<コラム>地域格差が激しい中国の汚水処理、農村部の実情と主な問題

内藤 康行    2018年5月27日(日) 21時20分

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中国の2016年度の農村汚水処理率は22%となり、都市部の汚水処理率に比べて相対的に低いものの、年間増幅が上昇している。写真は中国の農村。

中国の2016年度の農村汚水処理率は22%となり、都市部の汚水処理率に比べて相対的に低いものの、年間増幅が上昇している。経済条件など諸要因の影響で、異なる地区の農村汚水処理率の格差は非常に大きい。現在農村汚水処理施設の建設は大多数が経済発展地区に集中している。2016年に公布された「中央1号文件」では明確に「都市・鎮管網の延伸、集中処理と分散処理などの多様方式、農村生活汚水整備とトイレ改革」を採用すると要求している。これを背景に、農村汚水処理は急成長前期に入っており、今後中国の汚水処理産業の重点の一つとなりそうだ。市場が形成されればその潜在力は巨大である。

現在、農村汚水処理には3方式があり、管網敷設区域内での集中処理、村落汚水集中を近隣施設で処理、分戸汚水原始処理に分けられる。

【現段階の中国農村汚水整備の進捗と実情から見る主要問題】

1、農村汚水排出基準の欠如。現在中国には農村汚水排出基準が存在しない。農村汚水排出基準らしきものは、大方は都市汚水処理施設汚染物排出基準を参考にしている。さらに厳しい排出基準を採用している所もある。

2、科学的策略システムの欠如。農村汚水の類型は複雑で、規模が小さく、排出が分散し、不安定と、区域で大きな格差がある。そこで農村汚水処理方式と技術システムの適応性が重要であるが、現在科学的な策略システムが欠如しており、技術とプロセスの選考では担当者の主観と随意性が大きい。

3、設備品質認証システムの欠如。現在中国の農村地区で採用される汚水処理技術と設備類型は非常に多いが、品質がまちまちで不揃いである。

4、保障と管理監督制度の未整備。調査結果では、完工後の農村汚水処理施設の多くが維持管理困難な状態にあり、正常運転率が低いと報告している。その原因は長期効率運営の保障と管理監督制度が未整備のためだ。

【農村汚水処理問題、膜技術が急浮上】

中国の汚水排出量は多く、水資源不足は深刻な重圧状況にある。このため膜技術による高効率な汚水処理方式に大きく依存すべきと、決議している。関連調査によれば、2000年から2017年9月まで、中国共有膜技術関連特許件数(発明、実用新案と外観を含む)は2万4340件(公開日件数による)に上る。膜材料とプロセス運転コストは低下傾向にあり膜技術はその経済性を顕著に示している。

あるシンクタンクの研究報告「2018-2023年中国汚水処理産業市場の見通しと投資戦略分析報告」によれば、2016年の中国水処理膜業界の市場規模が600億元(約1兆400億円)、このうち膜製品規模が190億元(約3303億円)、膜エンジニアリング市場規模が410億元(約7127億円)だった。2020年では膜産業市場規模は3800億元(約6兆6000億円)、膜製品市場規模が1200億元(約2兆800億円)、膜エンジニアリング市場規模は2600億元(約4兆5200億円)に達すると予測している。

前出のシンクタンクの農村汚水処理市場規模予測では1600億元(約2兆7800億円)に達するとしている。データで見ると、農村集中汚水処理施設は2010年の1748施設から2016年には3530施設(101.95%増)に増加し、汚水処理能力も962万トン/日から1527万トン/日(年8.05%増)に増加している。分散型汚水処理装置は2010年の1万732件から2016年には1万4584件に増加、汚水処理能力も634万トン/日から1315万トン/日(年12.93%増)に増加している。

集中汚水処理施設の汚水処理能力を年平均8.05%増と計算すると、2020年には汚水処理能力は2081万トン/日に達し、2016年から増加分の554万トン/日を3500元(約6万900円)/トンで計算すると、汚水処理施設投資額は194億元(約3372億円)に上る。他方管網投資と汚水処理施設投資の比例は2.5:1で計算すると、集中汚水処理の総投資額は679億元(約1兆1800億円)に達する。

同様に、分散型汚水処理能力を年間平均12.93%増で計算すると、2020年には、汚水処理能力は2139万トン/日に上る。2016年から増加分の824万トン/日だったが、仮にこのうち50%を小型一体化汚水処理装置で採用するとして、トン当たり投資額を2万元(約38万円)/トンで計算し、残りの50%を3000元(約5万2000円)/トンで計算すると、分散型汚水処理総投資規模は948億元(約1兆6400億円)に達する。農村汚水処理市場1627億元(約1兆1800億円)の根拠は此処にある。

■筆者プロフィール:内藤康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般とそれに関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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