<在日中国人のブログ>公園で出会った見ず知らずのお年寄り、彼が残した疑問とは…

呂 厳    2017年3月11日(土) 11時20分

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日本に長く暮らす中国人の男性が、公園で見ず知らずのお年寄りに声をかけられた。

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私がその日、用事を終えたのは午後3時過ぎだった。窓の外には穏やかな日の光が降り注いでいる。コートを手にした私は近くのコンビニでコーヒーをテイクアウトし、その先にある公園のベンチへ向かった。スマートフォンを手に午後のひと時を楽しんでいた私が頭を上げたのは、日光が突然さえぎられたような気がしたからだった。

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私が視線を上に向けると、そこには元気そうなお年寄りの姿があった。彼は会釈をして私の横に座り、「今日は天気がいいですね」と一言。私も礼儀として「本当に。上着もいらないくらいです」と返した。

このお年寄りの名前は松井さんという。本人の自己紹介によると、昭和2年(1927年)生まれの90歳だ。松井さんはとても自然に雑談を始め、持っていたバッグに入れていたノートから何枚もの写真を取り出して私の前へ。思い出話に合わせて見せてくれる写真はパワーポイント的な効果を生み出し、私というたった一人の聴衆はいとも簡単に彼の話を理解したのだった。

松井さんの話は彼の小学校時代からスタートした。同級生と野球に熱中した時間はとても楽しかったという。1944年に米軍が東京を爆撃し始めた時は他の子どもたちと一緒に山形県に疎開し、終戦後に戻ってきた東京はどこも戦争の傷跡だらけ、生活はとても苦しかったそうだ。そんな中、偶然に出会った同級生ともう一度野球をやろうという話になったが、米軍の反対に遭ってしまい、憤りを感じつつ断念。「ようやく試合が実現した頃には30歳を過ぎていた」と教えてくれた。

松井さんが高度成長期のチャンスを手に入れようと立ち上げたのが、衣料品メーカーだ。70人を超える従業員を抱え、警察の制服を手掛けたこともあるという。ただ、ずっと経営が順調とはいかず、融資を受けるために銀行に再三足を運んだことも。そんな彼だが、40年前には現在暮らしている家を建てることができた。「窓を開けるときれいな風景が見える」のが、特に気に入っている点だそうだ。松井さんは妻、娘、息子の4人家族。本人の言葉を借りるとすでに独立している子どもは2人とも努力家で、息子さんは大企業で重要なポストに就いているという。奥さんとの2人暮らしはとても穏やかで、毎日の日課は「1日1万歩」と「読書50ページ」。病院でたびたび検査を受けているが、医師からは「とても健康なので来なくていいですよ」と言われているらしい。本の好みは以前は純文学に熱中、最近はSF小説がお気に入りと聞いた。

松井さんの思い出は昭和、平成という2つの時代をまたいでいる。雑談と言うより、日本の近代史を振り返っているようだ。そんな事を考えていると、松井さんが私に向かって突然「ここの土地の人とは違う、なまりが…。ご出身はどちら?」と尋ねてきた。早春のこの時期は太陽が沈むと気温もかなり下がる。松井さんの質問に答えられなかった私は空のカップを手にぎこちなく挨拶し、その場を去った。冷たい風が吹く中で彼と一緒に戦後の中国の発展を振り返りたいとは思わなかったからだ。

家路につく頃、辺りには街灯がともっていた。私の頭からずっと消えなかったのは「どうして松井さんはあの写真を持ち歩いているのだろう?寂しいから自分の思い出話を聞いてくれる相手を探していたのだろうか?」という疑問だった。ただ、私はやはり見ず知らずの人間と自身のエピソードを分かち合ってくれた松井さんに感謝している。彼と彼のご家族が健康で楽しい生活を送られることを願ってやまない。

■筆者プロフィール:呂厳

4人家族の長男として文化大革命終了直前の中国江蘇省に生まれる。大学卒業まで日本と全く縁のない生活を過ごす。23歳の時に急な事情で来日し、日本の大学院を出たあと、そのまま日本企業に就職。メインはコンサルティング業だが、さまざまな業者の中国事業展開のコーディネートも行っている。1年のうち半分は中国に滞在するほど、日本と中国を行き来している。興味は映画鑑賞。好きな日本映画は小津安二郎監督の『晩春』、今村昌平監督の『楢山節考』など。

■筆者プロフィール:呂 厳

4人家族の長男として文化大革命終了直前の中国江蘇省に生まれる。大学卒業まで日本と全く縁のない生活を過ごす。23歳の時に急な事情で来日し、日本の大学院を出たあと、そのまま日本企業に就職。メインはコンサルティング業だが、さまざまな業者の中国事業展開のコーディネートも行っている。1年のうち半分は中国に滞在するほど、日本と中国を行き来している。興味は映画鑑賞。好きな日本映画は小津安二郎監督の『晩春』、今村昌平監督の『楢山節考』など。

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