<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・劉翔の世界記録破られる…その時、劉翔は?

Record China    2008年6月18日(水) 0時35分

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6月12日、チェコで行われていた陸上のゴールデン・スパイクで、男子110m障害が行われ、21歳のデイロン・ロブレス(キューバ)が12秒87の世界新記録をマーク。北京五輪を前に“新王者”が誕生した。写真は08年6月、北京五輪テスト大会での劉翔。

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劉翔が“王者”の座を譲る…

現地時間6月12日、チェコで行われていた陸上のゴールデン・スパイクで、男子110m障害が行われ、21歳のデイロン・ロブレス(キューバ)が12秒87の世界新記録をマークした。これは、中国の劉翔(24歳)が2006年7月11日にスイスのローザンヌ国際で出した12秒88を0秒01縮めたもので、北京五輪を前に、“新王者”が誕生したことになる。

21歳のロブレスは2006年ユース世界選手権の110m障害で2位となり世界デビュー。劉翔より若く、同年代での成績は劉翔を上回っていることから、「最大のライバル」とも目されていた。今年の世界室内選手権では、判断のミスから予選落ちするなどしたが、今年は心身ともに充実しており、技術的にも急成長を遂げ、コンスタントに記録を伸ばしていた。

これまでの自己ベストは去年出した12秒92だったが、今回は、これを一気に縮める快走となった

一方の劉翔は、先週末のプレフォンテーヌ・クラシックで、フライングのため失格。先月末には太ももの筋肉の違和感で、スタート直前に棄権するなど、五輪を直前に控えて、雲行きが怪しくなっている。

中国の人たちのショックも大きい。世界記録保持者として「王者」の立場で、北京五輪を迎え、華々しく金メダルを取る…という筋書きが崩れてしまったわけだ。ネット掲示板の書き込みには「がっかりした」「(劉翔は)CMに出るのを減らしたほうがいいのでは?」という失望と批判が入り混じったものもあるが、また「記録が破られるのは当然。また破り返せばいいこと」「僕は劉翔を信じている」という激励の書き込みも続々と寄せられている。むしろ新聞メディアのほうが「北京五輪の結果を暗示しているのでは?」などという評論も見られ、「思わぬ展開」に戸惑いを隠せないようだ。

当の劉翔は今朝、記者の取材を受け、まずは「ロブレスにおめでとうといいたい」と語ったあと、「ロブレスに記録が破られるのは時間の問題だと思っていた」と平然と言い放ったという。「これで北京五輪では最高の戦いが出来る」と語り、「五輪では絶対に負けない」と健闘を誓っていたそうだ。

アスリートは、それぞれの思惑で北京五輪に向けて、コンディションを作っているのであり、一つ一つの大会の結果で一喜一憂する必要がないのは言うまでもない。ロブレスの身体能力における「最初のピーク」がここで到来したにすぎず、彼らレベルの次元において、この「王者入れ替わり」と北京五輪とは何ら関係はない。

ただ、それを分かった上で、敢えて野次馬的に言うと、これで大いに面白くなった、と思う。

劉翔はもう“王者”ではない。若くて伸び盛りの「キューバの星」に挑む挑戦者であり、彼にとっては五輪2連覇と世界記録の最更新という二つの目標がまたも目の前に現れたことになる。“王者”である劉翔は、プレッシャーを気にも留めていないようではあったが、それでも、国内外から寄せられる圧力は、見ていて気の毒なほどだった。そこから「挑戦者」と変わった劉翔が、そして新たな目標を持った劉翔が2ヵ月後の鳥の巣でどんな走りを見せるのか。ロブレスと劉翔の頂上決戦がますます面白くなってきたといえよう。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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