八牧浩行 2017年2月1日(水) 7時50分
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トランプ氏は大統領に就任して以降、大統領令を連発、選挙中に公約したことを実行に移しているが、対中強硬策はいまだ具体的に打ち出されていない。その行方を追った。写真は大統領に就任したトランプ氏。
トランプ氏は大統領に就任して以降、大統領令を連発、環太平洋連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉宣言、メキシコ国境への壁建設、中東アフリカ7カ国からの入国禁止など選挙中に公約したことを実行に移している。こうした中で、対中強硬策はいまだ具体的に打ち出されていないが、最大の貿易相手で巨大な消費市場・中国との全面的な経済戦争を回避する水面下での交渉が行われているとの見方も根強い。
トランプ氏大統領就任前に中国関連で打ち出した政策は、(1)「通貨操作国」として中国を指定(2)中国からの輸入品に45%の関税をかける―というものだった。これらに対する中国政府の反応は抑制的なものにとどまっている。昨年12月以来中国の高官が政権移行チームと面談したことが明らかになっており、水面下で交渉が行われている公算が大きい。
「通貨操作国」指定問題では、既に中国経済の減速から人民元レートが下落しており、人民元安を食い止めるため、ドル売り人民元買い介入をしているのが現状。介入をやめれば人民元はさらに下落するので「通貨操作国指定」は現実的ではない。
「中国製品に45%の関税をかける」ためには、様々なシナリオが考えられる。「1974年通商法」では輸入品がアメリカ国内市場を席巻することで国内産業に深刻な打撃を与える危険がある場合、当該産業を一時的に保護するための暫定措置として大統領令を発することができる。ただ暫定措置を講じようとしている対象商品に関しては、全ての国からの輸入品に同様の扱いをしなければいけない。
世界貿易機関(WTO)は、「WTOの調停機能を使うことをせず、WTOの承認なしに罰則を課すことはルール違反だ」と主張。この批判を受けて米国は「WTOの承認なしにUSTRが罰則を課すことを禁ずる」ことを成文法化している。
いずれにしても、中国製品だけをやり玉に挙げて高関税を付与するのはハードルが高い。中国でビジネス展開している米多国籍企業や米議会の反発も予想される。
米国にとって中国は最大の貿易赤字国だが、中国から米国への輸出品のうち半数以上は、多国籍企業はじめ米国関連企業の現地生産などによるもの。リーマンショックで経営不振に陥ったGMなど米3大自動車メーカーは中国への輸出や現地生産で息を吹き返した経緯がある。日本の対米輸出のほぼ全量に日本企業が関わっているのとは異なると指摘されている。
トランプ政権が「対中制裁」を強行した場合、中国側が報復措置を講じる可能性もある。中国共産党機関誌・人民日報の国際情報紙「環球時報」は「トランプ大統領が中国に高関税を課すなら、iPhoneの売り上げは打撃を受ける」と警告している。
今や世界最大の消費市場となった中国市場は自動車をはじめ米国メーカーにとって不可欠のマーケット。締め出されたら経営へのダメージは甚大だ。具体的には、(1)米中合弁計画や米企業による中国企業の買収の差し止め(2)米国からの新規投資の制限(3)米企業を標的とした民事・刑事の訴追―など。さらに米国債の売却も選択肢になり得る。習主席が15年9月に訪米した際、米ボーイングから737型機など計300機(約4兆6000億円)を購入すると発表したが、この約束を撤回することも可能だ。
外交筋によると、安全保障面でも(1)南シナ海でのパトロールを強化し、軍用機や軍艦の通行を禁止する(2)島造成計画をさらに促進する(3)北朝鮮に接近し、金正恩主席を北京に招く―などの対抗措置も考えられるという。
習主席は1月17日、スイスで開催された世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」で講演し、「(米国の)保護主義に反対する。貿易戦争をすれば、結局は双方が負けることになる」などと強調。トランプ氏を強く牽制した。
こうした中、世界190カ国・地域でインターネットを通じてサービスを提供するアリババグループの馬会長は今年1月9日、トランプ氏と会談。中小企業による中国向け商品販売を支援することで、米国内に100万人の新規雇用を創出する計画を提案し、歓迎された。発展途上の中国企業にとっても米国市場の魅力は絶大だ。1月初旬に米・ラスベガスで開催された家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」では、出展企業約3800社のうち、中国企業は3分の1を超えたという。
トランプ大統領は、名うての“商人”で、取引上手だが、世界に雄飛した華僑のネットワークを持つ中国実業家も負けていない。“米中戦争”が勃発すれば両国だけでなく世界経済に甚大な打撃となり、各種マーケットは大混乱に陥ってしまう。そうならないよう「ウインウイン」の関係構築への冷静な対応が求められる。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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