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<コラム>アリババに死角はあるか、B2B篇:零售通、営業庁、国際站は中小企業に寄り添う?

高野悠介    2020年9月18日(金) 10時20分

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中国メディアから、アリババの話題が途切れることはない。カリスマ創業者、ジャック・マーが退任して1年経つが、業績は好調そのものだ。写真は中国製の靴。

中国メディアから、アリババの話題が途切れることはない。カリスマ創業者、ジャック・マーが退任して1年経つが、業績は好調そのものだ。最近はグループ企業アント・グループ(旧アント・フィナンシャル)のIPOが、大きな話題となっている。そのアリババには、本当に死角はないのだろうか。最新の報道からアリババの戦略を探っていこう。今回はB2B篇(零售通、営業庁、阿里巴巴国際站)である。

■多様なB2Bサイト

アリババには少なくとも5つの主要B2Bプラットフォームがある。そこへ「営業庁」が新設された。

アリババの創業事業はB2Bである。企業のホームページをアップして、新しいB2Bビジネスをマッチングする仕事だった。今では「淘宝」「天猫」など2Cビジネスばかり注目されているが、B2B事業はバリバリに健在だ。

阿里巴巴国際站…1999年創業以来の歴史を持つ。全世界のバイヤー(貿易商、卸売商、小売商、製造商)に優秀な中国サプライヤーをマッチング。

1688網…オリジナルの名称は「阿里巴巴中国交易市場」、国内中小企業間の取引仲介サイト。

淘工廠…2013年スタート。サプライヤーと良質な工場をマッチング。

零售通…2015年、1688網から中小小売業向けの部分を、零售通として分離。小売店舗のオンライン化を推進し、効率経営を支援。

農村淘宝…2014年スタート。地方政府と提携し、全国10万の農村物流ステーションを設置。100億元(1550億円)を投資。

これらに加え「営業庁」が新しいB2Bビジネスの窓口になるという。

■“地上部隊”営業庁を設置

アリババはこのほど、ネット通販出店者のための運営センター「営業庁」を開設した。これは何を意味するのだろうか。

防疫期間中、淘宝への新規出店者は、前年同期比で2倍に増えた。1日4万人が淘宝で“創業”したことになる。とくに輸出企業が、国内内販へ参入するケースが目立った。この1年では新たに15万の100万元(1550万円)ショップ、2000を超える1000万元(1億5500万円)ショップが誕生した。

とにかく防疫期間中、苦境に陥った中小商店や工場が淘宝に殺到した結果、システム運用やサービスにおいて、新しい運営モデルが必要になった。営業庁はそれらの問題に対処するオフラインセンターである。

全国初の営業庁は8月中旬、浙江省金華市にオープンした。顧客に接近し、その要望に応えるとともに、新たな企業を発掘する。金華営業庁の目標は、5000社をアリババ系ネット通販へ引き込むため、2万社を“養成”することにある。アリババは通販サイトを“空軍”、営業庁を“地上部隊”と位置付けている。

またこの地上部隊は、今後予想される受注生産モデルC2B、またはC2M(Customer to Manufacture)への橋渡しも期待されている。

■零售通、中小商店の売り上げを2倍に

零售通は最近、新政策を発表した。これまでの小売店政策をさらに強化する内容だ。

中国には600万のオフライン零細小売店があり、その背後には600万の家庭と1000万以上の従業員がある。日々2億の消費者に接し、日用品業界売上の40%に貢献している。

零售通は8月末、“W計画”を発表した。全国150万の社区(コミュニティ)の小売店に、デジタルオペレーティングシステムを開放する内容だ。零售通と菜鳥(物流子会社)は共同で、サプライチェーンを構築する。それにより5000のサプライヤー、1万以上のチャンネルから新商品の供給を受けられる。

現在、オフライン零細小売店の平均日販は3000~5000元(4万7000~7万8000円)程度と見られる。それがW計画に加入すれば、1万元(15万5000円)突破も有望という。アプリと零售通POSを利用するだけで済み、実際にPOSを導入した20万店では、日販が5800元(9万円)アップしたそうだ。

■国際站は世界一の越境Eコマース

アリババは最近「阿里巴巴国際站深度報告」を発表した。国内企業のB2B輸出業務は、まだ初歩的段階にあると考えている。その理由は以下3点にある。

1…越境EコマースB2Bのデジタル化率は2~3%に過ぎず、まったく進んでいない。

2…世界の産業サプライチェーンにおいて、中国企業の輸出は不可欠のピースである。

3…従来型輸出貿易は、経路が複雑で市場情報に乏しい。

阿里巴巴国際站の活躍する余地は大きい。2020年3月期決算では、売上96億元(1500億円)と前年比17%伸びた。190の国家と地区、2000万のバイヤー、20万のサプライヤー、と取引し、すでに世界一の規模だ。

今後の課題は、売上構成を標準化することにある。2019年は、会費50%、営業サービス30%、サプライチェーンサービス20%だった。これを33.3%ずつ均等に持っていく。商品売上以外のサービスを重視する。新たに輸出を試みる中小企業へ、税関、物流、送金、決済など、ワンストップサービスを提供していく。その成果か、2020年4~6月期売り上げは、前年同期比43%増と、伸びは加速した。

■まとめ…B2B事業は健在

アリババのB2B事業は、零細商店や個人事業家へのビジネスインフラを提供する、という設立当初からの理念を守っているようだ。零售通や国際站は、守るだけでなく積極的な攻勢に出ている。一方、農村淘宝の一部機能などは、時代にそぐわなくなっている。しかし、アリババの新しい状況にアジャストする能力は極めて高い。次に何を打ち出してくるか、楽しみですらある。当面アリババは、中小企業にとって、不可欠の存在であり続けそうだ。死角らしきものは見当たらない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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