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<コラム>日中はこういうところでもすれ違う、日中の間に横たわる「原則」の問題について考える

如月隼人    2016年7月29日(金) 11時50分

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日中の間に横たわる「原則」の問題について考える。あ、とは言っても政治上の問題を大上段に書こうというのではない。でもまあ、つながりはあるなあ。言葉についての問題です。資料写真。

日中の間に横たわる「原則」の問題について考える。あ、とは言っても政治上の問題を大上段に書こうというのではない。でもまあ、つながりはあるなあ。言葉についての問題です。

ずいぶん前のことです。たまたまテレビで国会中継を見ていた。小泉元首相の靖国神社参拝で日中関係が険悪化した時のことです。小泉政権の割と初期で、田中真紀子氏が外務大臣を務めていた時代の話。答弁に立った田中外相は「ですから中国は、この問題を『原則』と言っております」と述べた。と、すかさず野次が飛んだ。「単なる原則だろ!?」――。

ええと、細かい言い回しはかなり違っていたかもしれません。でもこの「原則の問題」、私は自分自身が経験したことがあるので、「こういうところでも日中がすれ違っちゃうんだよな」と改めて思ったので、今でもよく覚えているというわけです。

「原則」と書けば、日本語も中国も「原則」のこと。まあ、中国では簡体字(略字体)を使いますし、発音も違いますが、「原則」は「原則」としか訳しようがない。

ただ、言葉の訳というのは単語の問題に限ったとしても、対応する訳語を正しく選べればよいというものではない。その単語を使う際の習慣といった問題も出てくる。

日本人が「原則」という言葉を使う時、「原則はそうだけど、ここは柔軟に」なんて言い方をしますよね。むしろ、柔軟に対応することを強調しようとして、「原則」という語を持ち出したりする。

ところが、中国人は違うのですよ。日常会話では日本人と同じような使い方をする場合もありますが、公式の場で「原則」と言えば「原則なのだから変更は不能」という意思表明になります。先ほどの件も、中国側が「原則」と言ったということは「日本の首相の靖国神社参拝に反対しており、この件に関しては譲れない」という極めて強い主張なのです(ここでは主張の是非については論じません)。

ただ、それを日本人に伝えるのは、ちょいと難しい。中国語でこの「原則」という言葉が出てくるたびに、日本の読者の皆様にどうお伝えすればよいのやらと、さんざん悩みました。何しろ「原則」は「原則」としか言えない。「すでに定められた条件」とか「前提」なんて訳したこともありますが、なんかダサい。

そのうち、中国人が「原則」と言った場合、日本語訳では「大原則」とすることを思いついた。「日本国首相の靖国神社参拝は容認できない。これは大原則だ」とすれば、発言のニュアンスが比較的伝わりやすい。

日本も中国も漢字を使っているだけに、中国事情をお伝えする際には、こんな苦労をすることもあるのですよ。

さて、私といえば、中国語の「原則」を「大原則」と訳すことを思いついて、大満悦。ところが先日、ある人が「大原則からは、はずれるかもしれないが、現実的な対応として…」と話すのを聞いてしまった。ありゃりゃりゃりゃ、どうしよう。そういう話し方をする人はあまりいないようですが、この言い方が日本で広まったのでは、中国語の「原則」を「大原則」と訳すテクニックも通用しなくなる。困ったなあ。(7月27日寄稿)

■筆者プロフィール:如月 隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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