えてから件の学生を残らせた。「ソヨン、君はちょっと残りなさい」。これだけで普通の学生なら目を丸くしておどおどするのだが、ソヨンはさも何気なさそうに「はい」と言うなり、次の私の言葉を待っている。カンニングをしていたことを指摘し、学校に報告したら君は退学だよ、とちょっと脅してやった。
反省の色はあまり見えなかったが、今回だけは大目に見てやってもいいけど、またやったらその時は覚悟せねばならんよと、それほどとっちめるような態度ではなく卑劣な態度(カンニング)に対する反省を期待するといった風情でその場はまとめ、帰らせた。
次の日、研究室にソヨンが手紙を持ってやって来た。キョースニム(教授)に伝えたいことがあって、これ、持ってきました。後で読んでくださいと言うなり、そそと出て行った。
クリスマスカードのようなカードに小さな字でびっしりと書いてあった(韓国語で)。
こんにちはキョースニム。学番○○○番のキム・ソヨンです。
昨日の私の過ちに対しとても済まない思いでこんな手紙を書くことになりました。よき忠告、正しい指摘をしてくださり、とても感謝しております。
一方ではとても申し訳ない思いでいっぱいです。キョースニムのお言葉通り、深く反省し、今後はこんなことは絶対にないようにいたします。
一番好きな教授にこんな失望する姿ばかり見せることになってしまい、申し訳なさでいっぱいです。
今回が初めてであり、今後はこんなことでは絶対なく、もっと懸命に勉強する学生としてまた学生会の幹部としてよき姿をたくさんお見せしたいと思います。見守っていてください。
日本語では私の思いを全部は書けないのでこのように韓国語で表現しました。いつも感謝しております。寒さに負けないようにしてください。ソヨン 拝
人間誰でも魔が差すということはあるものだ。しかも通学時間2時間の子だ。現行犯で残らせた時には、反省の色が見えない感じがしたけれど、あれはたぶんあまりにもびっくりしてしまってボーっとしていたせいなのであろう。学生を軌道修正してあげるのが教育者としての基本ではないか。けなげにこんな手紙まで書いて持って来ている(いくら韓国でもこういうことはそれほど一般的ではない)。
二度と卑劣な行動はしないことを期待して、ここは大目に見てやろうじゃないか。筆者は決して道徳心の高い方ではない。うそはつくし約束をほごにしたりもする。しかしカンニングだけはやったことがない。あまりにも小ざかしく恥ずかしい行為だ。こういうことをするかしないかは、人間、生まれた時から決まっているのかもしれない。「更生」を期待しても無駄なのかもしれないが、教師としては学生を信じてやるしかないのもまた事実だ。ソヨンには、何かをつかんでほしいところだ。
■筆者プロフィール:木口政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。
■筆者プロフィール:木口 政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。 著書はこちら(amazon)Twitterはこちら※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。
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